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ニセモノをホンモノにしたくて  作者: なるなるなるなる
第一章 孤高の監獄
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第一話 「不吉な予感」

 しばらくのローディングを経て、辿り着いた先は謎の部屋。

 木造の壁に囲まれており、ワンルームの家である。

 暖炉や椅子、キッチンなどの細部まで作り込まれており、姉の気合いは段違いなのだと感じた。

 目が覚めたと同時に目に入った物……というよりかは視界を遮ってくる画面には、またしても不穏な空気を纏っている。


---


[ 警告:個体識別情報の競合。既存人格を削除し、プレイヤー「〇〇」を上書きします。


 あなたの名前は?   『、』]


---


「俺の……名前……?」


 プレイヤーネームのことだろうか。

 となると今はチュートリアルであろう。

 さすがの姉でも敵の巣窟にスポーンさせるなんてことはしないらしい。


 あるゲームでは女性キャラが強いという世界観があり、それに合わせて『セリオナ』と付けたことがある。

 しかし今回は男だ。

 これも初期設定なのだろうか。

 調べたりしたかったのだが、姉のオリジナルだろうし、情報はないかもしれない。

 考えてもしょうがない。


---


 あなたの名前は?   『アビス』


---


 決めた。

 アビスだ。

 なぜこの名前にしたかと言うと俺は今どん底にいるからだ。

 これは自分への戒めであり自省である。


---


[ 最終確認:人格の再定義 ]


入力された識別名:『 アビス(ABYSS) 』


重要事項:この操作により、現在この肉体に残留している「前所有者」の記憶、感情、および存在証明はすべて完全に抹消され、あなたの人格データで不可逆的に上書きされます。

なお、このプロセスは中断できません。

上書きされた「前所有者」を悼む権利を放棄し、あなたは新たな『アビス』としてこの世界で生存することに同意しますか?


[ 合意(上書きする) ]  [ 拒否(やり直す) ]


---


 よくゲームである規約みたいな物なのだろう。

 はいはい合意合意。

 ポチポチッと。


「……はぁ」


 自分でアビスと名付けておいて、今更気が重くなる。

 やめておけばよかったと後悔した。


 その作業が終わると邪魔な物がなくなり、俺は部屋の中心で視界を一周させる。

 壁に掛かっていた鏡を見つけ、自分の容姿を確認した。

 そこには現実の自分と年齢が同じくらいの少年が映っている。

 白髪(はくはつ)の髪に美形な顔立ち、こんな顔だったら“あんな事件”起きなかったのかなと、ふと過去が蘇る。

 気にしても仕方のないことだ。


 雲に陰っていた太陽が顔を出し、部屋に射し込む陽光は痛々しかった。

 久しぶりに浴びた太陽の光が俺を窓の方に誘い込む。

 窓から外を覗くと、そこは絵本の世界に迷い込んだような絶景だった。

 高所から見下ろす点々としたヨーロッパ風の赤いレンガが海のように広がっている。


「……おぉ」


 思わず歓喜の産声が漏れてしまった。

 近くに人がいたら恥ずかしいので控えめになってしまったようだ。


 俺は外に出ようと決意しようとした。

 ゲームなのに部屋に閉じこもるとか意味が分からん。


 玄関の扉はとても大きかった。

 俺の家の玄関扉の一回りも二周りも大きく、その扉に驚きを隠せなかった。

 そして、ドアノブに手を掛けその状態で固まってしまった。

 戦慄したのだ。


 ゲームだと頭で理解していても、リアルな光景に現実と重ね合わせてしまう。

 街にいるのは精々NPCだろうし、彼らはきっと人間を肯定してくれる存在だろう。

 いや、それは会うまで分からない。


 俺はドアを半開きにして、外の様子をチラチラと確認する。

 ──誰もいない。


「……はぁ、誰もいないんかよ」


 この家は街とは外れた位置にあり、山の斜面に反り立っている。

 そして、扉の先は木々が広がっていた。

 今更だけどこれは何のゲームなのだろうか。

 まぁ、現実で知る手段は存在しないので進めた方が早いだろうし、姉のところまで行くのも面倒だ。


 木の影でゴソゴソと何かが動いた。

 それは木という障害物を綺麗に利用し、こちらに近付いていた。


「ウギャーウギャー!」


 その正体は………………何?

