第32話 敵軍接近
ブリカノフカから南東に250km、ククリスクの街。
偵察に行っていたミーリャさんの部隊から報告が入った。
「ユーリ殿の言う通り、敵は我々が南部でもたもたしている間に、体勢を立て直してしまったようです。」
―ほら、言わんこっちゃない。
『王子様』は、軍に分散して各都市を制圧するように指示を出している。
今は、数千人単位で各都市に散らばっている。
事が起きても、集結まで2日以上はかかりそうだ。
「スコーピンと言う参謀が大軍を率いてこちらに向かっているようです。その数3万以上とか。」
「やっと来たか。そしてゴリツィンは王都で高みの見物なんだな。」
「そのようですね。今回はその参謀が総大将の様です。」
スコーピン参謀。
あの王には勿体ない有能な軍人らしい。ただし、勝利の為にはどれだけ人命を犠牲にしてもかまわないと言う、冷酷な面もあるとか。
前回は完全にこちらの策にはめたが、今回は成り行き上、向こうの「策」からどう抜け出すかだろう。
さて、今からその手を考えて置かないとな。
『偽王子』の陣。
「『王子様』、俺の配下の偵察隊が、敵の大軍の接近を捉えました。急ぎこのククリスクに軍を集結させるべきです。」
「なあに臆することは無い。敵は弱兵。余をけん制するために形だけ整えただけだろう。放っておけばそのうち勝手に王都に帰る。」
未だにこの『王子様』は全く状況が分かっていないようだ。流石に敵を軽視しすぎだろう。
「しかし、敵の大将はそこまで甘くはなさそうな人物です。分散している所を各個撃破されかねません。」
周りで聞いている『王子様』やパルスカの義勇兵達も、俺に同調するかのような目線を送っている。
だが、この『王子様』はそのようなことを気にするそぶりは全く見られない。
「大丈夫だと言ったら大丈夫だ。ユーリ殿は心配しすぎだ。」
「心配では無く、これは事実で・・・いや、わかりました。ですが、もしもの時は、我々は独断で軍を動かしますよ。」
「本当にユーリ殿は心配性なのだな。まあ好きにするがよい。どうせ王軍は攻めてこないと思うが。」
結局、もしもの時の自由裁量を確保して、後はひたすら待つことになった。
軍議後、ユーリ達の陣。
「ユーリ様の魔法の効果って、遠く離れすぎてると流石に効かなくなるんですよね?」
「もちろん。あまり遠く離れた所まで魔法の効果が出てしまったら、むしろ使い勝手に困るさ。」
まかり間違っても、歩いて1日もかかるような所まで魔法の効果は届かない。だから、このククリスクにいる兵―俺達ロスラヴィの兵と『王子様』のわずかな供回りだけ、ひょっとすると『王子様』のお供は逃げ出すかもしれない―に『魔法』をかけて戦うことになるのだろう。
「敵はおそらく、分散して各個撃破を狙って来るだろう。もちろん、敵の最重要目標は・・・」
「ユーリ様ですね!」
「いや違うよ。」
「違うんですか!?」
即答するサーシャだが今回は間違いだろう。
宝具の方はありえるかもしれないが。
「王軍の目標は、『王子様』を倒すことだ。サーシャの言うとおり、この街が一番の目標であることには変わりはないけどな。」
「つまり、ユーリ殿の作戦は、まずはこのククリスクの近くにくる敵を迎え撃って・・・」
「それから、ユーリさんの魔法が届いていない他の街の兵を助けに行くんですね。」
「うん、それで行こう。」
3人は俺がやろうとしていることを理解してくれたようだ。
「他の将軍がいないここで活躍したら、もちろん一番手柄はユーリ様の物ですね、わたし、がんばります!」
「そうですね。私も今から腕がなります。」
「ユーリさん、この前みたいに、敵を追い返しましょう!」
皆が三者三様にやる気を出している。
「よし、みんな。恩賞のために頑張るぞ!」
「「「おー!」」」
数日後。
別の街を制圧中の部隊からの連絡が途絶えた。
一つだけではない。
分散していた複数の部隊からの連絡が、一斉に途絶えた。
「どうなっている!?一体何が起きているんだ!」
「わかりません!ですが、敵襲を受けた可能性があります!」
「まさか!?敵は牽制しに来ただけでは無いのか!?」
俺が『王子様』の陣に出向くと、押し寄せる報告の数々に混乱状態の様だ。
『王子様』もひどく動揺している。
今なら、俺の言うことを聞いてもらえそうだ。・
「『王子様』。ごらんのとおり、敵襲です。そして敵の最重要目標は間違いなく『王子様』です。我々はこれより、その敵を撃退してご覧にいれます。」
「お、おお。ユーリ殿、頼んだぞ。」
「お任せください。」
ようやく待ちに待った自由裁量を得たので、俺は早速敵を迎え撃つ準備に入った。
「ククリスクの近くに敵部隊が接近中です。その数およそ2万。」
「ユーリ様、今のククリスクってどれだけの兵がいるんですか?」
ミーリャさんの報告を聞いてサーシャが念の為聞く。
「聞いておく?今回もすごい数の差だぞ。なんとこのククリスク近くには、俺達と『王子様』の供回り、合わせて3千しか兵がいないのだー。」
俺が少しおちゃらけて言う。
「それでも、前回よりは差が縮まりましたね。」
前回は最初怖気づいていたイオナが、今回は自信たっぷりに言う。
全くだ。
前は20倍だった兵力差は、たった7倍強、ロスラヴィの兵だけでも、10倍差にまで縮まっている。
それに、こっちには魔法の力がある。
見た目の差よりはずっと楽な戦いだ。
―まずは、敵のお手並み拝見と行こうか。
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※次話投稿は、5月28日(金)夕方を予定しています。




