夜のほとりで待ち合わせ 11
義父が車に戻り出発した。集合場所で無事吉野と合流する。
吉野はやわらかな黄色の振袖を着ていた。長い髪をきれいにセットし、ミユキを見付けるとうれしそうに楽しそうに微笑む。
「お互い異次元な感じだね」
「ふは、確かに」
顔を見合わせて笑い合った。あとから続いた両親に吉野が頭を下げる。
「お久しぶりです、おじさん、おばさん」
「久しぶりね、吉野ちゃんきれい!」
「ヨシノ! ヨシノ! 美しい!」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。いつもは撮る側の吉野もまた、今日は撮られる側だった。ツーショットを撮ると張り切り出した母に何度もシャッターを切られる。
「ユキのお母さん、お母さんって感じで本当好きだ」
「あはは、ありがと」
「ユキのお父さんは見てておもしろくて本当好きだ」
「私も父さんは本当におもしろいと思う」
式典のホールは広くて大きい。ひとの流れが全てそちらに向かう。
「父さん、あのさ」
「今日は僕にエスコートさせてほしいな! ヨシノ嬢、さあ手を」
おどけた様子で義父が恭しく吉野に手を差し出す。くすくす笑いながら吉野がその手の上に自分の手を預けた。
「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
吉野は片目が義眼だ。彼女にとって狭い視界は日常の一部だが、こういった人ごみ、尚且つ自分が不慣れな格好をしている時は注意が必要だ。
吉野にはいつだってなにも気にせずのびのびと笑っていてほしい。ミユキが頼む前に動いてくれた義父に感謝しながらもう一度吉野と笑い合った。
母が父以外に愛した人間は、そういうひとだった。
二時間ほどで式典は終了した。よくニュースになる『新成人が壇上に乱入し』云々は特になくスムーズな進行で。まあ、竹刀などよくわからないものを持ち込もうとしていたひとたちは軒並み入り口で守衛に止められていたが。
ミユキも吉野も中学時代の集まりには参加しなかった。式典が終わり、学校ごとのブースに各自集まるような流れになったがそこで退散して来た。それよりも、と、ミユキと母と吉野を車に乗せ近くの公園まで行く。
「いいスポットだろう? ここでたくさん写真を撮ろう!」
どう連絡を付けたのか不思議だったが、そこには吉野の彼氏とその先輩である『雪ねえ』もいた。吉野の彼氏はスチールカメラマンなのでこの時点でカメラマンは母からそのひとに自動的にシフトする。
「あーもう! ほらほら見て! 二人ともなんてきれい! 新成人だよ! なんてめでたい!」
「雪見うるさい。・・・・・・成人おめでとう。二人ともとってもきれいだよ」
「同じこと言ってるじゃん!」
「うるさい雪見」
雪ねえこと雪見とその親友であるひととのやり取りが相変わらずおもしろい。性格もキャラも全く違うがこの二人は本当に仲がいい。
「ほらほら三崎くん! 撮って! カメラマンでしょう、このお嬢さん二人のこの美しい姿撮り放題だよ! お金払ってもやりたいでしょう!」
「先輩頼む声落として・・・・・・あっちの家族連れがドン引きしてるから・・・・・・」
なんだかかわいそうな吉野の彼氏―――三崎に写真を撮ってもらう。撮られる側は慣れないので少し緊張する。
「リトルハッピー! スマイルー! エガオーッ!」
「ユキー! 硬いわよー!」
「うわあああかわいいいいいい!」
「うるさい雪見」
「・・・・・・」
努めて無心になろうとしている哀れなカメラマンと、その外野と。
「・・・・・・中学の集まりに全く顔出さないなんて普通だと少しさみしいことなのにね」
「・・・・・・そういう雰囲気皆無だよね」
お互いに中学時代はあまりいい人間関係を築けなかったわけだが―――だからこそ高校時代がとても尊い。
「・・・・・・よかったね、私たち」
「うん?」
「中学別々で。・・・・・・中学時代に会ってたら、絶対こんな風にはなれなかったから」
「うん」
吉野の言葉にうなずく。
誰だって、逃げたい時はある。