 片手に小さな斧を持っており、民族衣装を彷彿させるようなオレンジの模様をした仮面。

 奇妙なその見た目は人間とは思えなかった。


「ど、どうも」


 得体の知れないその生物に、俺は軽く会釈する。

 刹那──仮面は高く飛んで斧を高く掲げた。

 本能的に後方に倒れ、尻もちを付くと、俺はやめてくれと懇願するように手を左右に動かす。


「……頭おかしいんじゃないの?」


 俺は先程脳内に提示した敵の巣窟という単語を思い起こす。

 姉は本当に敵の巣に送り込んでくれたらしい。

 いや、そんなこと言ってる場合じゃない。

 とにかく反撃をしなければ。


 初めての戦闘に汗を握る。

 これが戦闘をするゲームなら武器の1つや2つ持っていることだろう。

 腰に……背中に……足に…………ないっ!

 身体のあらゆる場所に手を巡らせたが、諦めて次のことを考え始めた。

 初期リス(初期リスポーン地点の略)ってどこだろうな、と。

 そもそもチュートリアルなのだから何度か繰り返させてくれるか、あるいは負けイベの要素かもしれない。


 リス地がここならいいのだが……いや、よくない。

 リスキルされる。

 極寒の雪山や資源の乏しい砂漠なんかは勘弁して欲しいなどと思っていると、仮面野郎(ソイツ)は斧を俺の足にヒットさせ、刃はめり込んだ。


「……は?……え?なんで?」


 俺は想定外過ぎるその事態に血の気が引いた。


「くっそぉぉいてぇぇぇえええ!!」


 足の激痛。

 トクトクと全身が脈を打つ。

 俺はこの瞬間ある警告を思い出す。

 痛覚フィードバックについてだ。

 あれはおそらくゲーム内での痛覚が無効に出来ていなかったのだろう。


「くっっっそぉ」


 その一撃で俺は冷静さを欠かす。

 逃げようと立ち上がるが、アキレス腱を切られ転倒。

 必死でもう片方の足で立ち上がり、全力疾走をする。

 その時だった。


「ううぅぅギャウっ!」


 仮面野郎の断末魔を俺は耳にした。

 振り返ると風に靡く空色の長髪をした少女が藍色の細剣を担いでいた。


「君、大丈夫かい?」


 彼女はクリスタルの容器に聖水を注ぐような声で俺に問いかける。


「え、えぇと大丈夫です」

「どう見ても重傷じゃないか!もう少し人を頼った方が可愛気があるぜ?」


 若干ツッコミ混じりに心配をしてくれる彼女は俺の近くまで寄ってくる。

 超美少女だった。

 二次元にしか生息しないような顔面が間近にあり、俺は不意に赤面してしまう。


「悪いけど安いポーションしか持ってないんだ」

「……あ、ありがとうございます」


 問答無用でドバドバと液体を傷口にかけられる。

 消毒液をかけられているような感覚だが、痛みはあまり感じなかった。


「君はここに住んでいるのかい?」

「え?あ、まぁ……」

「今すぐ街の方に移った方がいいよ」

「なんでですか?」

「マスカルノグの群れが北の方から降りてきてるんだ。今ボク達騎士団が殲滅に向かってるところさ」


 おそらくそのマスカルノグはあの仮面野郎のことだろう。

 ところで騎士団とは何なのか。


「えーと、でも俺行く場所(とこ)なくて……ど、どうしよ……」

「すぐに片付けるから宿屋で部屋を借りるといい」


 ゲーム内通貨を持っていないんだからそんなことできるはずないだろ。

 初心者特典はなく、何て返事をするか逡巡すると、あからさまに困り果てた俺の様子に、少女は怪訝そうに小首を傾げた。


「街に行ったことなくて……お金もないし」

「じゃあボクが案内しよう!」


 ありがたいけど根本的な解決にはなっていない。


「お仕事の方は?」

「1人いなくても問題ないさ」

