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(16)パーティ結成!

 翌朝。

 薄暗い部屋の中で、健斗はパソコンのモニターが発する光に顔を照らされていた。


 時刻は午前7時。

 動画共有サイトの管理者ページを開いた彼の目は、画面の中央に表示された数字に釘付けになっていた。



「……マジかよ」



 昨夜アップロードした三本の動画。

 そのどれもが、一晩で30万再生を悠々と超えていた。


 特に、フィオラとのパーティー結成を収めた『冒険者ギルド②_結果報告』に至っては、驚異の50万再生を突破している。




 コメント欄をスクロールしてみたが、数秒ごとに新しい書き込みが滝のように流れていき、到底すべてを読む気にはなれなかった。




「よしっ……!」


 健斗は小さくガッツポーズをすると、震える手でマウスを操作し、嬉々として「収益化」の申請手続きを進めた。


 口座情報を入力し、利用規約に同意のチェックを入れる。

 この手続きが完了すれば、あの莫大な再生数がすべて日本円に換算されて振り込まれるはずだ。


(これで、当面の資金問題はクリアだ。異世界で生きていくための「資本」ができたぞ……!)



 高鳴る胸を抑えつつ、健斗はトーストとコーヒーだけの簡単な朝食を胃に流し込んだ。




 今日は、フィオラとの待ち合わせがある。

 急いで身支度を整え、カメラのバッテリーを確認すると、健斗はクローゼットの扉を開き、光の渦へと飛び込んだ。




***




 王都アラストリアの空気は、今日も心地よい活気に満ちていた。

 石畳を歩き、冒険者ギルドへと向かう。



 重厚な扉を押し開けると、朝から依頼を求める冒険者たちの熱気と喧騒が押し寄せてきた。

 そのむさ苦しい空間の中で、彼女の姿はあまりにも際立っていた。



「おはよう、ケント!」



 朝の光を浴びてキラキラと輝く銀髪。透明感のあるエメラルドの瞳。

 ぶんぶんと大きく手を振るフィオラの姿は、文字通り「まぶしく」見えた。



「おはようございます、フィオラさん。待たせちゃいましたか?」


「ううん、今来たとこ。……それじゃあ、早速行こっか!」



 簡単な挨拶を交わすだけでも、周囲の冒険者たちから突き刺さるような嫉妬の視線を感じる。


 無理もない。

 健斗自身、こんな絶世の美女とパーティーを組むことになった現実に、いまだ頭が追いついていないのだから。




 フィオラに腕を引かれるようにして、健斗は受付カウンターへと向かった。

 カウンターの奥には、昨日と同じ、少し疲れたような顔をした受付嬢が座っていた。



「おはようございます。今日は……お二人で?」


「はい! 私たち、パーティーを組むことになったんです。登録をお願いします」



 フィオラが満面の笑みで告げると、受付嬢は少し驚いたように目を見開き、それから優しく微笑んだ。


「まあ、そうでしたか。おめでとうございます。……それでは、パーティー登録のお手続きをいたしますね。フィオラさんはご存知かと思いますが、ケントさんのために、ギルドの『パーティー制度』について改めてご説明いたしましょうか?」


「あ、はい。お願いします」


 健斗が頷くと、受付嬢は手元の羊皮紙を広げながら、丁寧な口調で説明を始めた。




「まず、パーティーを組む最大のメリットは、お一人で受けるよりも難易度が高く、報酬の良い依頼を受注できるようになる点です。現在、ケントさん個人のギルドランクは新人の『Eランク』ですが、フィオラさんは『Cランク』です」


 受付嬢は羽ペンで羊皮紙に図を描きながら続ける。


「パーティーの受注可能ランクは、所属メンバーのランクによって変動します。例えば、ケントさんが一つ上のDランク、あるいはCランクに昇格すれば、パーティー全体としてさらに上の『Bランク』の依頼も受けられるようになります。人数や構成によって複雑な計算基準があるのですが、詳細は本日は割愛しますね」


「なるほど……僕が足を引っ張らないようにランクを上げれば、もっと稼げる仕事ができるってことですね」


「はい。さらに、報酬の管理も便利になります。ギルドに『パーティー口座』を開設することで、依頼達成時の報酬を自動で均等に分配したり、共通の活動資金としてプールしておくことも可能です」



 それは、想像以上にしっかりとしたシステムだった。

 現代の会社組織や、プロジェクトチームの概念に近い。


「一通りの説明は以上となります。では、登録にあたりまして……パーティー名はどうされますか?」



 受付嬢の問いに、健斗は隣のフィオラを見た。



「あの、フィオラさんが決めてもいいですよ。僕、こういうのセンスないんで」


「えっ、ううん。ケントが決めて。私からお願いして組んでもらったんだし、名前はケントにつけてほしいな」



 フィオラは健斗の目をまっすぐに見つめ、優しく微笑んだ。


 その期待に満ちた視線を受け、健斗は少しだけ腕を組んで悩んだ。



(カッコいい名前にしても、僕が魔力ゼロじゃ名前負けするしな。……僕たちがこうして出会えたきっかけ……)




 ふと、フィオラからもらった、あの甘くて温かい果実の記憶が蘇った。



「……『パオムの縁』。これって、どうですか?」


 健斗がそう提案すると、フィオラは目を丸くした。


「パオムの、えん……」


 彼女は何度かその言葉を口ずさむように反芻し、やがて、パッと花が咲いたような、今日一番の満面の笑みを浮かべた。



「うん! すごくいいと思う! 私、その名前大好き!」


「よ、よかったです」




 こうして、魔力ゼロの男とエルフの美少女によるパーティー『パオムの縁』が正式にギルドに登録された。



「それでは、登録完了です。これでお二人は正式なパーティーとなりました」


 受付嬢が、二人のギルドカードにスタンプのようなものを押し、返却してくれた。



「さて、記念すべきパーティーの初めてのお仕事ですが、いかがなさいますか? 本日もいくつかおすすめの依頼が……」



 受付嬢が依頼書を取り出そうとした、その瞬間だった。

 フィオラが、カウンターから身を乗り出すようにして、すかさず元気よく答えた。



「どぶ掃除でお願いします!」


「…………え?」



 健斗と受付嬢の声が、見事にハモった。

 周囲の冒険者たちも、信じられないものを見るような顔でこちらを振り向いている。



(ま、待ってくれ……! 動画の再生数カネのためには、もっと映える、スライム討伐とか森の探索とかに行く流れじゃないのか!?)



 健斗の心の叫びも虚しく、満面の笑みを浮かべるフィオラの前で、受付嬢は静かに『住宅区・第三区画の側溝清掃』の依頼書を差し出したのだった。

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