第62話 故郷、遭遇
ポクロフカ村。
ヴァルナシから2日。俺達はポクロフカの村にたどり着いた。
「霧がすごいな。何も見えないぞ。」
「初夏のこの時期、時々このような事があるのです。」
前回晴れていたのは、偶然だったのか。
「結局、敵は姿を見せなかったな。」
「ふふふふっ。このような何も無い辺鄙な地、わざわざ兵を出して守る価値などありませんよ。」
―おい、それでいいのか出身者。
俺は心の中でツッコみを入れた。
やがて、村の中、ミーリャさんの実家にたどり着いた。
「私の実家・・・懐かしいですね。」
ミーリャさんが壁をそっと優しく撫でた。
中は、以前訪れた1年前のままだ。
「ユーリ殿のおかげで、またこの場所に帰ってくることが出来ました。何と言ってお礼申し上げて良いか。」
「ミーリャさんも相当頑張ってくれたからな。」
俺はミーリャさんの頭をそっと撫でる。
少しだけ、頬を染めたような気がした。
「それにしても、妙だな。村の中に。人の気配がしないぞ。」
―まさか、略奪にあった?
一瞬そう危惧するが。
「建物に破壊された跡はありません。どうやら、村は略奪にあったなどでは無く、人々は整然と姿を消したようです。」
改めて辺りを見渡す。
確かに、多少散らかっているが、荒らされた形跡はない。
―なぜ、村人が誰もいない?
「ミーリャさん。少し先まで様子を見に行こうか。」
「はい。村はずれに小高い丘があります。そこまで行けば、何かわかるかもしれません。」
村外れの小高い丘。
俺はあたりをきょろきょろと見渡すが、相変わらずの濃い霧で、全く何も見えない。
「この霧じゃ、何も見えないぞ。ミーリャさん。ここは一度、村に戻って考え」
「ふせて!!」
「うぉっと!!」
突然ミーリャさんがつかんで俺を押し倒した。
先ほどまでの郷土を懐かしんでいた表情は、一変して険しくなっている。
何が起きたか、言わずとも解る。
「敵か?」
「ええ。」
ミーリャさんはそう言いながら、遙か前を指差した。
「…。」
「…、…、…..。」
話し声が聞こえる。
かすかに、鎧や武器のこすれる音も。
味方部隊はこの辺りにはいない。
つまり、敵だな。
それにしても・・・
「こりゃ、数十、数百って数じゃ無さそうだな。」
「待ち伏せされたのでしょうか?」
俺もその可能性を考え、敵の動きに耳をこらす。
「おかしい。待ち伏せにしては、向こうに緊張感がなさ過ぎる。仕掛けてくると思いきや、鬨の声も何も聞こえないぞ。」
やがて誰か―敵の将軍だろう―が、兵に向かって話し始めた。
「良いか皆の者。我々は明後日の夜明け前、ヴァルナシにいる敵を、背後から奇襲する。
この先のポクロフカは、最後の休息の地と思え。なあに、ユーリの奴は今頃ヴァルナシで吞気に偽物の到着を待っているだろう。・・・背後へ我が軍が到着するとも知らずにな。」
―その俺達が今まさにポクロフカにいることは、気付かれてない?
「なあに、既に勝ちは約束されている。まさか我々が持ち場を離れるなどとは、夢にも思うまい・・・」
敵の将軍は長々と、演説を続けている。
俺はミーリャさんと小声で打ち合わせる。
「どうやら、待ち伏せされた訳じゃ無さそうだな。」
「行軍中の敵と、偶然鉢合わせしてしまったようですね。」
「タマンスキーの軍は壊滅したんだよな?」
「はい。間違いなく、ユーリ殿たちの活躍によって。再編成までまだしばらく時間がかかるはずです。」
演説を聞く限り、この軍を率いているのはタマンスキーでもモリノフでも無い・・・と言うか、聞き覚えのない声だ。
なら、この敵は一体どこから・・・?
―いや、今はどうでもいいか。
ミーリャさんの故郷の、すぐ目の前に、敵の大軍がいる。
ただ、それだけの話だ。
「ユーリ殿。どうやらかなり兵力に差があるようです。
・・・一度ヴァルナシに戻って、全方位の守りを固めるのが策かと。」
そう言うミーリャさんの表情に、少しだけ影が差したのを察するまでも無く。
「ミーリャさんの故郷に、一兵たりとも敵を入れる気は無い。ここで敵を迎え撃つ。」
「・・はい!」
「ミーリャさん。霧はしばらく晴れないよな。」
「はい。」
「なら、決まりだ。」
ポクロフカ村。
「いいかみんな。敵はまだ俺達に気付いていない。主導権はこちらにある。」
「ユーリ殿。どのような作戦をとるのですか?」
「この霧のせいで全然先が見えないから、敵も全体を見渡せない。俺達の動きは全く読むことが出来ない。」
つまり、俺達が少数であり、自分たちが圧倒的な大軍であることを、敵は知る由も無い。
ゆえに敵は思うはずだ。
・・・俺達の本隊がポクロフカにいる・・・と。
この偽情報は、後の戦いの為にも生きてくるだろう。
「回り込んで敵を包囲する。この霧でお互いの位置は全く分からないから、敵は攻撃が始まるまで気付くことも無い。」
「敵はどれくらいの数なのですか?」
兵士から質問が来る。
「正直なところ、全く分からない。なにせ霧で見えないからな。」
「敵の弓隊は誤射を恐れて攻撃が出来ません。しかも敵はかなり密集しているので、内側の兵はただ立っているだけ。つまり、目の前の兵を倒し続ければそれで十分です。」
ミーリャさんが横で補足説明する。
少なくとも10倍以上。
俺もミーリャさんも、あえて推定した兵力差をはぐらかす。
案ずることは無い。
魔法のおかげで、かなり良い戦いになるはずだ。
「敵を包囲し、徐々に包囲網を狭める。深入りはしなくていい。目の前の敵だけを狙え。」
数刻後。
俺は兵士達に全種類の魔法をかけ、霧をついて密かに敵を包囲した。
案の定、敵は俺達の存在に気付いていない。
静寂の中、俺はミーリャさんと顔を見合わせた。
「よし、行くか。」
「はい、行きましょう!」
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白かった!」
「ここが気になる!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の評価お願いいたしします。
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直な感想でもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!
何とぞよろしくお願いいたします!
※次回投稿は9月10日(金)午後から夕方を予定しています。