「あ、そうですか」

「それにこれも仕事の内に入るだろうし、上は文句を言わないよ。たぶん……」


 ちょっと不安だ。

 いや、かなり不安だ。

 彼女の行方はともかく自分の未来がとてつもなく心配だ。

 でも善意を無碍にはできない。

 俺はその提案をしぶしぶ承諾した。


「じゃあ、お願いします」

「任せてくれ!」


 元気溌剌とした笑顔を見せ、付いて来な!と歩みを始める。

 出会ったのはたった数分前。

 この一瞬の時間で凛とした彼女と元気いっぱいな姿を目の当たりにした。

 絶妙な感情が自分を支配した。

 なんとも言葉にし難い。


 現実世界ではありえないような濃いキャラ付けも、この世界では普通なのかもしれない。

 痛々しい口調もこちらでは一種の輝きである。


 整備された地面はそれぞれ色の濃さが違うレンガで敷き詰められていた。

 街への穏やかな坂道をくだりながら、一歩一歩の感触を確かめる。

 やがて街の方角から流れる微風が鼻先をくすぐり、匂いまで感じるリアルさに驚嘆した。


「匂い……?」

「ああ、ここは海が近いからね。今日はあまり風が強くないけどいつもは寒いくらいだよ」

「そうなんですね」


 絶対に知るはずのない俺の本名を言葉にされたその一瞬だけ心臓が跳ねた。

 彼女が見つめる方角に視線をやると、久しぶりに見た海上の地平線は美観であった。


「でも、あんまり海は好きじゃないんですよね」

「なんで?」


 俺のふとした発言に彼女は小首を傾げ、こちらの様子を覗いてくる。


「……海って広いじゃないですか?」

「怖いってことかい?」

「いや、そういうことじゃないんですけど」


 要するに自分には荷が重い名前ということだ。

 彼女にそんなこと伝わるはずもなく、またこちらも説明し難い内容である。

 今更ながら自分の発言が無意味であることを理解した。


「今のは忘れて欲しいです」


 彼女は蒼玉色(サファイア)の瞳を白黒させた。


「何を仰るウサギさん!そこまで言ったら最後まで話さんかい!」

「えぇ……、」


 えぇ?!話さないかんのですかぁ……?

 何から話すか考えをまとめようとすると、彼女は俺に謝罪をした。


「冗談だよ、気に障っちゃたようだね。ごめんよ」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 自分の失言で彼女に気を遣わせてしまったことに罪悪感を感じる。

 俺は慌てて話題を逸らすことに専念した。


「あの、名前は何て言うんですか?」

「ボクの名前かい?ボクのことはフィアって呼んでくれ!君のことは何て呼べばいいんだい?」

「アビスって言います」

「アビス……アビス……アビスくんね!」


 意味深に名前を連呼。

 フィアは一瞬だけ顎に指を添え、考える素振りを見せた後、もう一度捲土重来させたが……


「ところでアビスくん……」


 ただならぬオーラを纏い始めたフィアは俺に問いを投げた。


「殺人ウサギについて何か知ってない?」

「……殺人ウサギ?い、いえ何も……」


 ここに来たばかりなのに分かるはずがない。

 フィアは俺の返答に顔をしかめ、段々と深堀りしていく。


「じゃあ君はどこから来たのかい?」

「えーと……」

「もしかしてアポロン王国から来たの?」

「えーと……そうです!」


 国名や地理など細かい部分までしっかりしているようだ。

 数十分前にここに来て、そんな情報は全く知らない。

 先程の適当な対応が今頃自分の首を絞めることになるとは思いもよらなかった。


「ふ〜ん」

「え?なんでですか?」

「いや、なんでもないよ」

  

