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第34話 ククリスクの戦い 後編

ククリスク近郊の森、スコーピン将軍の本陣付近。



俺達はスコーピンの本陣に、じわり、じわりと距離を詰めて行く。

今や、敵の話声さえもよく聞こえてくる。



「将軍、我々の勝利です。ロスラヴィ勢はどこぞへ逃げ散った様です。」

「ユーリと取り巻きの女はいずれも取り逃がしたか。なぜかえらい逃げ足が速かったが、後は後々王が何とかしてくれるだろう。我々は明日隣街の偽物王子を滅ぼし、王都に凱旋(がいせん)しよう。」

「流石は将軍、見事な手腕でしたな。王様でさえ打ち破ったと言うユーリ・オリョノフが、尻尾を巻いて逃げ出しましたぞ。」

「うむ。これぞ惜しげもなく人命を投入し、後退を禁じて戦った甲斐があったと言う物だ。今日は無礼講だ、兵もゆるりと休むがよい。私も久々に酒が飲める。」

「それにしても、一体敵はどこに消えたのでしょうか?」

「万が一、奴らにまだ戦う気があるのならば、隣街の偽物と合流するだろう。偽物さえ無事ならば、奴らはまた再起できるからな。だからこそ、それをする間もなく迅速(じんそく)に叩くのだ。」

「なるほど。完璧な策ですな。」

「これくらい出来ねば、総司令の地位は狙えん。この戦いに勝てば、私はタマンスキーを押しのけて念願の総司令、ひいては王国の大臣になれる。そこまであと一歩、あと一歩なのだ!」


敵の会話は、今まさに距離を詰めつつある俺達にとっては、非常に滑稽(こっけい)だがありがたい。



―手はずどおりに。サーシャ達は弓を一斉射撃したら別の場所に移動、また射ったら移動を繰り返して。

―はい。

ほぼ口の動きだけで指示を伝える俺に、サーシャが目で答える。

「ミーリャさんは戦いが始まったら本陣から離れた所で敵をかく乱して。」

「わかりました、ユーリ殿。」

ミーリャさんの隊が闇に消えて行く。

敵は勝利を確信して浮かれている。もうミーリャさんの気配にも気づけないだろう。

「5分後に攻撃開始。俺達はサーシャの攻撃を合図に本陣に突っ込む。」

「「「はい」」」

サーシャがクロスボウを構える。

配下の弓隊も弓を構える。

俺とイオナの隊は息を殺してその時を待つ。


5分が経ち。

遠くに立つサーシャが俺に目で合図を送った。


―ユーリ様、行きます!―

―よーし!かかれ!―


バシュバシュバシュバシュ!


「うわっ!」

「ぐおっ!」

「な、なにが!」

「いったい・・これは・・・!」


そして、俺はダメ押しとばかり敵陣を混乱させる一言を、従者時代に培った流ちょうな王都の言葉で叫ぶ。

「裏切り者だー!味方が裏切ったぞー!」

敵陣のど真ん中で。

「何!」

「裏切り者だと!」

「どこのどいつだ!」


もちろん、真っ暗闇で俺の姿は敵から見えていない。


敵が動揺しているのが聞こえてくる・

「落ち着け!そう簡単に裏切る奴がある訳ない!これは恐らく、敵の別動隊か何かの罠だ!良く聞いてみろ!どうせパルスカあたりの訛りが」

「しかし、今の声はきれいな王都の言葉です!つまり、われわれ王都の人間が発した声です!」

「何だと!?」


バシュバシュバシュバシュ!

「ぎゃあ!」

バシュバシュバシュバシュ!

「いったいどこから!」

サーシャ達があちらこちらから放つ矢に、敵は混乱の極みだ。


「お前か!お前が裏切ったのか!?」

「ち、ちがう!誤解だぎゃあああ!」

敵はパニックに陥って同士討ちを始めたようだ。


「よし、この(すき)に敵の本陣に突っ込む!」

「はい!」


ウラアアアアアアア!


ザクッ!

「ぐふっ!」

ザシュ!

「うわっ!」

待ちに待った鬨の声を上げ、俺達は闇にまぎれて敵兵を次々と討ち取っていく。


「馬鹿者!これは敵襲だ!前方の兵を呼びもどせ!どうせ奴らは小勢だろう。」

「先ほどから呼びかけているのですが・・・兵が戻ってきません!」

「何故だ!」

「前方でも敵襲があった模様。スコーピン様の命に従い、全ての兵が後退せずただひたすらはるか前方まで前進しております!今我らの近くには味方部隊はいません!」

「何だと!」


ミーリャさんが前方をかく乱してくれているようだ。

そして、俺は甲冑を着てたたずむスコーピンの所にたどり着いた。


「スコーピン将軍とお見受けする!覚悟!」

「き、貴様はまさか!」

「我こそはロスラヴィ領主代行、ユーリ・オリョノフ!」

―こんな台詞を言う時が来るとは、我ながら俺も出世したもんだな。

「馬鹿な!昼間の戦いで逃げ出したはずでは!?周囲の街は全て我らの兵。一体どこから!?」

「さあどこからだろうね!」

俺はスコーピンに杖を向ける。

「おお、それはまさしく(レガ)(リア)の杖。・・・酒を飲む前で良かったわ。よかろう、我が名は王の参謀にしてこの軍の司令官スコーピン・ジュースキ。相手になってやる!」

スコーピンが大剣を構える。

「うおーーーー!」

「おおおおお!」

キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!

何度も何度も杖と剣をぶつけ合う。


「隙ありだな!」

スコーピンがもう1本の剣で俺を切りつけようとし・・

防御(アリーナ)!』

ガキーン!

