第63話 ポクロフカの戦い
ポクロフカ村近郊。
息をひそめて見計らう俺達に、敵の会話が聞こえてくる。
「良いか。ポクロフカに入ったら徹底的に略奪だ。食料、金目の物は全て奪い取れ。」
「将軍。住民がどこぞへ逃げ散ってしまったようですが・・・」
「・・・王の軍を歓迎しないとは、実に不届きな奴等だ。探し出して皆殺しにしろ。」
「ははっ!」
ミーリャさんが唇をかむ。
―大丈夫。そんなことにはならない。今から俺達が、そんな非道な奴らをあの世へ送ってやる。
「いいか。ヴァルナシに着いたら、女も富もより取り見取り、まさに諸君の思うがままだ。」
「おおーーーーーっ!」
下種な会話で敵が盛り上がるなか、俺達はひそかに、しかし確実に間合いを詰めて行く。
そして、全く気付かれることなく、20倍の敵への包囲は完成した。
「よし。・・・攻撃はじめ!」
ヒュンヒュンヒュン!
サーシャの隊から選抜して引き抜いてきた弓兵が、無言で弓を放つ。
ザクッ!
ザシュ!
「うわぁ!」
「ぎゃあ!」
「なっ!」
きちんと敵兵に当たった様で、苦悶の声と共に兵が倒れて行く。
「な!何事だ!?」
「敵襲!敵襲です!」
「そんなはずはない!敵は遙か彼方のヴァルナシに集まっている。こんな所にいるはずが・・・」
「第二射、撃て!」
ヒュンヒュンヒュン!
「うおっ!」
「げえっ!」
「しまっ・・・!」
「間違いありません!これは敵襲です!」
「馬鹿な!我らの動きが読まれたと言うのか!」
「わかりません・・・」
「て、敵はどこから!?」
「不明です!あちらこちらから矢が飛んできて・・・」
敵は状況がつかめず、良い具合に混乱してくれた様だ。
「よし、鬨の声を上げろ!!」
「「「ウラアアアアア!!」」」
雄たけびとともに、味方の兵が自らの存在を主張する。
「し、四方八方から敵の声が!!我々は完全に包囲されています!!」
俺は、駄目押しとばかりに堂々と名乗りを上げた。
「我こそは、ロスラヴィ領主代行にしてブリカノフカ領、ならびにククリスク領主!教会の守護者!ユーリ・オリョノフなり!」
「ユーリだと!敵の大将格がなぜここに!!・・・まさか、これは敵の本隊なのか!?」
「しょ!将軍!我々はどうすれば・・・!」
「うろたえるな!とにかく包囲されては不利だ。敵の包囲を突破する。皆の者!敵の包囲を打ち破るのだ!」
敵将の命令とともに、敵兵が突っ込んでくるのが見える。
「全員剣を持て!来るぞ!跳ね返せ!」
「ウラアアアア!」
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
「うわっ!」
「ぎゃあ!」
「ぐえっ!」
「駄目だ!突破できないぞ!」
「ダメージを与えても与えても敵が倒れない!?」
強化魔法をかけた味方の壁の前に、敵兵が折り重なって倒れて行く。
何が起きているのかわからず、恐慌状態の極みに達しているようだ。
―そろそろ頃合いだな。
俺は命を発する。
「俺の回りに突破口をわざと空けろ。そこに敵兵を集中させる。」
「そんなことをすれば、代行様が危険です!」
「なあに。危険なのは皆も一緒。」
それに、これは俺の戦だ。
俺が先頭に立たずして何とする。
「ユーリ殿。私も共に。」
「ミーリャさん。・・・無理はするなよ。」
「ありがとうございます。もちろんですとも。・・・はあっ!」
カカカカカカカカン!