 急に冷めた返事となり少し寂しさを感じる。

 おそらく俺の陰気臭い話し方に嫌気が差したのだろう。

 人との距離感を縮めるのは苦手で自分から突き放す傾向がある。

 他人と馴れ馴れしく話せる人は、イベントの場面でまとめ役となり、そういうこともカリスマ性の1つなのだと思う。

 羨ましくてしょうがない。


「ここが街だよ」


 俺達が辿って来たレンガの道は街の中まで続いていた。

 人通りが多く、踏み入れるには少々勇気がいるような場所である。


「大丈夫かい?」

「え?あ、はい……」


 胸の圧迫感を右手で押さえていると、その様子に彼女が心配の声をかけた。


「人多いですね」

「そうだね。ここは迷宮都市エテルナが所属地なんて辛いよ」

「迷宮都市?」


 聞き慣れないその単語に想像力を巡らせた。

 おそらくこの街のどこかに迷宮があり、それを中心に繁盛しているのだろう。


「君はここに来たばかりなのかい?」

「はい、そうですね」


 街を眼前にして立ち止まる俺とフィアは互いに感情の薄い会話を続ける。

 無理に会話を広げられているようでなんだか居た堪れない。


「街より先に行きたい場所があるんだけど、付き合ってくれ」

「え?あ、はい」


 どちらかと言えば彼女の目的はそちらなのだろう。

 自分はついでだったと分かった途端、何とも言えない喪失感を覚えた。

 俺は言われるがままついていく。

 街の周りをグルっと周り、大きな川を跨ぐ木造の橋を渡って、やがて着いた先は何もない平原だった。

 人気一つないこの平原で空色の長髪を靡かせる彼女と二人切りの状況となる。


「ここはモンスターがよく出現するから人が来ないんだ」


 俺は万が一の可能性を考慮し、その期待と不安を言葉にした。


「ここに何の用事があるんですか?」

「とっても大事な用事があるんだよ」


 質問には答えてくれなさそうだ。

 俺は彼女の返答を聞いて小さく首を傾げる。


「ところでアビスくん。リアとアルフレッドとという名前に聞き覚えはあるか?」


 俺に問いかける彼女の声は、深淵から心臓を握り潰す勢いだった。

 返答を間違えれば死ぬ。

 そんな不吉な予感が身体の髄から分かった。


「えーと……知らないです……」

「……は?」


 鋭く磨かれたその蒼玉色の双眸で俺の瞳を貫く。

 殺気立ったその視線に戦慄した。


「お前は殺した相手の名前も覚えていないのか!」


 リア……?アルフレッド……?

