番外編 友人から見た幼馴染
番外編です。友人たちから見た幼馴染。
――私の友人たちバカップルの話をしたい。
砂を吐くほどに甘いような日々を過ごす癖に、こいつらは付き合っていなかったという衝撃の事実を私は知った。
その日バイトの後で私はこれまたバイト終わりの当真君と偶然出会い、居酒屋へ直行した。今日の出来事を話し合う。議題はもちろん、友人たちの事である。
友人たちは幼馴染で、生まれた時から仲良くしていたという。趣味も一緒、四六時中一緒。
大学に進学してからは、隣同士の部屋を借りてどちらかの部屋に入り浸りながらゲームやアニメ漫画小説に没頭している。何てことだ。
これが付き合っていなくて何だっていうんだ。私は拳を握りしめて、共通の友人である鈴木当真君にぶちまけた。彼は無言で頷くと、私の肩を叩いた。彼も同じ気持ちだったらしい。
ついでに言えば、校内でだってあの二人は十年夫婦の様に過ごしているのだ。
お昼はさすがに別々で買ったり作ったりしているけれど、昼休みは大体一緒に食事をするし、学部が違えど朝はほとんど一緒だし、帰りもバイトがない日は「~~が食べたい」とか「~~しよう」とか言って独占しやがるのである。
もちろん、私達4人で遊ぶことも多いし、楽しい。趣味がこれほどまでに会う人たちに出会えた奇跡たるや何とも言えないがしかし、私は声を大にしていいたい。
「リア充爆発しろ」
「でも、身近で漫画顔負けのやつら中々いないよ。俺は見てたいけどね」
「私だってそうよ、見てたいし可愛いし萌えるし、でもそれとこれとは別。付き合ってると思ってたんだってば。なんで付き合ってないのよ」
「きっかけがないからじゃないかな」
当真君は、王子様のような顔をして言った。
彼は王子と呼ばれるような容姿のくせして、乙女ゲームや少女漫画が大好きな人である。好きなタイプは気が強くて腕っ節が強くて身長が高くて不器用でS気質のくせに小動物に弱い優しさを捨てきれない女の人だそうだ。見た目は黒髪ストレートでスレンダーがいいらしい。リアルでいるわけねえだろそんな人、と突っ込まなかった私偉い。
ちなみに私の好きなタイプは、強面の筋肉隆々タイプなのだ。それに私は茶髪でゆるくパーマをかけているし、スレンダーには程遠い。よく当真君と付き合っているのかと聞かれるがお互い全く好みじゃないから、と笑っていいきっている。私は美形は二次元で十分だ。
「そろそろくっつくと思うよ」
「ソースは」
「今日の講義中、不機嫌そうだったんだよね優。どうしたんだよって聞いたら」
「…きいたら?」
そこでカシスオレンジ(女子かこいつは)を一口ぐびり、と飲んで当真君はにやりと笑った。
「杏に彼氏ができたらと思うとイラついた。って言ったわけだよ」
「きたー!自覚!自覚きた!」
「俺もう、ここに杏ちゃん呼んできたかった。もしくは一部始終を動画にして送りたかった」
「くっそ、私が分身出来れば…!」
なんだかんだ言って、人の恋愛模様は大好物です。そして、王道・幼馴染・両片想いが好きな私たちが、自分たちの友人を見守らないわけがない。
酒の肴に使ってしまって悪いとは思うけれど、それでもそれをしても有り余るほどの甘さを日々摂取している身としてはこれくらいは赦してほしい。面白がってはいない。もし何かあれば精一杯協力する所存だし、大事な友人だ。
――でも、それとこれとは別である。
「あの二人で小説がかけそうだわ…」
「桜ちゃん、ビール飲めないって言ってなかったっけ」
「肴が甘いからちょうどいいの。これはきたかなー、明日…は早いか。もしかしたらここ一ヶ月の内に勝負付くかな」
「いや、もっと早いかもよ。優は杏ちゃんの事になると行動力抜群だし」
「無自覚バカップル、万歳」
「王道だよねえ、幼馴染」
面白がってるし、肴にはしているけれど。それでも、私たちはあの二人が一緒にいるところが嫌いじゃない。むしろ大好きだ。だからこそ、こうして何とかうまくいってほしいと思い続けている。
別に、昨今の漫画でも見れないようなバカップル・熟年夫婦っぷりを堪能したいとかいう不純な動機だけじゃない。
「明日突いてみよーっと」
「今日も優は、幼馴染と甘い時間を過ごしてるんだよなあ。羨ましい」
「彼女作ればいいじゃない」
「そういうそっちも作ればいいじゃん?」
そうして、私たちはお互いにため息を吐いた。
自分の理想の人に出会うのは、なかなかに難しいのである。
店員さんを呼んでもう一杯アルコールを注文する。20になってから覚えたお酒の味は、大人になったような気がして。
それに、今は友人たちと遊んでいる方が楽しいし、何よりも見ていたいと思う対象がいるので。
「そろそろ皆でゲーム合宿しなきゃよ」
「いいね。もうすぐ連休もあるし」
そういう会話ができるのも良い所だ。
明日はまずどちらをつついてみようかな、なんて思っていたら。
その翌日私たちは少しだけ照れたような杏と、いつも通りの木崎くんに付き合うことになったと告げられて仰天することになった。
「ちょっと一から十まで全部教えて?何があってどうなってどんな感情の変化があったのよ昨日からの時間で!」
「やったな優!スチルはなんだった?」
「ゲームじゃねえんだよ、それから杏も報告すんな!」
思わず二人して幼馴染カップルに詰め寄って、木崎君にドン引きされたのもいい思い出である。
――かくして、大分ぼかされてしまったものの、お互いが当たり前の様に大事だと認識していたのだと気付いた二人は付き合うことになったようだ。断片的に聞いた部分だけでも私と当真君は身もだえました。少女漫画的展開、万歳。
「あの二人見てると、理想高くなっちゃうわ」
「…それについては、同感かな」
同じ学部の女子から、当真君の好みのタイプを聞いてきて!という依頼を引き受けた私は世間話をしながら木崎君と杏がゲーム雑誌を覗き込んでいる姿を見ていた。
お昼を食べながら、それに当真君も同意してくれる。
「ところで。当真君のタイプは?聞いてきてって言われたの」
「前言ったのと変わってないよ。ああ、あと攻めたら初心な女の子みたいな反応してほしい」
だから、そんな人がいるわけねえだろと言おうとして。
強面で筋肉隆々、そのくせほめられると赤くなってスーツが似合う、とかいう私の好みを思い出してため息だけ吐くにとどめた。
――私の理想だって、そもそもリアルにいるわけないのである。
「でもまあ、恋愛は当分いいかな」
「そうだね、見てるだけで十分だし」
何をって、もちろん。目の前で繰り広げられる幼馴染のカップルの事である。