夜のほとりで待ち合わせ 10
鏡の前にいる自分は自分ではないようだった。母も成人式で着たという艶やかな赤色とそれと合わせた金と白の帯。髪飾りだけは購入し、七五三の時に使った小さな髪飾りは気を効かせた着付けの女性が帯に挿してくれた。背中に挿されているので自分ではよく見えないが、母親が撮ってくれた後姿の帯を見ると確かにそれがいいポイントとなっている。かわいい。
一晩明けて、早朝から乗り込んだ美容室の鏡の前で完成系を家族に疲労した。前撮りの時義父とトウマは来れなかったのだ。
結局義父はカメラマンをしていなかった。下手だから、なんてことはなく(実際義父の腕はごくごく普通だ)、ただ単に出来なかったのだ。号泣していて。
「なんて・・・・・・なんてきれいなんだろう・・・・・・なんて立派になったんだろう・・・・・・僕たちのリトルハッピー・・・・・・ああ・・・・・・見ていますか、あなたの娘さんはこんなにも美しい女性に・・・・・・うぅっ・・・・・・」
DNA的には日本人だが海外育ちの義父は感動の度合いが大きい。手にしたミユキの血の繋がった父親の写真が入った写真盾を手に先ほどからあまりきちんと話すことが出来なくなっている。今滅茶苦茶な商談を持ち込まれたとしても義父は「ああ・・・・・・なんてうつく(以下略)」しか言わないだろう。話にならない。
なのでカメラマンは母が務めていた。母も母でとても満足そうな、うれしそうな、それでいてどこか泣き出しそうな顔をしていたがそれは悲痛なものではなく、どこまでも満たされた幸福感に満ち溢れていた。
「すごくきれい。とってもよく似合ってる」
「ユキ、きれー!」
「ありがと」
両手をちょっと広げてくるりと回って見せると義父が歓喜の声を上げて天井を振り仰いだ。なんかごめん。
きれいだよ。
「・・・・・・」
「ユキ、そろそろ時間みたい。一度家に帰らなきゃだし。吉野ちゃんもそろそろでしょ?」
「あ、うん。そうだね」
壁にかかった時計を見てうなずく。保護者同伴は成人一名につき一名まで―――なのだが、吉野がチケットを一枚譲ってくれたのでミユキの母も養父もどちらとも式典に参加してくれることになっていた。吉野も含め四人での参加だ。残念ながらトウマは留守番なので一度車で家に送ることになっている。
お礼を言って美容室を出て車に乗り込んだ。締められているし靴も草履だし着慣れていないしの三拍子でとても歩き辛い。袖を引き摺らないように軽く折って開けてもらった後部座席に乗り込んだ。
「ユキ、動き方ミヤビー」
「どこで習ったのその単語・・・・・・。なかなか動けないだけだけどねー」
美容室から家までは近い。あっという間に家に着き、義父とトウマが一度家に入った。義父は泣き過ぎたので顔を洗いたかったらしい。
「・・・・・・あのさ、お母さん」
「なあに?」
「・・・・・・写真、撮ってくれる?」
「? いいけどここでいいの?」
「いいの」
一眼のレンズキャップを母が外した。その黒々とした筐体がこちらに向けられる。ミユキのカメラであるそのカメラは、向けることばかりで向けられることは少なかった。
「設定、これでいい?」
「うん、大丈夫」
「よし。・・・・・・はい、笑ってー」
シャッターが切られる。
ミユキは笑わなかった。
ただ黙って、そのレンズを見つめた。