「ぐふっ!」
「げえっ!」
「ぎゃん!」
投げナイフが、殺到する敵を次々と粉砕して行く。
「将軍!敵の大将の近くが手薄です!」
「よし!そこを突き崩して一気に突破する!」
「その大将が強く、中々突き崩せません!」
「なんだと!」
混乱の中、突破を図って俺の目の前に次から次へと敵が姿を見せる。
俺は殺到する敵を、剣を振って次々となぎ倒す。
「おりゃあー!」
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
「うわあ!」
「ぎゃあ!」
そろそろ、敵軍に止めを刺す時だ。
「全軍に伝え。逃げる敵を背後から一斉に攻撃。こっちに押し包めと。」
「了解!」
伝令が消えるのを確認すると、俺は再び剣を持ち直した。
「さあ!いくらでもかかってこい!相手になってやる!」
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
「うわっ!」
「ぎゃあ!」
「ぐえっ!」
「将軍!背後の敵が攻撃に出ました!」
「なんだと!」
突破を試みる敵兵が、次々とこちらへなだれ込んで来る。
「ここさえ通れば突破できるのか!」
「どけ!俺が先だ!」
「なんだと貴様!俺の方が先だ!」
突破口の兵の密度が、どんどん上がっていく。
時々槍や剣が刺さるような感触がある。
回復の速度がそれを上回っているので問題ないが。
「流石に、槍が何本も貫通すると痛いな。」
「常人ならとっくに死んでますよ。ユーリ殿も無理をなさらずに。」
「ミーリャさんは大丈夫か?」
「私は全くの無傷です。それに、危険な時はユーリ殿が守ってくださっていますから。」
ミーリャさんは少し肩で息をしながらも、薄くほほ笑んだ。
そんな俺達の前に、ひときわ堅固な鎧を着こんだ男が現れた。
―さあ、大物が来たぞ。
「ユーリだな!我が名は東部直轄領の南部兵団長ケズミンコ。覚悟!」
「いかにも。我が名はユーリ・オリョノフ。返り討ちだ!!」
さらっと気になる出自を言った気がするが、今は後回しだ。
俺は剣を杖に持ち帰る。
「ふん。剣をとらぬとは!なめられたものだな!所詮その程度の器か!」
「杖だって立派な武器だ。それにな・・・」
「剣で斬れない鎧を相手にする時はな・・・こっちの方が効果的なんだよ!」
ドゴオオ!
「うおっ!」
肩に痛みが走るが、敵将のダメージはそれ以上の様だ。
「お・・・おのれユーリめええええ!!!」
俺はよろめいた敵将に杖を向ける。
そして、一気に振りかぶる。
「さあ!これでえええ!!終わりだぁああああああああ!!」
ドゴオオオオオオオオオオ!!!
「うわあああああああああああああああ!!!」
ドオオオン!
鎧の重さで地響きをさせ、敵将は地に伏して動かなくなった。
俺は高々と宣言する。
敵将ケズミンコ、このユーリ・オリョノフが討ち取ったぞ!
「オオオオオオオオオオ!」
「ウラアアアアア!」「ウラアアアアア!」「ウラアアアアア!」
味方の歓声が響き渡る。
敵はそれを聞くや、次々と武器を捨てて投降し始めた。
ミーリャさんが駆け寄ってくる。
「お疲れ様です!!その・・・ありがとうございます。私の故郷を守って下さって。」
俺の手を取りながら、布きれで汗と血を拭いてくれた。
「俺は目の前の敵を倒しただけだし、ミーリャさんもみんなもよく戦ってくれたからだよ。」
わしゃわしゃ。
俺はミーリャさんの頭をなでてあげる。
「・・・はい。」
流石に疲れたようで、顔がほてっている。
やがて、避難していた村人達が戻ってきた。
「ククリスク・ブリカノフカ公ユーリ様、ありがとうございます!これで村も救われました。」
「おや・・・?よく見れば、ユーリ様の後ろに立っているのって・・・」
「ミーリャだ!リスキノフ家のミーリャではないか!」
「本当ね!ミーリャじゃない。去年から消息不明で、村の皆で心配していたのよ。おばさんのこと覚えてる?ほら、近所に居た・・・」
話を聞きつけた村人が、次々と集まってくる。
「みなさん、ごぶさたしております。突然姿を消して、大変ご心配をおかけしました。」
「もしかして、ゲオルギー君やキーラちゃんも一緒にいるのかね?」
「はい。今はユーリ殿の支配する領地で、皆息災に暮らしています。」
「そうか・・・それは良かった。ユーリ様。うちの村のミーリャ達を救ってくださったこと、誠に感謝の極みでございます。」
「いえいえ。ミーリャさんは本当によくやってくれています。むしろ村に挨拶も無く連れてきてしまって申し訳ないです。」
「と、とんでもない!」
夜。
千人程度ならどうにか村内に宿が取れたので、俺達は兵を村に入れてもらって自らも休息することにした。
俺は豪華な屋敷をあてがおうとする申し出を丁重に断り、ミーリャさんの実家に泊まることにした。
「ふう、やっと今日が終わった。」
「長かったですね。この後、近くに泉があるのでご案内します。私達も休息しましょう。」
「ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えて。」
立とうとした俺に、ミーリャさんが改まる。
「ユーリ殿。これから、少しお時間よろしいですか?」
「・・・どうした?改まって。」
「私個人の願いとして、村を案内したいのです。色々、話ながら。」
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※日付を回ってしまいましたが、9月10日分の投稿です。
※次回投稿は9月12日(日)午後から夕方を予定しています。