第1話 サーシャとの出会い
王宮から逃げ出した俺は、ひたすら西に向かう。
時には宿屋に泊り、時には野宿しながら。
やたら雑魚モンスターが出てくるが、途中で買った短剣で倒せる。
少し強そうな相手なら、この杖で力をこめて殴れば楽に倒せた。
流石に気が引けるけど。
金が少なくなってきたら、倒したモンスターの部位を町で金に交換する。
雑魚モンスターでも意外と高く売れるので助かる。
途中街で聞いた話だと、病気の王も後を追うようにこの世を去ったという。
大臣の仲間内だけで会議が開かれ、大臣が新しい王になったのだとか。
そして、俺への濡れ衣はまだ大っぴらにはなっていないようだ。
ただ、いずれ追手が来るだろう。
俺は、手元の杖を眺めた。
これ、どうしようか。
―そう言えば・・・
俺は、生前の王子様との会話を思い出した。
~王子暗殺前~
「我が従者ユーリよ。そなたは、我が国の宝具の話を知っているか?」
そう話しかけてきたのは、王子様だ。
「宝具?初代王が国をまとめるのに用いたという、杖、盾、宝珠、剣の4つの道具ですか?」
「そうだ。私が腰に差している杖もその一つだ。」
「その宝具が、何か?」
「宝珠と剣は長らく行方が分からないが、盾の在り処は分かっている。王都から南西の果て、パルスカ王国との国境近くにある、ロスラヴィと言う村の森の中に眠っていると言う。」
王子様の話は続く。
「禍が来てしまったとき、そなたにすべてを背負う覚悟があるなら、そこへ行ってみると良い。今は、それでよい。」
~回想終わり~
当時はなんのこっちゃと思っていたが。
今の状況を予見していたのだろうか。
ロスラヴィ・・・と言ったな。
王子様は、そこで俺に何かを託そうとしている・・・と言うことか?
丁度、目指す隣の国―パルスカ王国―との国境にも近い。
まずは、そこにたどり着いてから決めよう。
そんな生活を始めて、何週間かたった夕方。
俺は、ロスラヴィ領近くの森までたどり着き、街道から外れた場所で野営の準備をしていた。
明日は、いよいよロスラヴィだ。
着いたら聞き込みでもしてみようか。
そんなことを思っていた時だった。
「…. …」
―なんだ?―
あたりが騒がしい。
「…!」
俺は草むらから顔を出す。
―盗賊だ。10人以上いる。―
その視線の先を追う。
女の子が地面にへたり込んでいる。
美しい長い金髪、透きとおった青い瞳にまだあどけない顔。
小柄ですらっとした体系。まだ10代前半に見える。
「あ・・・!」
その顔は恐怖にゆがみ、ろくに声も出せないようだ。
「ぐへへへ。嬢ちゃん。俺らに出会ったのが運のつきだ。」
「やっぱり身なりはいいな。金もありそうだ。」
「まずは俺らが楽しんでから、奴隷商人にでも売り飛ばそう。」
「待て!」
俺は草むらから飛び出した。
「なんだお前は?」
盗賊達の目が一斉に俺をむく。
「・・・え?」
女の子も俺の存在に気付いたようだ。
平和的に解決は無理そうだ。
戦うしかないだろうな。
といっても、ただ杖で殴るだけでは、流石に敵の数が多すぎる。
だが、俺には考えがあった。
「俺は、リューリク王国イワン王子の従者、ユーリ!」
名乗りながら杖を握りしめる。
体に力が溢れる。
気付いたことがある。
―この杖、一度握りしめるとしばらく体が軽くなる!―
「王子だか従者だか知らないが、この娘は俺たちが頂くんだ。さあ嬢ちゃん、俺達といいことしようか。」
下品に笑いながら女の子に近寄った大男を、杖で払う。
「がはッ!」
軽く振っただけなのに、一撃で倒せた!
