エピローグ
「もういいの?」
「ああ、もういい」
シルフィリア王国の王城が見える巨木の枝に腰掛け、アレクセイとワンは日が沈む空を見上げていた。人の姿に変身できるが、もう人間と異なる生き物のためか痛覚も疲労も無い。目の色もワンと同じ黄金色のままだ。
ワンもアレクセイの魂を完全に取り込んだため、受肉した体を手放している。もう傷つくことは無いと知り、そのことにも安堵した。
「つきあわせて悪かった」
「いいよ、アレクセイの望みなら」
世界に祝福が訪れた後も、アレクセイはどうしてもフォルティオン王国とシルフィリア王国が手を取り合う姿を見たいと思った。
ダメ元でワンにお願いをしたら、快く受け入れてもらえたのだ。
竜の視力は非常に優れていて、城が離れていても温室の中をよく見透すことができた。兄とエルヴィスが握手を交わす姿は感慨深く、嬉しくて堪らなかった。
一瞬ライアンがこちらを見た気がしたが、ワンが言うにはアレクセイに一番身近な存在だから何か感じ取ったのかもということらしい。
血の繋がりというのは濃く離れ難いものらしく、父がアレクセイと竜の世界に迷い込んだのもそのせいなのだとか。
「あ」
アレクセイは側にとまっている小鳥に気づいて手を差し出す。しかし小鳥は何も反応を示さない。
「魂がこの次元から離れようとしているからか、生き物に存在を認知されないみたいだ」
残念そうにするアレクセイにワンは眉尻を下げて微笑む。
「そうだね。完全体の竜になるということは別の次元にあるってことだからね」
改めてもう戻れないのだと思い知る。この世界を見るのも最後になるのだろうか。人としての未練が欠片も無いと言えば嘘になる。
だがそれは今まで亡くなった人達も同じだ。アレクセイが殺めた人々もずっと生きたいと望んでいただろう。
だからこれから生きる人のために、アレクセイは旅立つ。
「怖い?」
相手の不安を悟りワンはアレクセイの手を握る。
その優しさはいつもアレクセイに勇気を与えてくれた。だから。
「ワンと一緒なら平気だ」
お互いに視線を合わせて笑いあう。ワンに腕を引っ張られて腰かけていた枝の上に立った。
「じゃあ行こうか。俺たちの世界へ」
「ああ」
繋いだ手の指を絡め合うと、天から煌めく梯子が降りてきた。導かれて体がふわりと浮いて吸い込まれていく。見慣れた地上が遠くなり、未知の世界が目前に広がっていった。
それは人の言葉では表すことができない光景で、それでも。
「綺麗だ」
アレクセイは柔らかく微笑み、ワンと共に光になった。
ようこそ、我々の世界へ。
願いと祈りの世界へ。
あなたの想いは未来に繋がっていく。
未来は心がある限り続いていく。
生者の欲求と、死者の祈り。
二つが合わさって【祝福】となる。
そして【祝福】は世界に与えられる。
いつまでも。
ここまで読んでいただきありがとうございました。これでアレクセイとワンの旅はおしまいです。
物語を全部読んだよ~という強者は1人いるかいないかくらいだと思いますが、その方に向けてちょっとしたイラストを描きました。
本作品の評価や感想をいただけますとモチベーションアップになります。また次の物語でお会いできると嬉しいです。




