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君のための日常 10


一時間ほどそうして過ごした。特に会話はない、満たされた時間。

安心した状態でじっとしているとだんだん眠たくなってきて、うとうとと隣の腕にもたれたり目が覚めたりを何度か繰り返していると、オーリの体が不規則な動きをした。抑えたような小さな動き。ぼんやりと目を開けると、煙草を咥えたオーリが左手でもたもたと自身のポケットを探っていた。

「…ライター、わたしが持ってるよ」

「あ、悪い。起こしたか」

「ううん。うとうとしてただけ」

凭れかかっていたから右腕が使えなかったのか。変なところ律儀だなあと思いながらライターを取り出し点けてやる。長めの前髪の間から微かに伏せられた目が見えた。

「オーリあんまりたくさんは吸わないよね」

「んー…考えごとあると吸いたくなる」

「考えごと?」

「考えることだらけだろ、今」

「…そっか」

妙に納得した。長い指先が煙草を挟み、紫煙が掻き消されていくのをなんとなく見つめる。

再びうつらうつらとしていると、とんとんと頭を指先で叩かれた。

「部屋戻るか」

「…ん、いいの?」

「いいよ。あっちが騒がしいようだったら考えるけど」

少しぼんやりとしたまま立ち上がる。あくびをもらしつつラウンジを出た。

全体的に走る振動にたまに小さくよろめきながら、自分たちの部屋の前まで戻る。険しい顔をしたクリスが立っていた。

無表情。なのに、険しい。

「…あの…?」

思わず話しかける。止めようとしたオーリがミユキの肩に手をのばすのが分かったが、それよりも早く列車に大きな振動が走った。劈くような金属音。ただごとじゃない。むち打ちするかのように体が軋み、それから突き出されるようにして放り投げられた。

咄嗟に目を瞑った瞬間、壁や床よりもやわらかい何かに抱きとめられた。クリスだ。その体が強張り、鳩尾部分のジャケットのざらざらした質感に飛び込むようにして頬が押し付けられる。

「ーーー大丈夫か」

「は、い」

あの勢いで壁に突っ込んでいたら脳震盪でも起こしていたかもしれない。ぞっとしながら唇を小さく噛む。

「どうも。返してくれ」

「オーリ。しつれーーー」

失礼だよ。振り返って言おうとして、両肩に手を置かれた。くるりと回され、オーリと向き合う。

「さて」

喉元に当てられた冷たい感触。

「本当に君たちは何だい? ーーー敵なのか、愛すべき味方なのか」

オーリの灰色の目が細められる。

漸く、ミユキは自分が人質になったことに気付いた。



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