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六神司院(ロゲルスリン)暗躍

 聖都シリャードの中央にアトランティス議会と並んで、真理の女神ルミリアの壮麗な神殿がある。いまは、その代理人としての神帝スーインは亡く、その一番奥まった部屋で六神司院ロゲルスリン最高神官ロゲルスゲラがたち暗躍している。

 その最高神官ロゲルスゲラの一人クジーススが、今まで何度口にしたか判らぬ非難を口にした。

「まったく。己の愚かさが判っておるのか」

 同じ最高神官ロゲルスゲラのクイールトスとグリポフはうつむいて反論できない。クイールトスとグリポフは最高神官ロゲルスゲラの中でも年若く、軽く見られがちだった。功を焦る気持ちがあったのだろう。

 ルージ国王リダルが戦死し、率いる軍が壊滅したという情報に接したとき、ルージ国はもちろんルージ国と共に兵を挙げたヴェスター国やグラト国も戦意を失うだろうと考えていた。反乱軍が瓦解した所を見計らって六神司院ロゲルスリンから恭順を求める使者を遣わせば、彼らはそれを受け入れるばかりではなく、反乱軍を押さえた六神司院ロゲルスリンの威光は高まるに違いない。ここまでは、クジーススが絵を描いた。想定通りに進めばクジーススの手柄になる。

 その後は、シュレーブ国とフローイ国の二大大国が、六神司院ロゲル・スリンの邪魔になる。彼らはその力も削いでおこうと考えていた。クイールトスとグリポフはそこへつけ込んで手柄を得ようとした。


 二人は共謀し、シュレーブ国内のフローイ軍に毒を盛り、生来フローイ国と仲の悪いシフグナのパロドトスをそそのかしてフローイ国王ボルススを謀殺させた。フローイ国は力を失って混乱し、残る大国はシュレーブ国のみ。そのシュレーブ国はジソー王の政に不満を持つ者が多い。その者たちを煽って内部から崩壊させれば良い。そんな計略を張り巡らしていたのである。

 謀殺は成功し、フローイ軍の力を削ぐことにも成功した。しかし、その混乱をよりにもよってルージ国に利用されて、ルージ国がフローイ国を味方に取り込んだ。潰したつもりだったルージ国を利する結果になったのである。

 グリポフは悔しげに反論した。

「しかし、クジースス殿の策とて、ルージ国、ヴェスター国、グラト国の反逆国を押さえることは出来なかったではありませんか」

 グリポフに自分の失策を指摘されたクジーススは、苛立ちを深めて拳を振り上げた。グリポフが口から血を吹いて地に転がり、折れた歯を掌に吐きだして信じられないものを見るように眺めた。


 最高神官ロゲル・スゲラの一人、ブクススは顔面を血に染めたグリポフを気にする様子もなく言った。

「では、我らの次の手は?」

 クジーススは少し考えて言った。

「シュレーブ国だけでは心もとない。フローイ国に代わる国を付けてやらねば」

「しかし、フローイ国に代わるというても、なかなか見つかりますまい」

 首を傾げるブクススに、クレアナスが人の良い笑顔を浮かべた。悪意のない表情と裏腹に、どす黒く汚れた思いつきを口にした。

「何、アルムやゲルト、ラルト国など神帝スーインの座を餌にすれば釣れよう」

「なるほど餌で釣って飼い、用済みになればその神帝スーインの座で争わせて共倒れさせればよいと」

「しかし、やっかいなのは蛮族共の動向。アテナイの奴らめが、我らの内乱の隙を突いて行動を起こすことはありますまいか」

 ガークトの疑問ももっともだった。アテナイ軍は異民族の占領軍。本来は敵対関係のその軍の司令官に、最高神官ロゲルスゲラが、この内乱の黒幕だという証拠を握られているらしい。戦ばかりではなく、その情報によって六神司院ロゲルスリンに敵対することもあり得る。

 その点について、クジーススはアテナイ軍司令官エウクロスの腹の底を語って見せた。

「奴らに興味があるのはこの地ではなく、この地が生み出す富のみ。適当に餌を与えておけば飼い慣らせよう」

「しかし、シフグナはどうされます?」

「シフグナとは」

「王ジソーは、南のグラト国に目を奪われ、西のシフグナの守りをあまりに軽く見ている様子」

 アトラス率いるルージ軍がシフグナの関所を占領し、シフグナに攻撃の手を伸ばす気配を見せている。もし、シフグナを占領されればシュレーブ国の王都パトローサまで危機にさらされる。

「クイールトスとグリポフの愚か者どもが、独立を餌にシフグナのパロドトスを操ろうとしたとか。シュレーブに援軍を出すようにしむけ、パロドトスの目の前には独立の餌をぶら下げ続けておけば良かろうよ」

「では、シュレーブ国に領地シフグナの守りを固めるよう。シュレーブ国のジソー王に使いを出しましょう」

「いや、今、我々が表立って動くのは疑惑を招く。どうしたものか」

「私に妙案がございます」

「おおっ。ブクススよなにか?」

「私の知り合いに、ルフエラスと申す者がおります。もとシュレーブ国に仕えた役人で、今のパロドトス殿が領主に就くときに国を離れ、今は王都パトローサで暮らしております」

「なるほど。ルフエラスと申せばシフグナに生まれ、王ジソーとも面識があるはず。その者にシフグナの防御を固めるよう進言させるというのだな」

 そんなクレアナスの言葉にブクススが疑問を呈した。

「しかし、その者は希代の忠臣とか。シフグナを離れたのも、パロドトス殿が領主の座を簒奪したときに、本来領主を継ぐべき幼いパレサネ殿を助けて領外へ逃がそうとしたとも聞く。そんな忠臣が我らの申し入れを聞きいれるだろうか」

「忠臣ならば、それを利用すればよい」

「なるほど、パロドトスに代えてパレサネを領主にするよう画策すると約束してやればよいということか」

 クジーススが笑いながら注意を与えた。

「しっ、人聞きが悪い。画策ではない。シフグナの旧臣が懐かしい故郷を訪れ、そこで故郷の危機に直面して、その窮状を王都パトローサの王ジソーに訴えるということだ」

 ブクススが会話を締めくくった。

「我々は関与せず、領主の座が元の血筋に戻るよう祈るのみだな」

 日が射さず、ろうそくの明かりのみに照らされた部屋の中に男たちの含み笑いが響いた。

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