第88話【ゴリツィンサイド】 諸侯会議
東部直轄領。
「ユーリの奴が戴冠しただと!?・・・ワシは絶対に認めん!認めんぞ!!」
王都の情勢を報告に来た兵だか何だかは、その場で叩き切ってやった。
「リューリクの王はワシ一人!ユーリの奴はただの従者だ!誰が何と言おうとも!例え手品まがいの仕掛けを使おうとも!」
「・・・ですが、現実問題として、王都の民はユーリの奴の戴冠を承認してしまいました。このままでは。いずれ奴は我々の元にも兵を差し向けましょう。我々としては・・・何か手は打たねばなりません。」
「おのおおおれえええええええいいいい!」
ワシは世界一偉大な男。
世界一謀略に長けた男だ。
そんなことくらい、家来に言われずともわかる。
―だが、それを受け入れる訳が無い!
現実とやらは、力で捻じ曲げるまでだ。
まだ、策は残されている。
骨を切らせて肉を絶つ、痛みを伴ってしまう策が。
ワシは苦悩した末、モリノフを呼びつけた。
「・・・周辺の諸侯全てに文を送れ。ワシの元へ参陣せよとな!」
帰ってきた答えは、ワシを半分満足、半分不満足にするものだった。
「見返り次第では王様の側に着くこともやぶさかでは無さそうですが・・・集まって軍議を開くのに、ここ東部直轄領は遠すぎると。」
「・・・ワシの領地で会議では不満と申すか。」
「ここと他国とは、ユーリの奴が不法に乗っ取った土地に阻まれています。外国の王族を招くことは現状難しいかと。」
タマンスキーまでもがそんなことを言う。
「シヴェチアからは、比較的我が国に近い城塞都市ヴィプリィにてちょうど諸侯が集まる会議が開かれる予定なので、王様もそこに来てはどうかと提案が来ていますが・・・。」
ワシは謀略においては文句なしに世界一だ。
大きな目標が達成されるのならば、高々会議の場所ごときにこだわりはしない。
「・・・致し方ない。ではワシがそのヴィプリィとやらまで出向くとしよう。」
「ここ東部直轄領からではかなり遠いですが、移動はお任せください。王様を龍がお送りいたします。」
―ふん。偉そうに何がドラゴンだ。・・・ただ飛ぶしか能のない役立たずではないか。
数週間後、晩秋。 シヴェチア王国東部 カレラ地方 城塞都市ヴィプリィ。
リューリクの王都から700km北、ワシのいた東部直轄領からは1000kmも北東にあるその街に、リューリクとパルスカの周りを取り囲む諸国の王や諸侯が、一堂に会していた。
ワシの目の前には、これだけの高貴な奴らがいる。
―ユーリの奴には絶対に出来ない芸当だろう!
大広間で、この街の支配者―シヴェチア王ガーレ―が厳かに皆を見る。
「さて、お集まりの皆様方。・・・ご存じのように、どこの輩とも知れぬユーリが、あろうことか王族の末裔を名乗って兵を挙げ、今ここにいる正当なリューリク王を追い出して王を名乗った。これは我々にとっても由々しき事態である!」
―うむ。全くその通りだ。
「愚かなユーリは、先日パルスカと大戦をしでかし、今や相争って疲弊している。詳しくは不明だが、両軍の戦いの規模からして、少なくとも万単位の死者が出ているはず。・・・つまり!奴を倒すなら、弱り切った今を置いて他にない!」
静まり返る皆に、ガーレが続ける。
「皆様方。我らの勝利の暁には、ここなる正当なリューリク王ゴリツィン殿が、見返りとして新たな領地を約束してくれるだろう!」
「リューリク王・・・その話、本当なのか?」
「我らの好きにいただけると・・・?」
ワシは諸侯の前に立つ。
「・・・ふん、ユーリ一味を縛り首にした暁には、鄙びた辺境などくれてやるわ。」
「「「「「「おお!」」」」」」
「では、我が侯国はヴァルショヴァ周辺を頂きたい!」
「我が国はクラコフを!」
「ターナを頂けると言うのは本当ですか!」
諸侯たちは、口々に恩賞として欲しい領地を口にした。
その様子を一瞥して、ワシはほくそ笑む。
―まさか、東部直轄領にいたはずのワシが、こんな所まで移動しているとは思うまい。
「ユーリの奴も女狐も、数多の兵を失ったはず。この先1年は動けまい。・・・しかも、これから始まる厳しい冬は、雪と寒さで何もかもが凍り付く。」
ガーレが続ける。
「ゴリツィン王によると、ユーリの取り巻きは全員が比較的南の出身だ。しばらく身動きすら取れまい。だから、ユーリの奴が動けない夏までに、奴を捕らえて晒し首にし、ついでにパルスカを解体して諸国で分割統治する。・・・ゴリツィン王、それでよろしいかと。」
―うむ。流石はワシが見込んだ者達。完璧な策だ。
同意を求められたワシは、満足して頷く。
「では、反対の者はいないようなので、これにて・・・」
「・・・お待ち下さい王様。」
陰気臭そうな女が立ち上がった。
―誰だこいつは?そもそも王でも諸侯でもなさそうだが・・・
「貴様は・・・カレラ地方守備軍のメンネル将軍か。どうしたのかね。」
答えたのはガーレ王だった。どうやらシヴェチアの将軍らしい。
「聞くところによると、新しいリューリク王は魔法を使うだけでなく、ことの外策に長けています。我が軍の裏をかいて、この冬の内に動き出すかもしれません。」
「メンネル将軍。貴様は神経質すぎだ。わがシヴェチアにはこれだけ味方がいるのだから、もう少し楽観的にならねば。」
「・・・。」
「それに、もしユーリの奴が動き出すとすれば、目標はユングリア地方の奪還だろう。ユーリの奴がいるリューリクの王都から見て、ここカレラ地方はユングリア地方とは別方向だ。よって貴様の軍の出番は無いから安心したまえ。」
「・・・。」
完全に押し黙ったその女将軍の方を、ワシは睨みつけ。
「今のユーリの奴は満身創痍だ。動き出すことはない。それと・・・」
その一生日陰から出られ無さそうな女将軍に剣を突きつけて凄む。
「これまでも、これからも。リューリク王はこのワシただ一人だ。言葉に気をつけろ!」
「・・・申し訳ありません。」
―こやつが他国の将軍で無ければ、直ちに手討ちにしてやったと言うに。
会議の後、ワシは当分の間ヴィプリィ城塞に残ることになった。
「これからの季節、遠方まで寒さに弱いドラゴンで帰るのは無理がありますからな。ごゆるりとなさってください。雪解けとともに我が全軍で王都に向かいますゆえ、それまでは。」
歓迎するガーレの奴だが、その思惑は明らか。
ワシがいることで、戦後の主導権を取ろうと言うのだろう。
―全く、食えん奴だ。
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※次回投稿は1月16日(日)午後から夕方ごろを予定しています。




