その足取りは、3
やれるか?まずホルトは冷静に自分達の戦力の確認をする。
幸いここまで消耗はしているが休憩を挟んでいるのでその分は帳消しと見ていいだろう。
戦闘直後、それを踏まえても殺れると考える。
幸いこの【バジリスク】は小さい個体のようだ、これなら倒せる。
「抑える!」
すぐさま大盾を構え、バジリスクの前へと足を進める。それと同時に詠唱を開始する。
仲間達もホルトの判断を察し、後方で動きを見せる。
「グルルル…。」
バジリスクが低い威嚇音を喉から鳴らすと同時、ホルトは大盾を前に突き出す。
すると大盾がピキピキと音を立て、石に変わっていく。
これがバジリスクの厄介な能力、土魔法の応用で装備、それに人体までも石に変えられてしまうのだ。
「……【キュア】」
すぐさま詠唱していた魔法を発動させ、その石化を解く。徐々に石から戻っていく大盾を構え直し、更に前進する。
バジリスクは魔法を解いたホルトを気に入らないといった感じでひと睨みし、さらに唸り声を上げ、石に変えようとする。
そこに一本の短剣が真横から放たれ、バジリスク首元に当たりの注意を逸らす。いつの間に移動していたのか、チリが木の上から放ったものだ。カツンと音を立てて弾かれたが牽制にはちょうどいいだろう。
それを横目にホルトが一歩前進、その横を風が吹き抜ける。
バランの放った【ウィンドボール】がバジリスクの顔の左側で弾ける。パラパラと鱗が宙に舞い、バジリスクの視界が一瞬ブレる。がすぐに体制を整え、ホルトに向かい押しつぶさんとその前足を叩きつける。それに合わせてホルトも一歩前進し、それを抑えようと大建を突き出す。
「…硬い。」
そう一言呟いて次の詠唱に入るバラン。ホルトがバジリスクの一撃を抑えると信頼しているからか、その詠唱に全く淀みはない。
「くふぅ…!」
大きく息を吐き、ホルトがバジリスクの一撃を大盾で受け止める。
「そこだ!」
それまで後ろに控えていたケイがホルトの背後から飛び出し、ホルトの大盾に振り下ろされた前足にロングソードを叩きつける。ウロコがひしゃげ、血が飛び散る。渾身の力を持って振り下ろされたが、ロングソードは前足のウロコに阻まれ内部までには至っていない。
「チィ…」
バジリスクのもう一つの厄介な問題。それは体を覆うウロコが極端に硬いのだ。自身の能力を使い、ウロコを強化しているのだから当たり前だ。このような相手にはメイスなどの打撃武器が有効なのだが、メイスを持ったホルトは抑えるのに精一杯であった。
バジリスクが振り下ろした前足を引っ込める。初動は完全に【雷の光】の有利。
それを確認し、また一歩ホルトが足を進める。この手の相手に距離を取らせたらダメだ、張り付き、そしてじわじわと体力を削っていくべきである。
違う角度からまた投げナイフがバジリスクの顔に飛んでいく。またもカツンと音をたてウロコを少し削り弾かれる、がそこはチリも百も承知。ウィンドボールが削った場所、その場所のウロコを少しでも削り、注意を逸らすことを第一にする。
うっとおしそうに顔を振りつつバジリスクが唸り声をあげる。そしてなぎ払うように前足を振り回す。
「ぐぅ…!」
ホルトが足を踏ん張り、大盾で押さえ込むようにするが体格の差から軽く吹き飛ばされるように後退する。
そこに間髪いれず、バランの【ウィンドカッター】、ユニの【ファイアーボール】がバジリスクの顔面に突き刺さる。【ファイアーボール】がバジリスクの視界を塞ぐように顔で炸裂し、【ウィンドカッター】がまたもや顔面のウロコを削っていく。残った前足にはいつの間に接近したのかクロが爪でウロコを削るように攻撃を開始していた。
この状態、維持するならばいける!
そう考えて足に力を入れ、また張り付くためにホルトは前進を開始する。
「まっ、待って!やばい!」
「後退準備!前方バジリスクの後方、大型2!!」
いつの間に上空から戻ってきたのか、ユニの傍らにアクがいる。そのユニが大きな声を上げ、警戒をするように叫んだ。それと同時にチリが木からこちらに降り立ち、そう叫んだ。
すぐさま弾けるように皆が撤退の準備を始める。
しかし、そう簡単に撤退をさせてくれる相手でもない。
後方に控えていたチリ、バラン、ユニはともかく。前線のホルト、ケイはジリジリとバジリスクの攻撃を防ぎながらの後退となる。嫌でもその速度は遅い。
「…ケイ!さっさと逃げろ!」
「右足持っていけば逃げれるだろ!やるぞ!」
ホルトは大盾を構え、バジリスクの攻撃を防ぎながらケイに指示を飛ばす。
しかし、それではホルトを残すことになってしまう。それゆえにケイは右足に攻撃を集中させる。
「馬鹿か!サッサといけ!」
そう言いつつもホルト自身も右足に攻撃を集中させる。もしも、ケイが逃げたあと負傷しているバジリスク相手なら逃げきれる可能性があるからだ。
「もうやばいぞ!クソが…!」
チリがそう叫びながらも後方からバジリスクの顔に向かってナイフを投げる。いつでも逃げれる位置でホルト達を援護しているのだ。同じようにバランとユニも魔法を飛ばす。
しかし、現実はそう甘くはない。
「来たぞ!」
チリがそう叫ぶと同時にバジリスクの後方に大きな影が現れる。
「…ケイ、置いていけ。」
「ホルトっ、まだいけるだろう!!」
ホルトが前方を睨めつけ、ケイに静かに言う。それを払いのけるようにケイが叫ぶがどうあがいても無理なことはケイ自身もわかっている。しかし、それでも諦めたくはないのだ。
前方のバジリスク、その後方には更に大きなバジリスク二匹が迫っている。
ホルトはそっと息を吐き、少しでも抑えようと右足を前に出し、そこで止まる。
「なん…、はっ…。」
そう足を止めるしかなかったからだ。




