第7話 【ゴリツィン王サイド】動揺
「宝具の盾が抜かれた!?」
ワシはロスラヴィから王宮へ戻った兵士から、衝撃的な報告を聞いた。
ロスラヴィの宝具がある場所に行ったが、何者かによって宝具の盾は抜かれたらしく、その場には跡しか残っていなかったそうだ。
「馬鹿な!?あれは王国の歴史上、これまで一度も抜かれたことは無いのだぞ!」
一体だれが?どうやって?
報告によると、盾は岩ごと削りだしたのではなく、綺麗にすっぽりと抜かれたらしい。
「それと、・・・どうやら少し前に、ロスラヴィ近郊で盗賊団が討伐されたと言う噂が広まっているようで・・・」
「盗賊?まさか例の盗賊が!?そんな馬鹿な!一体誰が」
伝令の報告に、今度はモリノフ長官が慌てる。
盗賊が討伐されたと言うことは、ロスラヴィ領主の孫娘を消すのにも失敗したということか。
王国の兵には、盗賊団に手出しするなと言う命を密かに出している。
ならば、別の盗賊団とのいざこざでもあったというのか。
それとも他に何かが・・・
―訳がわからん。
ワシが苦悩の表情を浮かべたのを見てか、伝令はさらに続ける。
「い、いい知らせもあります。その宝具のある場所で、例のユーリと言うお尋ね者と遭遇しました。私は隊長から伝令としての任を与えられたので、途中までしか戦闘には加わっていませんが、おそらく奴は討伐されたでしょう。」
「馬鹿者!兵はお前しか返って来てはいない。隊長が裏切りでもしない限り、あのユーリとかいう奴にむざむざ負けたことになるんだぞ!」
得意げに言う伝令を、タマンスキーが怒鳴りつける。
「そ、それは・・」
「なぜだ。お前の部隊は20人位いたはずだ。普段戦闘をしない偵察部隊とはいえ、それをたった一人でどうやって・・・」
タマンスキーも頭を抱えてしまった。
「あのユーリとかいうやつ、そんなに腕が立つようには見えなかったが・・。」
なぜそんなことになったのか。
「いえ、一人ではなく、小柄な女が一緒でした。」
「女?」
奴は一人では無かったのか?
「はい。女を伴っていました。小柄な女が、岩を砕いては投げ、砕いては投げと無双の活躍で、近寄ろうとすると、これまたユーリの奴に次々と杖の様な物でなぎ倒され、私が見た限りでは、近づくのにもかなり難儀したとみられます。」
―その言い方だと、やはり負けたのではないか!―
やはりユーリの奴は予想以上に腕が立つのか。
そして女は何者だ?
疑問は尽きない。
「ロスラヴィにそんな怪力豪傑女がいたのか?聞いたことも無い。」
「パルスカあたりからの傭兵でしょうか?」
モリノフとタマンスキーも頭に疑問符ばかりが浮かんでいるようだ。
いや、よく考えると、別にユーリの奴等が予想以上に強いのは大したことでは無い。なぜその場に居合わせたのかは少し疑問が残るが、まさかただの従者が宝具を引き抜いたはずはない。ただの偶然だろう。
それよりも。
「宝具の件は、まずいことになったな・・・。あれは王権の象徴。すなわち、あれを持ち使いこなす者は、この国の王である証だ。」
その証が、王たるワシの手に、一つも無いのだ。
しかも、ユーリの奴が杖を盗み、今また、何者かによって盾がいずこへと持ち去られた。
とてつもなくまずいのは、直感でよくわかる。
どうするか。
「この上ない収穫がいくつかある。ユーリの居場所、そして杖のありかを発見したことだ。」
そう、盾は後でゆっくりと探せばいい。それよりも、ユーリの始末と杖の奪還が優先だ。
「ワシの思ったとおり、やはり杖は奴が持っていたのだ。・・・と言うことは、奴さえ始末すれば、少なくとも杖はこの手に戻る。」
それを聞いていたモリノフが、ここぞとばかりに提案をしてきた。
「お任せください。こんなこともあろうかと、既に手は打ってあります。今度こそ、成果をお見せできるでしょう。おい、出て来い。」
