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実績:騎士団長討伐

 馬車は間もなく出発し、数十分もすれば王都から出た。

 草原と山ばかり広がる風景の中で乾いた道をひたすら馬が走り、いくつかの中継地で馬を休憩させたり入れ替えたりする他、目立った出来事は起きなかった。

 雨が降っていたら道がぬかるんで車輪がはまってしまうこともある。そうすれば乗客も降りて対応しなければならず、ワンが必ず墓穴を掘っていただろう。幸いトラブルは無く、夕方前には1番近くの町へ辿り着いた。


「食料を補給したら出発する。野宿だからな」

「ええ……ハードだな」


 ゲンナリするワンを連れて閉め作業を始めようとしていた店に入り、干し肉や飲料水を購入した。ワンと荷物を分けて発とうとした時、町に騒々しい空気が流れ込んできた。


「王剣騎士団だ!」


 叫ぶ町民の声を聞き、アレクセイは顔を青くした。

 王剣騎士団はシルフィリア国王に仕える騎士団の1つだ。国同士の戦闘や各地の紛争で前線に出るため、騎士団の中でも最も実力が高いと有名なのだ。

 今は害獣の群れを討伐するため地方に派遣されていたと聞いている。王都に戻る途中かもしれないが、この町を通るならわざわざ迂回することになる。


「まさかワンがいなくなった情報が騎士団に……」


 少し時間がかかると想定していたが、もし予定より早く王都に戻る途中だったら。神殿の衛兵が朝に気がついて騒ぎとなり、その情報が届いていたとしたら。


「ワン。すぐに町を出るぞ」

「追手?」

「そうだ」


 騎士団を1人で相手にして敵うわけがない。逃げ延びることさえ難しい。アレクセイはフードを被り直し、ワンの腕を掴みながら走り出した。

 町の近くの森は人の手が入っているのかそこまで鬱蒼としていない。なだらかな道を駆け上がりながら奥深くへと向かう。


「アレクセイ……俺、息が……」


 ずっと走り続けていたワンが息を乱しながら訴える。アレクセイに腕を引かれてるといえど、慣れない旅に休憩無しで移動していればすぐに疲労が溜まる。


「仕方ない、背負って走る」

「また?」

「他に方法があるか」


 立ち止まり背を向けてしゃがむアレクセイに、ワンは戸惑いながら触れた。

 しかし遠くから馬が走る音が聞こえてきて、アレクセイは咄嗟に立ち上がりワンを自分の後ろへ下がらせる。

 馬の音は1頭。1人が先行して追いかけてきたのか。足跡が残りにくい茂みに身を隠そうとするが、あっという間に追跡者はアレクセイ達の元に辿り着いてしまう。


「やあすまない。こんな遅くに町を出るのが遠目に見えて気になったんだ」


 馬に跨りながら見下ろすのは白銀の甲冑に身を包んだ男。群青色のマントを纏い、鎧の胸あたりにシルフィリア王国の紋章が刻まれている。


 王剣騎士団だ。


 アレクセイは正体を悟られぬよう顔を伏せながら口を開いた。


「……亡くなった父を弔うため故郷に向かっています」

「それは気の毒に。だが夜の森を抜けるなんて危険だ」


 男の口調はあくまでも明るく、それでいて声の底に疑う色がある。


「田舎に住んでいたならわかるだろう? それともなんだ。騎士団に見つかってはマズい理由でもあるのか?」

「とんでもありません。私共は故郷で狩りをして生活しておりました。手持ちの資金が少なく、野宿をしようと思いまして。騎士様にお気遣いいただき光栄でございます」

 アレクセイは恭しく頭を下げ、ワンにも同じことをさせる。男は馬に乗ったままさらに近くへと寄ってきた。


「なるほど、話だけ聞くとそうかと首を縦に振らざるをえない。しかし俺くらいの達人になれば相手が布で包まれていてもわかる。君の佇まいが戦い慣れた人間のものであると」


 相手の手が剣の柄に触れる。瞬間、躊躇うことなく抜かれ、アレクセイのフードを掬い上げるように刺した。


「!」


 軽い音を立てフードが裂かれる。切り離された布はバラけて肩に落ち、アレクセイの顔を露わにする。

 なんたる扱いだ。アレクセイは怒りで表情を歪めた。


「その目は……フィルティオンの者だな。それも高貴な身分だとうかがえる」


 アレクセイの正体を悟った男は驚くが、警戒を崩すことはない。


「そっちの男もフードを外せ。怪しい動きをすれば斬る」

「物騒だね」


 ワンは素直に顔を相手に晒す。すると男はさらに驚愕し、眉を吊り上げた。


「お前は竜聖教のお飾りか!」

(お飾り? どういうことだ)


 ワンに問いかける視線を向けるが、気づいていないのか反応はない。


「ふん、わかったぞ。あの男、フォルティオンに国を売り渡したのだな。好都合だ。お前達を突き出せば証拠になりあの男を処刑できる」


 荒々しい言葉から相手にとってアレクセイもワンも敵であることが察せられる。このまま捕まれば国同士の争いに繋がるだけでなく、シルフィリア王国内でも内乱が起きるに違いない。アレクセイは一歩下がりワンに小さく告げる。


「ワン、森の奥へ走れ」

「君は」


 ワンは戸惑いを隠せておらず、アレクセイを不安そうに見る。


「この男を始末する」

「だが」

「行け!」


 アレクセイの鋭い指示にワンは反射的に走り出した。


「行かせるか!」


 男は腰につけていたナイフを抜き取り馬上から投げようと構える。投擲で仕留められる自信があるのか、威嚇のためにただ投げるのか。どちらにせよ厄介なことに変わりなく、アレクセイは短剣を抜き高らかに宣言する。


「我が名はアレクセイ・ディ・アシュレイ! フォルティオン国王の子。王の刃【影渡り】である」


 アレクセイの名乗りに男は手を止め、こちらを真っ直ぐ見据えた。


「フォルティオン国王直属の暗殺者、影渡りだと? しかも王の子が……」

「私は貴殿に名を告げた。ならばそちらも名乗るのが礼儀ではないか」

「ああ、確かに。私は王剣騎士団団長エルヴィス・ロックウェル」


 騎士団長ということは当然1番強く、身分も高いのだろう。


「戦いの場で名乗りあった者は一騎討ちをするのが古来のしきたりだ。仕方ない……受けて立とう。アレは他の仲間に追わせればいい」


 エルヴィスはナイフを収め馬から降りようとする。

 頭の硬い男で助かった。降りた瞬間の1番無防備なタイミングを狙い、アレクセイは隠していた投げナイフを男に向けて放った。


「ッぐ⁉︎」


 眼球に刺さり、エルヴィスは受け身を取ることすらできず地面に叩きつけられた。

 痙攣する体はいくら戦い慣れた騎士でも動かせないらしい。目から大量の血を流し、恨めしそうにでアレクセイを見上げる


「卑、怯な……ッ!」

「暗殺者は手段を問わない」


 アレクセイは短剣で相手の首を刺し、命を絶った。剣を収めると、混乱しその場で暴れるエルヴィスの馬に飛び乗って手綱を握る。

 無理矢理走らせるとワンが逃げた方向に向かった。


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