 知らない。

 当然知るはずがない。

 俺は身に覚えのない2つの名前の記憶を辿ることもできず、フィアの殺気だった瞳から目を逸らした。


「ぶっ殺してやる!」


 視界の端で捉えるその光景。

 フィアは腰に携えていた藍色の長剣を抜剣する。

 正直全く背景(はなし)が見えてこないので言い訳もクソもない。

 自分のアリバイなんてあるはずもなく、仮に現時世界でも説明しにくい。

 焦燥感からあらゆる考えが浮かぶ中、フィアの剣先は天を仰ぎ始めた。


「お、俺は何もしてない……!」

「ほざけ!」


 恐怖のあまり否定することしかできない。

 無理矢理誤解を解こうとした結果、火に油を注ぐことになったらしい。


 藍色の斬撃は目視出来ない程のスピードで俺の首を捉え、ほんの瞬きの一瞬で生首は空中を錐揉みする。

 数秒間感じた強烈の熱感は、頬を撫でる空気を冷たくさせた。




---




 木造建築の屋根。

 見覚えがある。

 開眼直後に目に入ったのは、いくつもの板材で構築された屋根の玉杢である。


「……はっ!」


 一秒前に起こったこと。

 それは赤熱による逝去。

 いや、正確には首を切断されたことによる絶命である。

 しかし、その一瞬過ぎる出来事は頭で理解出来ず、足りない脳で必死に思考を巡らせることで鈍く心臓が反応を示した。


「……く、首は?」


 震える手を頸部に伸ばし、脈打つ血管を確認する。

 俺は安堵による吐息を零した。


「あ、そうだ……」


 今更ながらこれは仮想空間であることを思い出す。

 身体の細部、脈や心臓の音、感情や外傷による発熱、会話や出来事による感情の変化など、現実世界となんら変わりない反応に錯覚していた。


「……こんなゲーム止めてやる!」


 俺は身を持って死を経験した。

 首だったお陰で痛みは一瞬だったが、思い出すだけで身震いをする。

 それにフィアは必ずまた殺しに来るだろう。


「メニュー画面……?」


 先程できたボイスコマンドを試すが反応はない。

 詰んだかもしれない。


「頼む頼む、早くあそこ(白い空間)に送って……」


 この世界からできるだけ遠くへ。

 あの空色の少女がまた来る前に。

 焦る気持ちが声になって喉から零れた。


「ゲーム終了……ん?早く早く現実に戻して?」


 反応はない。

 つまり、このゲームはボイスコマンドによる終了ができないということだろう。

 決められた場所でしかゲーム的操作は叶わないのかもしれない。

 姉さんなんとかしてくれ。


「……クソがっ!なんで終われねぇんだよ!」


 周りに人がいないことを確認すると、大声で罵声を上げる。


「ちっ……外に出ないと駄目なのか?」


 先程とは条件が違う。

 未知の世界への興味に蹂躙され、身体は欲のままに動いた。

 だが今回は命の危機である。


「落ち着けぇ……」


 冷静に考えよう。

 俺は今、死に戻ってここにいる。

 そしてフィアからすれば俺は死んだことになっているだろう。

 いや……もしあの場に死体が残っていないのだとしたら……っ!


「ここにいたのか!」

「……ぇ」


 身体の芯から溢れる恐怖の感情が、ドロドロと血液とともに流れる。

 俺の情けない声を聞いたフィアは問答無用で剣を構えた。


「待っでくだざい!」

「地獄の底まで追いかけてやる!」


 俺は肩から脇腹にかけて一刀両断。

 またしてもベットの上で蘇生し、フィアの殺気だった眼差しに心を焦がされた。


「お前が殺してきた人の数だけ殺してやる!」


 部屋の中を縦横無尽に飛び回る斬撃が俺をリスキルへと追い込む。

 弁明する余地も命乞いをする余地もないこの状況をなんとかベットから転がり落ちることで抜け出した。


「お前の蘇生はこのベットがカラクリか!」


 フィアの間合いを飛び回る無限の剣戟が、ベットだけでなく家ごと木っ端微塵にする。

 その間に脱出することに成功した。


「やだやだやだもう死にたくない」


 俺は街の方に逃げ出す。

 街ではフィアも暴れられないだろうと予想したが、フィアは地獄の番犬が如く追いかけてくる。


「いつまで来んだよ……」


 左手で壁を伝いながら左折。

 突き当たりにある階段の手すりを掴み乗り越え、次に天井の低いトンネルを潜ると視界に何かが飛んできた。

 ──メニュー画面だ!


 狭いトンネルの中央で視界を遮る画面を操作する。

 ログアウト……ログアウト……ログアウト……ない。

 やはり特定の場所でないとログアウトできないようだ。

 しかし収穫はあった。

 インベントリ画面だ。

 インベントリ画面の装備欄には、『いつでも装備可能!!!』と書かれた短剣二つが設置されてある。


---


右手:冥帝(めいてい)の葬送(そうそう)

左手:天聖(てんせい)の福音(ふくいん)


冥帝の葬送:

 相手の体力、耐久が高ければ高い程与えるダメージ量が増加する(一度の戦闘で初撃にしか使えない)。


天聖の福音:

 与えたダメージ量が対象の体力を上回る場合、必ず体力を1残す(この武器を装備、または所持している場合トドメを刺すことはできない)。


---


 どう頑張っても敵倒せないんじゃないか?


