夜のほとりで待ち合わせ 6
それからのことはあまりよく覚えていない。
泣きじゃくりながらオーリと共に家に帰って、オーリのベッドに横たえられた。
オーリはどこかに電話していた。それがディーだとわかったのは、しばらくしてやって来たからだった。
二人はリビングで話をしていた。それほど長い時間ではなかった。きし、きし、と階段を上がる音がして、静かにディーが部屋に入って来る。
「・・・・・・ミユキ」
それは求めていた声ではなかった。
だから、横たわったまま振り返らなかった。
「・・・・・・僕が君を空港まで送る。チケットの手配も、全て済んだ」
沈黙。
それから、青く染まった声。
「・・・・・・ありがとう。あいつを連れて来てくれて、本当にありがとう」
家の前に回された車に乗せられた。抵抗も、反応も、なにも示せない。心にぽっかり穴が空いたかのように、なにも出来なかった。
「安全運転で頼む」
「ああ・・・・・・」
「ミユキ、ディーが全部手配してくれるから。安心していいから」
助手席の横、窓の外からオーリが言う。いつも通りの穏やかな声。いつも通りの―――ミユキの好きな声。
「ミユキ」
それでも、どれだけ心が空ろでも、オーリに呼ばれたら勝手に心が反応する。のろのろと顔を上げると―――オーリは微笑っていた。湖のほとりで浮かべた、心の底から幸せで満たされた子供のような笑顔。
「ありがとう、ミユキ。・・・・・・一生忘れない」
ばたん、と、ディーが運転席に乗り込む音。
オーリの手がのび、ミユキの頬に触れた。
「さよなら、ミユキ」
―――砕けた心が、消えてしまう。
「―――オー・・・・・・」
喉から声が漏れ出た瞬間、エンジンがかかり車が出発した。
ミユキの頬からオーリの手が離れ、その微かな感触を残して遠ざかる。
「・・・・・・っ、オーリ!」
窓から身を乗り出して、どんどん背後に遠ざかるオーリに向かって叫んだ。
「オーリ! オーリ! オーリ!」
―――声なんて。
嗄れてしまえばいい。届かないなら。―――こんなにも叫んでいるのに、どうしようもないのならば。
「オーリ! オーリ、オーリオーリオーリ! オーリ・・・・・・!」
辛い。
苦しい。
息が出来ない。
こんなに強い痛みを、ミユキは今まで感じたことがない。
「オーリ・・・・・・!」
じっと佇んでいたオーリの姿が、ついに見えなくなった。
それでもミユキはずっと窓の外に身を乗り出し続けて―――やがて力を失いずるずるとドアに凭れかかった。
「オーリ・・・・・・」
胸元を握りしめる。きつくきつく、握りしめる。
脳裏に浮かぶのはあの笑顔とあの言葉だった。何度も何度も渦巻くようにミユキにささやきかけ、そして一生忘れられないものだった。
さよなら、ミユキ。さよなら。
さよなら、ミユキ――――――――――




