第100話 反転、防衛戦の始まり
「全隊退却を確認!」
若い騎士団団員が、ヴォルクにそう報告した。
無線でも、各員の無事と撤退を確認している。
ヴォルクは長いため息を吐いて、椅子に腰掛けた。
欠けることなく、首都への攻めるフリ・・・からのダメージを与えられたのは重畳ではある。
だが、全く危なくなかった訳ではない。
敵側にいる転生者が軒並みいない中で、それでも、冷や汗をかく場面はあった。
イチゴが相手した侍風の剣士。
奴隷兵も、ミハエルが扇動して、無力化しているが、全体でみればほんの一部に過ぎない数だ。
そして、ヒロとクローナの相手した魔法使い。
倒せこそしたが、クローナのよく分からない復活が無ければ、やられていた。
落ち着いて見てみれば、完封出来ているのは、ノエルたちと、シルヴィくらいだ。
そして、教会本殿に忍び込んだモルアナ。
短い時間だったので、そこまで調べれた訳ではないが、その本殿に、まだ転生者は複数いたらしい。
そう、無線で報告を受けた。
「勝ち筋・・・手繰り寄せねぇとなぁ」
ヴォルクの呟きは、思ったよりも、深刻そうに聞こえた。
モルアナは、無線である程度様子を伝えると、教会本殿から脱出する。
まぁ、さして収穫はなかった。
強いて言えば、そこそこの教会本殿の造りを調べて、内部の状況を把握した程度。
次攻める際の参考にはなるかと思う。
次なる作戦や、敵戦力に関するものが、もう少し詳しくわかればなぁと、惜しい気持ちを少なからず抱いていたモルアナは、慌ただしく走る伝令兵を見つける。
首都侵攻で対応している兵士ではないようだ。
マントを羽織り、砂埃で汚れている。
明らか遠くから来ている風貌であった。
前線の伝令兵だと踏んだモルアナは、もう少し隠れて、その伝令兵の報告を盗み聞こうとする。
伝令兵は、本殿にいた上官らしき兵士に報告をする。
「報告します!前線大隊ですが!帰還の命を受けたものの!総司令官の王の御意志により!寄り道をされるとの事!」
モルアナは怪訝な顔をして、一瞬理解できなかった。
寄り道?どこに行くつもりだ??
それは、上官も同じだったようで、慌てた様子で聞く。
「しゅ!首都が襲われているのだぞ!どこへ行こうと言うのだ!!」
上官が伝令兵の肩を揺さぶるが、伝令兵も、困った様子で答える。
「だ!大隊は!反抗中の貴族派及びレジスタンスどもを叩きに!そ、そして一部は!グラン王国へ!」
モルアナは、危うく声を出しそうになったのを、寸前で押し込む。
頭の中では、想定外の敵の動きに、何故という疑問が尽きなかったが、最も優先すべきことは、分かりきっていた。
より詳細を聞きたい気持ちを堪えて、教会本殿から脱出する。
(早く・・・早く!伝えねば!)
