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夜のほとりで待ち合わせ 9



 意識せずとも、月日は風のように流れる。

家族が海の向こうからやって来たのは成人式の前日のことだった。

「ごめんね、本当はもう少し前に帰って来たかったんだけど」

久々に再会した母は開口一番申し訳なさそうにそう言った。玄関で出迎えたミユキは首を横に振る。

「大丈夫だよ。わざわざ来なくても大丈夫だったのに」

「娘の晴れ姿を見ないでどうするの」

「ごめんねユキ。俺が風邪引いちゃって出発ずれちゃったんだ」

「大丈夫だよトウマ。気にしてくれてありがとう。・・・・・・またずいぶんと身長のびたね」

「もうユキより大きいよ」

「ははは、そんなわけ・・・・・・な、ん・・・・・・だと・・・・・・?」

玄関から廊下に足を踏み入れた弟と向き合って絶句した。そんな、馬鹿、な・・・・・・いやだって夏に会った時はまだぱたぱたとミユキのうしろを付いて来る子犬のようだったというのに。

「毎日ミルク飲んでるからね」

「いやわたしだって飲んでるよ・・・・・・なんだ、成長期? わたしには碌になかったのに・・・・・・」

あっちの牛乳、成長剤でも入ってるんじゃないのと落として義父と向き合う。弟と姉か旧交をあたため終わるのを待っていたのかうずうずとした義父ががばっと両手を広げた。

「リトルハッピー! ようやく会えた!」

勢いそのままにハグされる。相変わらずのテンションの高さだな、と思いながらぽんぽんと腕を叩いた。

「無事に着いてよかった。・・・・・・ご飯、まだ途中なんだ」

「ユキ! 半熟卵! 半熟卵!」

「あー、ごめん、明日作るね」

「ないのっ? 帰って来る時はいつも作ってくれてるのに!」

あっちの国の半熟卵―――は、両親もなんとなく抵抗があってトウマには与えていないらしい。だから味付きの半熟卵が大好きだトウマはこっちに来るとここぞとばかりにそれを希望する。いつもは事前に仕込んでおくのだが、今回は全くなにもしていなかった。

「こらこら、トウマ、リトルハッピーは明日成人するんだよ? いろいろと準備があるんだ。困らせてはいけない」

「・・・・・・ごめんね、今度作るよ」

「・・・・・・本当?」

「うん」

「約束ね!」

「うん」

微笑む。頭を撫でようとして、やめた。

その時ポケットでスマホが鳴った。ディスプレイを見て応答する。吉野からだった。

『今大丈夫?』

「平気。ちょうど全員揃ったとこだよ」

『お、よかった。・・・・・・明日の成人式だけど、最終確認ね。明日は支度が済んだら駅前で御影カーを待てばいいんだよね?』

「うん、父さんが運転してくれるから拾ってく。・・・・・・支度の方は問題なさそう?」

『全く。というより今回私何もしてないんだけどね。雪ねえたちがなんだかものすごく張り切ってくれて。着付けの予約とかよくわからないからかなり甘えちゃったよ』

「いいんじゃないかな」

雪ねえ、というのはもちろんミユキではない。吉野が中学時代からお世話になっているひとで、吉野の彼氏を含め家族ぐるみのような付き合いを持つひとだ。ミユキも何度も会ったことがある。雪ねえとその親友である幼馴染の女性とのやり取りを聞くのが好きだった。

「それじゃ、また明日」

『うん、明日』

 通話を切る。ぱたぱたとトウマが駆け寄ってきた。

「今のヨシノ? ヨシノなの?」

「うん、そうだよ」

「俺もヨシノと話したかったのに!」

 ふくれるトウマのうしろで母がにやにやと笑い、ミユキと目が合うと口元でその笑みを隠した。トウマがヨシノのことを好きだということは家族全員が知っている。それからヨシノも。残念ながらトウマと出会った時には既に吉野は今の彼氏と付き合っていたし、なんというか、うん、見ていて本当にかわいいなこの子は。

「明日ちょっとなら会えるよ。振袖着てるからきっと吉野いつもよりすごくきれいだよ」

「ユキも着るんでしょう?」

「着るよー」

「そして俺はカメラマンだ!」

「父さんよりユキの方がカメラ撮るの上手いのに」

「あはは。でも流石に自分は自分で撮れないかな。鏡でも使わなきゃ」

 久しぶりなはずなのに一度再会をよろこべばもうそこには壁もなにもない。毎日一緒に暮らしているように会話は続く。

 それが家族で、これが御影家だ。

「・・・・・・」

 なんの不満も、ないさ。



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