 意外と冷静に理解できている自分に驚く。

 あまりにも理不尽なこの状況は姉によって計算ずくで作り出された物なのだろうか。

 こんな絶望を味わったところで俺の人間不信が治るわけではない。


 だめだ。

 見つかるのも時間の問題だ。


「見つけた」


 藍色の剣を担いだ狂気じみた少女は深淵から唸るような声で囁いた。


「待ってくれ、俺は本当に何も知らない」

「ふざけるのも大概にしろ!お前は痛い気な少年を装ってボクの父さんと母さんを殺しただろうが!唯一味方だったボクの両親を!」

「俺じゃない!」


 フィアの一方的な言いがかりについに俺は声を荒げた。


「月蝕の白兎はお前のことだろ?」

「俺は人を殺したことはない!俺にそんな力があるならこんな状況には陥らない!」


 俺は大声で弁明する。

 死にたくない死にたくないという想いが嗄声として現れた。


「あれは……お前のはずだ」

「なら俺はどうやって両親を殺したのか具体的に言ってみてくれ!ナイフで刺したのか?それとも罠でも仕掛けたのか?」

「分からない……覚えてない」

「は?」


 そんな曖昧な情報で俺だと決めつけ、あまつさえ独断処刑を施したフィアに対して、俺の中で恐怖だった感情は段々と怒に変換されていく。

 フィアの軽率な判断に呆れとも思える感情から頭頂部を掻きむしった。


「それにこの二つの短剣ではどう頑張ってもあなたを倒せない」

「どうしてだい?」


 口調の戻ったフィアを見て一息安堵する。

 しかし油断はできない。

 緊張を表した鼓動と四肢の微揺(ゆらぎ)が俺を冷静にさせる。


「まずこっちの白い方は相手にトドメをさせない。そしてこっちの黒い方は最初にしか使えないらしい」

「君は何を言ってるんだい?」


 お前が何を言ってるんだい?


「特性だよ」

「特性?」

「あなたの武器にはないんですか?」

「ボクの……?あるよ」


 あるんかい!と心の中でツッコミつつ、難癖を付けるように説得を続ける。


「そうだろ?それと同じようにあるんですよ。あなたの両親がウサギによって何の武器で殺されたか聞いてもいいですか?」

「ボクの……両親を……殺した武器……?」

「少なくともこの武器では人を殺せない」

「ボクは殺せない理由を納得していない!まず最初にしか使えないってなんなんだよ!」


 この世界の住人にゲーム的設定を伝えたところで理解されないかもしれない。


「えーと……」


 どう説明しようか逡巡していると、フィアの怒りは沸々と沸込みその感情は眉間には皺が寄ることで確認した。

 威圧的な空気に耐え切れない俺は、仕方なく足りない知識で証明を試みた。


「お願いだ!信じてほしい!この武器達じゃ誰も殺せないし、この武器呪われてるんだよ!!」

「は?何を言っているんだ?!」


 感情的な説明で、説得力など皆無に近いだろう。

 このAIにどう説明したら聞いてもらえるのか分からない。

 待ってほしくても待ってくれない。


「……」


 俺はある方法を思い付き、冷や汗とともに覚悟を決めた。


「納得できないならこの武器で俺のことを殺してみてくれ……絶対に殺せない」

「……えっ?」


 この提案にはフィアも目をパチパチさせたが、やがて冷静になる。


「けど君は死んでも生き返るじゃないか」

「死ぬ痛みは感じる」


 その発言は、覚悟を決めてのことではないと指摘してくるフィアに俺は冷徹な目で答える。


「分かった」


 フィアは全身が真っ黒の短剣を握る。

 その白い指は得体の知れない恐怖で小刻みに震えていた。

 俺は目を瞑る。

 冥帝の葬送の剣先が胸に触れ、やがてとてつもない圧で胸を押されているような感覚に襲われた。

 何度も何度も胸に突き刺さる黒刃が肋骨の間を貫通し、痛覚を越える自分の意思が体を震わせた。


 意識を朦朧とさせ──吐血。

 手足は凍てついたように冷たく、動かない。

 膝を付いている俺の眼前に短剣が転がり、フィアは眼前の事実を否定するとばかりに後退りした。


「え?なんで?」


 鉄の味、耳元で響く鼓動。

 苦しいはずなのに生かされているという感覚。

 俺は失神目前の視界でフィアの様子を窺い、口端を上げてみせた。

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