表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

第19話: 君と分かち合う、一生消えない体温

城門の外で聖騎士たちを退けた後、私はリリアーナを抱きかかえ、誰の邪魔も入らぬ最上階の寝室へと戻った。

部屋の隅々まで、私の荒れ狂う魔力で氷の結界を張り巡らせる。

ここはもう、世界から切り離された二人だけの聖域だ。


ベッドに横たわるリリアーナは、浅い呼吸を繰り返し、その肌は白磁のように透き通っている。

彼女の中の「太陽」は、今にも消え入りそうなほど小さくなっていた。


「……リリアーナ。私の声が聞こえるか」


私は彼女の隣に横たわり、その細い体を壊さないように抱き寄せた。

彼女の首筋に顔を埋めると、微かな、けれど確かな命の熱が伝わってくる。


私は決意した。

彼女の熱を吸い取る私の「氷」を、逆に彼女を支える「器」に変えるのだ。

呪いを受け入れるのではない。呪いさえも、彼女を愛するための力に変えてみせる。


私は目を閉じ、自らの魔力の奔流をリリアーナの心臓へと流し込んだ。


(……見つけた)


意識の深淵。

そこは、果てしなく続く氷の荒野だった。

その中心で、小さな、小さな金色の光が、今にも凍りつきそうに震えている。


「……リリアーナ!」


私が叫ぶと、その光が微かに揺れた。

近づこうとすると、私の足元から鋭い氷の棘が突き出し、彼女を拒絶しようとする。

私自身の魔力が、私の愛を阻もうとしているのだ。


「……どけ。彼女は、私のものだ」


私は、自分の腕が凍りつくのも構わず、その氷を素手で砕きながら進んだ。

血が流れるそばから凍りついていく。けれど、痛みなど感じない。

ただ、あの温もりに触れたい。その一心だけで、私は光に手を伸ばした。


ようやく指先が、その小さな温もりに触れた瞬間――。


「……旦那、様……?」


リリアーナの声が、私の脳裏に直接響いた。

氷の荒野に、一筋の陽光が差し込む。


「……なぜ、こんな寒いところまで……。早く、戻ってください。……あなたは、温かく……いなければ……」


「馬鹿なことを言うな。……君がいない場所に、私の帰る家などない」


私は、その光を包み込むように、自らの銀青色の魔力を広げた。

冷たい魔力で彼女を凍らせるのではない。

彼女の熱が逃げないように、優しく、強固な「壁」となって彼女を守るのだ。


「……リリアーナ。私を、信じてくれ」


「……はい。……ずっと、信じて、いました……」


私たちの魔力が、螺旋を描きながら混ざり合っていく。

私の「氷」が彼女の「熱」を冷まし、彼女の「熱」が私の「氷」を溶かす。

奪い合うのではなく、与え合う。

氷と炎。相容れないはずの二つの力が、一つの完璧な円環(ルビ:サイクル)を描き始めた。


(ああ……なんて、温かいんだ)


魂の奥底から、涙が溢れ出す。

孤独だった二十七年間。

私は、この瞬間のために、あの寒さに耐えてきたのかもしれない。


現実の世界で、私はゆっくりと目を開けた。


腕の中の重みが、変わっている。

冷え切っていたリリアーナの肌に、薔薇のような赤みが差し、その瞳がゆっくりと開かれた。


「…………おはようございます、ジークフリート様」


その声を聞いた瞬間、私は彼女を押し潰さんばかりに抱きしめた。


「……っ、ああ。……ああ……リリアーナ……!」


「……ふふ、苦しいです。……でも、すごく、温かい……」


リリアーナが私の背中に手を回し、優しく撫でてくれる。

もう、私の冷気が彼女を害することはない。

私の「氷」は、彼女という太陽を輝かせるための夜空になったのだ。


「……離さない。……一生、私の腕の中から逃がさないぞ」


「……はい。……逃げる場所なんて、もうどこにもありませんわ」


リリアーナは私の耳元で囁くと、幸せそうに目を細めて、私の胸に顔を埋めた。


窓の外では、あれほど猛威を振るっていた吹雪が止み、雲の隙間から星が瞬いている。

北国の長い冬が、今、静かに終わろうとしていた。


私たちが分かち合ったのは、消えることのない体温。

そして、神さえも引き裂くことのできない、永遠の呪い――という名の、至高の愛だった。

第19話でした。

互いの魔力を循環させることで、呪いを超越した二人。

「もう逃げる場所なんてない」というリリアーナの言葉に、彼女側の深い執着も感じていただけたでしょうか。


「二人が本当の意味で一つになった……感無量です!」

「閣下の涙が、ついに喜びの涙に変わってよかった!」

と感じてくださった方は、ぜひ【評価】や【ブックマーク】をお願いします。


次回、第20話(最終回)「世界で一番、春が似合う夫婦」

数年後。呪いが解け、激甘がカンストした二人の日常。

そして、氷の城に訪れる「新しい命」の気配……。

最高のハッピーエンドをお届けします。


霧島 結衣でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