「・・・はい。」
モリノフが合図をすると、暗闇から若い女が現れた。
「これは、我が配下の暗殺者です。主にパルスカ王国への潜入と敵の将軍暗殺を主任務としていましたが、今回ユーリ退治の為に特別に呼び寄せました。この暗殺者をロスラヴィに送り込みます。」
「・・・」
女は黙っている。
「何故か重苦しい気配が漂っているが?」
「隠密行動能力に欠けるだけで、対人戦の腕は確かです。並みの兵士が束になっても敵いません。」
ワシはその女暗殺者をいぶかしげに見る。
「お前、裏切らないだろうな?」
それにはモリノフが答えた。
「ご安心下さい。何かあれば、家族が連帯責任で処罰されるだけのこと。それはこの暗殺者もわかっています。更に、連絡役と監視を兼ねて、別の伝令を尾行させます。」
なるほど。家族と連帯責任か。それなら裏切ることは無いな。
「そうか、では行け。一月の内に、ユーリの首を王都に持ち帰れ。」
「・・・はい。」
女暗殺者は静かに答えて消えて行った。
「あの暗殺者、元々なぜか使用人を目指していたらしいですが、職が無く彷徨っていた所を、私が暗殺者の見込みありとみて雇い入れたのです。」
「使用人?そんな下賤な仕事に憧れる者がおるのか。」
「らしいですな。正直私には理解できませんが。」
全くだ。
これで戴冠式の前にユーリの首が、ワシの前に届くであろう。実に上首尾だ。
「頼もしいなモリノフ。頼りにしているぞ。」
「ははっ!」
モリノフの奴も面目が潰れているからな。次はしっかりとやってくれるだろう。
「さて、ここはひとまず、食事でもしながら今後の事をじっくり考えるとしようではないか。」
そうだ。ユーリの始末もついたことだし、一回落ち着こう。そうすれば更なる妙案も浮かぶと言う物だ。
テーブルに、次々と豪華な料理が運ばれてくる。
他の閣僚も同席して、皆が料理を味わっている。
「うむ。この肉はなかなか旨い。」
「この魚の卵も絶品ですね。」
皿に乗っている料理は、どれもこれも庶民が生涯かけても稼げない額の代物だそうだ。
それを一口で平らげる。なんという優越感であろうか。
「そうだ!いいことを思いついたぞ。」
他の閣僚が一斉にこちらを向く。
「ワシの戴冠式を、この料理のように豪勢な物にしよう!無知な愚民どもに、王と言う物の偉大さをこれでもかと言うほど見せつけるのだ。」
「なるほど!良いお考えですな。」
「さすがは我らが王様!」
皆が口々に賛同する。
「歴代の王は国家予算の半月分を費やしたらしいが、ワシの戴冠式は・・・そうだな、4倍だ!国家予算の2か月分を使った、史上最も豪華な式にしようではないか!」
「王様、とても素晴らしい案だとは思いますが、それに関してひとつ提案が。」
財務長官のプガチョフか。
「なんだ?言ってみろ。」
「・・・おそらく、今の税収では、鉱山の収入などを含めても戴冠式の費用が足りません。現在国民からは収入の内8割を税として徴収していますが、これを9割に上げればまかなえると思います。税率を上げてもよろしいですか?」
ワシは即答する。
「もちろんだ。」
―プガチョフの奴め、顔がにやついておる。―
無理もない。
プガチョフは徴収した税金の内、少なくない金額をこっそり我が物にしているのだ。
本人はワシにばれていないとでも思っているのであろうが、筒抜けである。
最も、それ位閣僚の誰しもが裏で行っているであろうし、ワシは寛大なので、少し位予算をかすめ取ったくらいで気にはしていない。
―そう、どうせ庶民の払う税金が増えるだけだ。ワシには関係ない。-
「さて、戴冠式が楽しみだな。」
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