第2話 領地委任
次の日、俺たちは森のロスラヴィ側に入った。
早速モンスターに出迎えられたが。
「杖よ!戦う力を!」
俺が念じると、体に力がこもる。
その力で、モンスターを難なく倒していく。
相変わらず、仕組みはよくわからないが。
息をつく暇も無く、次の気配を感じる。
「ユーリ様!うしろ!」
「見えてる!」
サーシャに見張りをさせつつ、迫ってくる雑魚モンスターを杖で殴りつける。
またモンスターだ。実に多い。王都を出た時からうすうす感じてはいたが、モンスターとはこんなにも多いものなのか。
「おつかれさまです!」
サーシャが布で汗を拭いてくれる。
「ああ、ありがとう。」
「ユーリ様はすごいです。モンスターをこんなに簡単に倒しちゃうなんて。」
連戦でもあっさりと倒したことに、感激しているようだ。
「俺は、この杖に力を込めただけだよ。そうしたら、何故だか力が湧いてきて・・・」
どういう原理かはわからないけど。
「わたし、ユーリ様から杖を預かったとき、ちょっと力をこめたり、念じたりして見たんですけど、別に何も起きなかったですよ。やっぱりユーリ様がすごいんです。」
そうなのかな・・・?
「森を抜けたら、すぐにわたしの家です。」
サーシャの家か。少し休憩したら、王子様に託されたものを探そう。
それより、俺のいきさつをどうやって説明するか。
「あ、ユーリ様の事は大丈夫だと思います。おじいさまも、王都には思う所があるっていつも言ってますから。」
「そうなのか。それはありがたい。」
俺が無実の罪を着せられたおたずね者であることを、領主にどうやって説明するか考えようとしたが、その心配はしなくて良さそうだ。
そう言えば、ロスラヴィに着いてからの事を全く考えていなかった
―村があるみたいだから、聞き込みでもしてみるか。―
あれこれ考えているうちに、サーシャの家、ロスラヴィ領の屋敷に着いた。
「いやあ孫を助けていただいて、本当にありがとうございます!あなた様がいらっしゃらなかったら、どうなっていたことやら。」
この屋敷の主、ロスラヴィ卿―サーシャのおじいさん―だ。
今は、俺とサーシャとロスラヴィ卿の3人で食事をしている。
「いやいやそんな。」
「ユーリ様はもっと誇っていいんですよ。わたしもそう思います。」
「あ、それで、ちょっと相談があるんですが・・・」
俺は、今までのいきさつ、この土地に来た理由を打ち明ける。
「そうですか。大臣に謀られ、イワン王子は亡くなられたのですか。」
サーシャの言った通り、ロスラヴィ卿は俺を信用してくれたようだ。
「はい。今王宮では、大臣が完全に実権を握ってしまいました。」
「それで、あなた様は、王子様からこの地にある何かを託されたと。」
「それを探す間でいいので、少しだけお世話になればいいなと。」
俺は、少しの間だけ世話になるつもりだった。
「王子様の従者と言うことは、それなりに王子様のやることは見てこられたのですな?」
「まあ、かじった位ですけど。」
王子様が政治にかかわったのは数年間ではあったけど、俺は従者として、王子様について回ってはいた。
ロスラヴィ卿は考え込むと、また話し出した。
「・・・ちょうど良かった。サーシャはまだ13歳だが、この娘の両親は・・・すでにこの世にはおらぬ。そして、私ももう長くない。あなた様は孫娘を助けていただいた恩人だ。この老いぼれに代わって、領主の代行を担っていただきたい。」
・・・え?今なんて?
「それは、俺が領主代行って事ですか!?」
流石にびっくり仰天した。おたずね者、元々もせいぜい従者に過ぎなかった俺が、いきなり領地の経営を・・・!?
「そうとも。私もこの齢でしてな。誰かに政務を任せて、療養の旅に出たいと考えておりましてな。ぜひお願いしたい。まあ、3つの村に人口1800人ほどの小さい領地ではありますが。」
「ユーリ様が領主に・・・!いいと思います!わたしからもぜひ!」
横で話を聞いているサーシャも乗り気の様だ。
「王都の件は心配されずとも良い。私らは十数年前から、王都の支配は受けておりませんのでな。追手もここまでは入れますまい。」
これはもう、受けるしかあるまい。
「わかりました。全力で務めさせていただきます!」
こうして俺は、ロスラヴィの領主代行となった。
その夜。
俺があてがわれた部屋の窓からベッドに座って空を眺めていると、サーシャが部屋に訪ねてきた。
「眠れない?」
「はい。少しの間、ユーリ様と一緒にいたくて。」
俺の横に腰掛ける。
「サーシャは、どこかに行こうとしていたの?」
俺は、こんなモンスターだらけの森に一人で居た訳を聞いてみた。
「いえ。・・・わたし、一人でこの家から出たことが無かったんです。おじい様は危険だから外に出るなって出してくれなくて。」
サーシャは少し暗い表情をして、話し始めた。
「でもわたし、外を知りたくて。黙って一人で出てきてしまったんです。」
「・・・領地の中だけ、ほんの日帰りのつもりだったんです。朝出かけて、午後には戻ろうとして。」
「そうしたら、領地の中なのにモンスターが出てきて、なんとか逃げ出したと思ったら、もう日が暮れかけてて・・・」
それで、今度は盗賊に襲われたと。
次から次へと、なんとまあ物騒なことだ。
「・・・わたしが間違っていたんです。外の世界を見てみたいだなんて、大それたことを考えたから・・・」
うつむくサーシャの髪をなでながら、俺は優しく声をかける。
「サーシャは間違っていないよ。こんなに乱れた外の世界がおかしいんだ。」
「ユーリ様・・・?」
サーシャははっとしたようにこっちを向いた。
「サーシャ。」
「はい。」
「また、外にいこう。俺が一緒について行って、サーシャを守るよ。」
「ユーリ様・・・!」
サーシャはなんだか顔を赤らめているみたいだけど、言ったこっちも恥ずかしい。
だが本気だ。
「そうだ。明日早速、村に出てみよう。村の人に聞き込みもしたいし。サーシャのおじいさんには、俺から話すよ。」
「はいっ!」
サーシャは元気になったようだ。笑顔がまぶしい。
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