モルアナが逸る気持ちで、本殿屋根から飛び出たところで、鋭い雷が背中を掠める。
激痛と、しまったという後悔。
焦りから、油断が生まれていた。
空中で体勢が崩れる。
かろうじて振り返り、見ると、同じ種族のエルフであると気付く。
だが、肌の色が浅黒い男だ。
ダークエルフだろう。
とんがった耳に、黒髪、そして、杖を構えて、こちらを捉えていた。
モルアナは、バレたなら仕方ないと、次の行動に出る。
無線機を掴み、情報を伝える。
「至急・・・敵の前線大隊は、貴族派とレジスタンスの鎮圧に向かい、さらに一部は・・・グラン王国へ向かう」
繰り返す、とモルアナは続けた。
遠いダークエルフの杖は、またバチバチと雷を溜めて、こちらに放出しようとしている。
空中では、これ以上、回避不能だ。
モルアナの、掴んだ敵情報は、無線で全員に伝わる。
モルアナは、伝え終わると、無線機を投げた。
この無線機は、使用者であるモルアナから離れれば、勝手に転移する。
次の瞬間、ダークエルフによる雷魔法が、放たれ、激しい轟音を立てた。
「おい!モルアナ!返事をしろ!モルアナ!」
ヴォルクが無線機に怒鳴るが、もう返事はない。
一瞬、ヴォルクは無線機を持ち、振り上げかけるが、堪えた。
怒りのコントロールには、慣れていると思っていたが、上手くいくと思った手前のこのイレギュラー発生に、久方ぶりの負の感情が、全身を駆け巡った。
嫌な流れに、感情は一切ストップさせる。
無線機からは、仲間たちからのわちゃわちゃとした疑問の嵐が、ノイズと同じく入り乱れている。
「ちょ!モルアナどうしたの!?」
「ねぇ!グラン王国がとかって!嘘でしょ!?バレちゃったの??」
「ゴッド様を守らなきゃ!!」
「レジスタンスたちはどうするの!?」
ヴォルクは、すぐには答えない。
今、頭の中で、この局面をどう乗り切るか試行しているためだ。
いや、本来で言えば答えは決まっている。
(オレたちはアイハンド領へ帰る。そこで敵襲を迎え討つ・・・これが当然にしてただ一つの答えだ)
自分達はゴルドの部下である。
そのゴルドが窮地となるなら、貴族派は当然ながら、レジスタンス達だって構う暇などない。
だが、この答えを言っても、当のゴルド本人は認めないだろう。
そこをどう説得したものか・・・いや、説得など度外視して、オレの命令で全員帰ってしまえばいい。
そこまで考えたところで、混線する無線から、彼の声がする。
『うぇ~~い、みんな聞いてくれる~~?』
軽い調子の、いつものゴルドの声だ。
無線の混戦が、一斉に静まる。
全員、ゴルドの声を、待っていた。
『まず。2チームに分かれてちょうだい。片方はヴォルクが指揮で、もう片方はミハエル頼む』
ヴォルクは割って入ろうと口を開くが、ゴルドは隙を空けない。
『貴族派への襲撃は捨ておこう。少しでも彼らと疲弊してくれると・・・いいなぁってところで。んで、レジスタンス側へ、連戦で悪いが向かってくれ。2チームが、別れてレジスタンスと協同してくれ』
ゴルドの指示が終わり、ようやくヴォルクが口を挟める。
「ボス!そっちにも敵が向かっている!オレたちは帰還すべきだ!」
ヴォルクの言葉は、ヴォルクだけが思っている訳ではない。
ヒロも、シルヴィも、ミハエルも・・・誰もが、そう思っている。
だが、我らが領主は、カラカラと笑いながら言った。
『任せとけよ~。こっちには、ローガンを筆頭に、ミツキ、ベルネシア、ワカバと、頼もしい面々がいるんだから』
だからさ、と、ゴルドは続ける。
『今逃げ帰っても、敵が全員集まって、体制を整えて、一斉にウチ来たほうがまずいんでしょ?・・・それだけはダメだ。オレを守るのが大事なんじゃない』
ーーーーこの領を守るために、戦うんだ。
ヴォルクは、それを聞いて、唇を噛み締める。
おそらく、美月に作戦を立ててもらったのを、ゴルドは読み上げているのだろう。
さすが量子頭脳だ、領主の命ではなく、領土を守るという意味では、そっちの方が正しい。
今バラけている敵なら、各個撃破がしやすい。
その理論は分かるが、分かってゴーを出す領主がいることに、ヴォルクは笑う。
今まで出会った雇い主で、己の身よりも、何かを優先させる指示なんて、初めてだ。
「「「「了解!!」」」」
全員が、返事をする。
第二ラウンドの、防衛戦が、幕を開けた。