間違いない。
―ただ殴るだけの杖じゃない!―
一体これは何なのか、よくわからない。
今わかることはただ一つ。
杖を握って戦いたいと念じると、どこからか力が湧いてくるらしい。
「俺の後ろにいて!」
「・・・ええ!」
女の子の前に出る。さっきより顔色が明るくなったようだ。
―杖よ、俺に戦う力、この女の子を守る力を!―
体の中に更に力が増した。
「なっ!お前ら、やっちまえ!」
「うおーーー!」
仲間を一撃で倒されたのが予想外だったのか、盗賊の手下が一斉に襲いかかってくる。
それを、杖で振り払う。
「ぐふっ!」
「ぎゃっ!」
「うわっ!」
押し寄せる盗賊が木の葉のように軽々と吹き飛んでいく。
「お、お前一体!何者だ!」
最後に残った盗賊の首領が動揺しながら大剣をかざす。
杖よりもかなり長そうだ。
ならば!
「もってて!」
「はい!」
杖を女の子に預ける。
短剣に持ちかえ、姿勢を低くして首領に突進する。
狙いは喉元!
「うおおおおお!」
「なにっ!」
大剣をかいくぐり、喉元を正確につく。
ザクッ!
「ぐわあああああ!」
ドンッと音を立て、首領が後ろに倒れた。
あたりを見渡すが、風の音がするだけ。もう仲間はいないようだ。
「お怪我ありませんか!?」
少女が駆け寄ってくる。
「いや、全然。君こそ大丈夫?」
よけきれなかった攻撃もありそうだけど、全然痛くないから全部外れたんだろう。
せいぜい戦闘中に蚊に刺されたくらいだ。
「私、サーシャって言います。あの・・・助けていただいてありがとうございます!」
「いやあ、大したことはしてないよ。」
俺は頭をかきながら答えた。
「ぐすん…ひっく…ごめんなさい、安心したら、涙が出てきちゃって・・・」
サーシャが俺をぎゅっと抱きしめた。怖かったのか、肩が震えている。
その肩を、優しくさする。
「もう大丈夫だよ。大丈夫。」
涙を手で拭うと、彼女は笑顔を向けてくれた。
「はい!」
そこで気付く。
「あ、俺、返り血浴びてるよ。」
「かまいません。・・・もうちょっと、こうやっていさせてください。」
サーシャはそれでもかまわず、俺に抱き着いている。
「わかった。」
声も落ち着いて、もうすっかり元気になったようだ。
「俺はユーリ。王子様の従者・・・だった。あ、城を離れているのには、ちょっと事情があって・・・」
「ユーリ・・・様ですか?あらためて、本当にありがとうございます!わたし、ユーリ様がいなかったら、どうなっていたか・・・。」
「いやぁ、様なんて大げさなもんじゃあ・・・」
ちょっと恥ずかしい。
「そうだったんですね。お城でそんなことが・・・」
あの後、少し離れた別の場所で野営しながら、俺はサーシャに今までのいきさつを話していた。
・・・俺がおたずね者だってさらっと言ってしまったが、彼女になら大丈夫だろう。直観がそう言っている。
「なんで、俺も一応、おたずね者扱いって事になってると思う。」
「わたしにとっては、ユーリ様は救世主様です。おたずねものなんかじゃありません。」
ちょっと強めの口調で彼女が言う。
「そうだ、わたしの家でしばらくゆっくりして行ってください。きっとおじい様も喜びます。」
「ありがとね。だけど俺は、王子様が俺に託した何かを探しに、ロスラヴィに行かなくちゃならないんだ。」
ぐずぐずしていると、城から追手が来るかもしれない。かといって、サーシャを一人にするわけにはいかない。
「サーシャはどこの出身なの?先に家まで送るよ。」
俺は先にサーシャを家に送り届けようと思ったが、彼女は思いがけないことを言った。
「それなら、やっぱりわたしもロスラヴィまでついていきます。」
「ついてくる?」
少し疑問に思った俺に、サーシャははきはきとした声で答えた。
「はい。ロスラヴィって、わたしのおじい様の領地なんです。」
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