第8話(後半) 「再生の境界線(レナトゥス・リミットオーバー)」
「……熱い。体が、燃えるように熱いんだ」
湊の呟きとともに、戦場を覆っていた黒い霧が収束を始めた。
全身を蝕んでいた「虚無」の闇が、リナの放った黄金の光と激突し、爆発的なエネルギーとなって湊の装甲を再構築していく。
バキバキと音を立てて剥がれ落ちる黒い殻。その下から現れたのは、もはや神でも悪魔でもない、**「一人の人間」**の意志が作り上げた、鈍く輝く灰色の姿だった。
三対の翼は一つに融合し、巨大な「白銀の縁取りを持つ漆黒の翼」へと変質する。
バイザーの奥、闇に沈んでいた湊の瞳には、鮮烈な「紅」の光が灯った。
仮面ライダー・レナトゥス『エターナル・メモリー(不滅の記録)』。
『チッ……! 闇を飼い慣らしやがったか、小僧! これじゃ俺様も、お前の「記憶」の一部になっちまうじゃねえか!』
ベルトの中でベリアルが愉快そうに毒づく。湊はもはや、悪魔に振り回される器ではない。悪魔の力さえも、自らの血肉として使いこなす「支配者」へと至った。
「カイト、下がってろ。……ここからは、俺が『記録』を書き換える」
湊が右手を天に掲げると、降り注いでいたレギオンたちの光束が、彼の手のひら一点に吸い寄せられた。
「消去デリート……不可。目標に想定外の波形を確認。……総員、最大出力で排除せよ」
数千体のレギオンが一斉に突撃してくる。空を埋め尽くす白銀の津波。
だが、湊は動じない。彼はただ、静かに翼を広げた。
「――アビス・リバース」
ドォォォォォォン!!
湊を中心に、全方位へ「灰色の衝撃波」が放たれた。
それは単なる破壊ではない。リナの記憶の力が乗ったその波動は、レギオンたちの「エデンによる支配プログラム」を物理的に剥離させていく。
衝撃波に触れたレギオンたちが、次々とシステムダウンを起こし、糸の切れた人形のように落下していく。空を埋めていた「絶望」が、まるで粉雪のように、音もなく崩れ去っていく。
「……信じられねえ。一人で、軍勢を黙らせやがった……」
カイトが呆然と見上げる中、湊はそのまま空へ駆け上がった。
残光を置き去りにするその速さは、セラフィムの「偽光」ではない。湊の意志が空間を切り拓く、真の「再生」の速さ。
湊は、空に浮かぶエデンの監視衛星を睨みつけ、拳を握りしめた。
その拳には、リナの温もりも、カイトとの絆も、そしてこれまでに失われてきた全ての人々の「悲鳴」が、力となって宿っている。
「……終わりだ。お前たちの作った、綺麗なだけの偽物の世界は」
湊の放った一撃が、エデンの防衛障壁を粉々に打ち砕いた。
空に巨大な「穴」が開く。その向こう側に見えるのは、エデンの欺瞞に満ちた心臓部――中央制御塔。
ついに、湊は辿り着いた。
自分を怪物にし、親友を壊し、リナを道具にした、元凶の目の前へ。
湊は振り返らずに、地上で自分を見つめるリナとカイトへ、小さく頷いた。
それは、「必ず戻る」という言葉よりも重い、男の背中だった。