とっさに突き出した盾の薄い光の膜に阻まれ、剣が弾き飛ばされていく。

「何!?なんだ今の光は!」

必殺の剣を阻まれたスコーピンが動揺する。


「これが、俺の力だ!」

「その盾・・・!さては、それも(レガ)(リア)の盾だな!王は信じてくれぬだろうが、それもやはり貴様が持っていたか!」

「うおりゃあ!」

問答無用に杖で殴りかかる。

「わかったぞ!さてはその(レガ)(リア)、ただの武器にあらず。・・・何かの力を秘めているのだろう!あり得ない逃げ足の速さ、異様に強い一撃、そして今の盾の光。そうと考えればすべて合点がいく!」

スコーピンが(レガ)(リア)の秘密に気付いたようだ。

「・・・それにしても、なぜ、なぜ貴様がそれを使いこなせる!」

「さあね!俺には元々、なんの力も無かったはずなんだがな!」

「ただの元従者と聞いていたが・・・!貴様は・・・貴様は一体何なのだ・・・!」

「俺は、ロスラヴィの領主代行で」

杖を、思い切り振りかぶる。

そして。

「王族の末裔だぁぁぁぁ!」

振り下ろす。

ドゴオオオオ!!

「ぐワアアアアアアアああああああ!」

スコーピンは断末魔を上げて地面に倒れ。

動かなくなった。





見渡すと、辺りでは乱戦が続いている。

イオナが次々と護衛の兵をなぎ倒している。


俺は、この戦いを終わらせるため、高々と宣言した。


「敵将スコーピン、このユーリ・オリョノフが討ち取った!!!」


その言葉は、戦場の全域に響きわたり、波紋を巻き起こす。

「しょ、将軍が・・・討ち取られた・・・!」

「おい、この場合どうなるんだ!?」

「我らの負けに決まってるだろう!もう指揮官はいないんだ!」

敵兵は皆一瞬何が起こったのかわからない様子だったが、一瞬遅れて徐々に事態を飲み込む。

俺はスコーピンの死体から兜を剥ぎ取り、敵兵に向けてかざす。

「王都の兵達よ!この通りスコーピン将軍は討ち取ったぞ!あとは戦って死ぬか、大人しく逃げ失せるかのどちらかだ!」


「あ・・・!ああああ!」

「ま、まさか・・・!」

「そんな・・・!」

「に、逃げろー!」


たちまち敵兵は散り散りになって行った。




「ユーリ様!ユーリ様!やったああああ!」

遠くからサーシャが胸に飛び込んでくる。

「サーシャもな。」

俺は髪をぽんぽんとしながらなでてやる。

「あ・・・ユーリ様・・・。」

戦闘の疲れからか、少し顔が赤い。

「また今日も、ユーリ様は強い敵を倒しちゃったんですね。お疲れ様です。」

サーシャの手が、俺の後ろにそっと回される。


「ユーリ殿、前方の兵も潰走した様子。お見事な采配でした!」

前方の兵を蹴散らしてミーリャさんが戻ってきた。

「ミーリャさんも大変だっただろ。」

ぽんぽん、なでなで。

俺はミーリャさんの髪をなでる。

「ゆ、ユーリ殿・・・?」

これはやっぱり、少し恥ずかしいのかな?

「いいからいいから。」


「ユーリさん、今日もかっこよかったです!敵の大将を討ち取っちゃうなんてすごいじゃないですか!」

敵を追い散らし終わったイオナも駆け寄ってくる。

「イオナもよく頑張ったな。」

「はい。ユーリさんが隣にいてくれますから!」

イオナが、何か物欲しそうにこちらを見上げている。

ぴとっ。

そして俺にくっついてくる。

「・・・?」

「私も、なでなでされたいです。」

なるほど。

「ほいっ。」

なでなで、なでなで。

「ユーリさんのなでなで、なんだか(くせ)になりそうです・・・。」



「ユーリ領主代行様、万歳!」

「ロスラヴィ領万歳!」

エイ、エイ、オー!

エイ、エイ、オー!

エイ、エイ、オー!


味方の他の兵が勝鬨(かちどき)を上げている。



王の参謀スコーピン将軍戦死。

その報は数日中に、今だ戦闘中の敵味方に行きわたり。

残る敵部隊は(またた)く間に崩壊した。


俺達はすぐに『王子様』の陣に乗り込んだ。

再集結したパルスカの『義勇兵』やその他の兵の話が聞こえてくる。

「ロスラヴィの英雄が我らを救ってくださったのか・・・。」

「ユーリ公がいなければ、我らは危うく全滅する所だったぞ。」

・・・・

「おお、ユーリ殿!そなたがこの危機を救ってくれるとは!礼を言うぞ。」

俺はそんな『王子様』に、強い口調で言う。

「『王子様』。敵部隊は消滅しました。当分の間、再起不能でしょう。今度こそ!今こそ!王都に進撃しましょう!!」

「そ、そうだな。そなたの言うとおりかもしれんな。」

俺の気迫に押され、『王子様』はようやく重い腰を上げ、全軍を王都へ向ける指示を出した。



最早抵抗する(すべ)のない途中の街は、次々と俺達に道を空ける。

500km以上ある道のりを、わずか2週間で踏破(とうは)し。

月が変わる頃、俺達は、ついに王都へ辿り着いた。


お読みいただき、ありがとうございます。


「面白かった!」


「ここが気になる!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品の評価お願いいたしします。


面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直な感想でもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです!


何とぞよろしくお願いいたします!


※次回投稿は6月4日(金)午後から夕方を予定しています。

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