その足取りは、2
「…前方に中型の魔物3、ユニ。」
「はいっと、…チリもアク使いが荒いよね。」
木々の合間を鋭く眺め、チリがユニにそう言い放つ。
その合図を受け。ユニがアクに偵察を頼み、それを聞きアクが上空を旋回する。
アトラスの街の近くから森に入って三日目、【雷の光】のメンバーはそれぞれの役目を全うしながら森の中腹あたりまで入り込んでいる。
ここまでの間、戦闘回数は抑えている。それでも消耗はしているのだ、無闇な戦闘は控え、偵察を頻繁にするべきだろうと言うホルトの指示で先頭のチリはその能力を発揮している。
「…また北に向かってるってさ。」
偵察を終えて戻ってきたアクがユニの肩に止まる。
「またか…。異常だな。」
「異常ですね、…やはり縄張り争いですか?」
ユニの言葉を聞いてホルトが呟く。この三日間、偵察の結果はいずれも同じ。まるで何かかから逃げるように北に向かって進んでいる、と同じような事しかわからなかった。
今回は偵察の為に、【雷の光】のメンバーを風の魔法、【エアコントロール】で匂いが辺りに漏れないように一人静かに魔法を維持しているバランがホルトに向かってそう言う。
「断言は、…出来んがな。」
「全く、どれも同じ情報じゃ埓があかないわ。」
「そうは言ってもなっと。…んでどうする?」
苛立ちを隠そうとしないケイに偵察から戻ってきたチリが首を竦めながら言う。
確かにこれでは埓があかない、情報が全て同じならそれを解明する為に動くべきだろう。
「…仕方がない、動くか。」
ホルトは自分の頭の中でそう結論付け、魔物達が逃げてくる方向。南東の方角へと足を進めるように提案する。
「賛成!さっきから動いてないし、退屈だったんだよ!」
「珍しく意見があったな、私も賛成だ。」
「んじゃ、多数決で決まりだな。元々ホルトの提案に間違いはねぇけどな。」
ユニが切り株から飛び降りながら体を伸ばす、ケイも先ほどからの苛立ちが解消されそうなのか嬉しそうだ。バランは頷き、次の魔法の為の詠唱に入り、チリは颯爽と木に上り進路の確認を始める。ホルトの一言でここまで動けるのは信頼があるからであろう。
ユニの命令でクロも動きだし、一行は荷物をまとめ、森を南東へと進んでいった。
必死な様子でとにかく北へと足を向ける【ハイオーク】の群れが枝をかき分け森を進む。
何から逃げているのか、その足取りは早く、それゆえに注意を払ってはいない。
チリの投げナイフがハイオークの眉間に突き刺さる。それを合図にバランの魔法、【エアサイレント】が回りを包み、ケイが切り込んでいく。
「まずは一匹!」
全部で4匹のハイオークを前に勢いを止めずに突っ込み、眉間に突き刺さるナイフに激怒する一匹の左足を切り落とす。遅れてホルトも登場し、他の三匹を牽制するようにその大盾を前に突き出す。
「二匹抑える、左は任せた。」
足を切り落とされバランスが狂い倒れこむ一匹のハイオークの頭にメイスをぶち込みながらホルトが短く言う。その一言が聞こえているのか、後ろから左のハイオークの脇腹にナイフが突き刺さる。ケイがホルトの後ろから左側に回り込む。
メイスについた血を払うように振り回し三匹のハイオークの間にホルトが割って入る、そこに右側からクロが地を這うように駆けて行きホルトと同じように牽制をする。
ナイフを引き抜きながら恨めしげにケイを睨めつけるハイオークの頭上からアクが急降下し、耳を鋭い嘴でえぐるように通り抜ける。その隙を見逃さず、ケイが首元にロングソードを叩き込む。ホルトがメイスを操りクロを狙い振り下ろされるハイオークの手にある棍棒を逸らす。それを当たり前と言わんばかりにクロは気にせず右のハイオークに飛びかかる。
ロングソードが首の途中まで入り込んだハイオークは最後の力で棍棒を振り回すがあっさりとケイの左手の小盾にいなされ、ナイフが突き刺さったままの腹を蹴られ後ろに倒れ、絶命する。そのままロングソードを手放し、腰からスティレットを抜きクロが押し倒したハイオークの腕に縫い付けるように突き刺す。ホルトは器用に真ん中のハイオークの注意をひきつけ、既に片足の膝をメイスで抉るように破壊している。不意に一歩ホルトが引く、それを合図にハイオークの顔にナイフが突き刺さる。そのままホルトがメイスを力いっぱい頭に向かって振り抜き、頭が破裂したようになくなり、ハイオークは崩れた。
クロに押さえつけられ、武器を持った腕もケイによって地面に縫い付けられたハイオークの戦意は既になかった。
「人型は戦利品がまずいんだよなー。」
「頭破裂させるのやめてくれない?血が飛び散るっていってるでしょ。」
「一撃で仕留めるにはあれしかねえだろ。」
「かっこよかったよー、クロもアクも!」
ゴソゴソとチリがハイオークの体から器用にナイフを使い魔石をえぐり出す。
ケイはホルトに文句を言ってるが彼女も効果的なのがわかってるのかあまり強くではなく、一応言わなくては気がすまない程度だ。
ユニもクロとアクの頭を撫でている。このパーティーにとっては先ほどの敵は驚異ではない。
消耗を抑える為に後方で待機していたバランも慣れたものと言った感じで魔法を解き、一向に混ざる。
「…ホルトっ!!前方に大型、数は1!!」
鼻歌を歌いながらハイオークの死体から魔石を漁っていたチリが不意に声をあげる。
「っ!」
咄嗟に大盾を構えて臨戦体系に移るホルト、音を周囲に漏らさないためのバランの魔法がアダになったか、そう考えながらもあの場面ではそれが正解だったはずだと結論を直ぐに出し、切り替える。
チリが素早く後方に移動し、ケイもホルトの後ろに付く、ユニもバランに連れられ慌てて後方に移動し、クロは草に紛れる様に伏せながら移動し、アクは上空に飛び立つ。
チリからの情報で一番最適な戦陣を組む。冒険者は臨機応変に、相手に合わせて戦う状況を作り出すのは基本だ。
すぐに前方から大きな足音と共にトカゲのような顔が木々の間から飛び出る。そこでようやくホルト達に気がついたのか、威嚇のような鳴き声をあげた。
「…バジリスク、だと…!」
ランクとしてはB、厄介さで言えばAにも届くと言われる魔物がホルト達の前に全身を曝け出した。
魔法の説明など
エアコントロール:周りの空気の循環を操り、ある程度使う人の自由にする。
これでバランは匂いが漏れないように調整していた。
エアサイレント:一定の空間から音が漏れないように風で囲いを作る。
内側、外側で音がある程度消される感じ、ホルト達が戦ってた音は外にもれないけど、逆にバジリスクが近づいてくる足音とかも聞こえない。
ハイオーク:ランクで言うとCくらい、オークより強いんじゃね的な。
タフだが、連携取れたBランク冒険者には蹴散らされる模様。




