夜のほとりで待ち合わせ 7
ひとりで帰って来た家。家族で暮らし、家族が海外へ行ったあともひとりで暮らしている家。
ひとりで家を出て、ひとりで戻って来た。・・・・・・それだけの、はずだった。
「・・・・・・ただいま」
自分が今きちんと地を踏みしめているのかわからないまま、リビングに足を踏み入れて―――呟く。
返って来るわけはない。誰かが居るわけはない。
彼は、一度もこの家に居たことはないのだから。・・・・・・それでも。
ミユキ
幻聴のようなやさしさが一瞬だけ浮かんで、そして消えた。
「・・・・・・」
無言。
沈黙。
ここは、静か。
「・・・・・・」
上着のポケットに手を入れる。ずっとずっと、右ポケットに入れていた自分の存在意義のひとつ。
ライターは、なくなっていた。
「・・・・・・ふふっ」
小さく笑みが零れた。ふらり、ふらりと足が泳いで壁に肩を付ける。
「ふふっ、ふふっ、ふふふふふっ、ふはっ・・・・・・」
くつくつと身体を震わせてそのまま力を失いずるずると座り込む。冷たいフローリングの上で壁に凭れ、抑えきれない震えと共に温度もなく笑う。
「ふふ、ふは、ふはははっ・・・・・・ふふふ、ふふふ・・・・・・っ」
たったひとつの証すら、あなたは残してくれなかった。
きっと湖に行った時だろう。あの時そっと抜いておいたのだろう。
まるで夢幻のような旅だった。なにも形に残らない数日間だった。
ひとりで出て行って
ひとりで帰って来た
ただ、それだけ。
それだけのことなのに、こんなにも哀しい。
こんなにも、こんなにもわたしは哀しい。
「あははははっ・・・・・・」
まるで忘れてくれとでも言うように。全部ぜんぶ、あなたは覚えて後生大事に抱きしめている癖に、ミユキにだけ全部忘れろとあなたは言う。
「・・・・・・死にたいなあ」
そうだ。
死にたい。
このまま哀しく笑ったまま冷たい床に倒れ込んでそのまま起き上がらず、いつかミユキの不在に気付いた誰かがすっかり朽ち果てて気配も匂いも漂わせなくなったミユキを発見すればいい。
―――もうさ、
手に入らないのなら
全部ぜんぶいらないから。
―――誰か、終わらせてくれませんか。




