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第148話 両サイド 東の果て、対峙する

≪ユーリサイド≫


森の中に、大きな猪を見つけた。

「おりゃぁ!!」

杖を振り下ろすと、鹿は一撃の内に斃れた。


「ふう…今日はこのあたりで野営か。」

食料が何とかなったので、ひとまず胸をなでおろす。

「ユーリ様今日もお疲れ様です!!」

「その猪も、ここですぐ捌いちゃいますね。」

汗を拭ってくれるサーシャも、獲物を手際よく捌くイオナも、この野生の世界においては実戦部隊の一人だ。


「わたしたち、戦いが無くともあまり進んでいませんよね。」

「案の定、どの村も略奪されていたからな。」

サーシャの指摘通りだ。

振り返ると、昨日の野営地までもがしっかりと目視できるのだから。


「ユーリ殿。ポネツ軍は、取り残された民への対応で手いっぱいのようです。」

ポネツ軍の陣地に行っていたミーリャさんの証言も、進軍の遅れを裏付けている。

「報告ありがとう。ミーリャさんも夕ご飯できてるよ。」

「今日は、ユーリ様が自ら狩りをして仕留めた獲物の肉なんですよ!!」

サーシャがはしゃぎながら紹介すると、ミーリャさんもどれどれと興味深そうにのぞき込む。



そこへ現れたのは、ポネツ皇国のマサチカ将軍だ。

「異国の王よ、我らポネツの兵には、長らく異国での戦は経験がない。そなたはあちこちの異国を征服したと聞くが、いかようにすればよい?」

征服したわけではないのだけれど…

とにかく将軍から意見求められたのだから、俺は最善の策を提案する

「民心掌握のためには、こちらの軍の食料を出すしかありません。」

「だがしかし、進軍のためには食料が必要であろう。」

「そうでないと、民は飢え、たちまちの内に後方で抵抗が広まるでしょう。」

「ううむ…」

あちらを立てればこちらが立たぬ。

マサチカ将軍は、唸りながら黙ってしまった。


【ゴリツィンサイド】


川岸。


「ええい、いつまでもここで燻っておられるか!!敵は目の前なのだぞ!!」

「しかしながら王様、こちらから川を渡れば、確実に奴らのアルケブス銃の餌食となりましょう。」

「わかっておる!!だからこうして、討って出ずにおるのだ!!」

眼前の敵さえ何とか出来れば、不用心にも本国をがら空きにしたユーリの奴に、今こそ止めをさせると言うのに!!


けれども、聡明なワシは地団太を踏むだけでななく、きちんと策を練る。

目の前の敵を退かせるための策を。


妙案は…無いわけでないのだ。



≪ユーリサイド≫


「停戦交渉…か。まあ、そうなるよな。」

「ポネツ皇国の端っこのタカハルと言う街に、ギタイア側が使節を派遣する形で行われているそうです。」

再びポネツ軍の陣地から戻ってきたミーリャさんの報告は、誰もが予想した物だった。

「双方打つ手なし、膠着状態ですからね。やっぱりユーリ様の魔法って、すごいんだなって思いました。」

「今回は俺達に利もないし、戦う動機も正直ない。それに今のところ、魔人すらも現れてないしなあ。」

―頃合いをみて、引き揚げるか。



そう思い始めて、数日後のこと。



「何い!?」

「それは誠か!?」

「馬鹿な!!我らがポネツを発った時、そんな様子はどこにも…!!」

ポネツ軍の将兵たちから聞こえる、動揺の声。

「何だ?」

急遽あがったどよめきの訳が、俺達には全然わからず首をかしげる。

「今朝増えたらしい魔物の新手が、強そうに見えたんですかね?」

推測して見せたのはサーシャだが、やはり確信は無さそうだ。

「仕掛けては来ないんだろ?敵の増援なんて今更のはずだが。」

―何か変わったことでもあったのか?

目を凝らして、川の向こう岸をまじまじと見る。


「…ん?ちょっと待て。あれ、ゴリツィンじゃないか!?」

魔物軍のど真ん中に、甲冑を着て相変わらずふんぞり返る姿を見つけた。

「ユーリ殿!!間違いないです!!ゴリツィンがあんなところに!!」

「王様の…敵!!」

皆も反射的に武器を取る。

「見た感じは大将っぽいし、ただの魔物とは勝手が違うとでも思っているのかな?」

向こう岸をおおうばかりの大軍。きっと魔人も控えているのだろう。

だが、仇敵を前にして俺達のやることは変わらない。

別に全軍を倒す必要はない。

強化魔法をかけて、少数精鋭で駆け。

ただ…敵の「大将」を討ち果たす!!               

「ユーリ様、今こそゴリツィンを倒しましょう!!」

「私が露払いをします。ユーリ殿はそのうちに一騎討ちを!!」

「ああ!!」

杖だけでは足らない。

ここまで使わなかった槍を構え、柄を握りしめる!!



「リューリク王殿!!リューリク王殿!!」

いざ出陣と言う時、ポネツの将軍が突然馬で駆け寄ってきた。

「どうしたんですか?」

「一大事にござる!!一大事でござる!!」

血相を変えた将軍に、何やらただならぬ報せを予感する。

一体何が起きたのだろうか?

将軍の次の言葉に、全員で耳をそばだてると…


「「「「!?」」」」

「マリチカ大将軍が死んだ!?」

思わず大声をあげそうになり、向こう岸に聞かれる危険性を感じて慌てて口を押さえる。

けれど、一瞬で合点はいった。

最高権力者である、将軍の死去。

そりゃポネツ軍は、蜂の巣をつついたような騒ぎだろう。

「大将軍の座は第一子のマリツネ様が後を継ぐことになりますが、マリツネ様はまだお若く政の経験がありませぬ。ゆえに今ポネツ国内では、大将軍にかわって側近の五奉行が実権を握っておりますが、その五奉行は兵を引けとのお触れをだされたそうで…」


「ユーリ殿、どうします?」

みんな流石に動揺する中、いち早く冷静さを取り戻したミーリャさんが俺の顔を見ながら聞いてくる。

―一撃離脱なら、もしかしたら何とかなるかもしれないけど…

皆の顔を見渡すと、やはり長旅を続けてきただけに、それなりの疲れが見える。

だから、俺は決断する。

「いや、ここはポネツに引き返してからニコラを送り届けて、そのままリューリクに帰ろう。俺達はあくまで観戦武官。それに川の向こう側は奴らの本拠だ。万が一俺達が向こう岸に渡った隙にポネツ軍が総崩れになったら、俺達は敵のど真ん中に取り残されてしまう。」

「「!!」」

「正直、サーシャもちょっと疲れてるだろ。ミーリャさんだって。」

イオナもニコラもリサノワも、同じく表情には疲労の色が見える。

「それは…」

「疲労はしていますが、私はまだ平気です。」

「無理は良くないって。」

「ユーリ様…」

「ありがとう…ございます。」

「そうですね。ユーリさんがそう言うなら、帰りましょうか。」

「王様…。」

「危険な橋をあえてわたるべきではない時もある。私も帰ることに賛成。」

俺達はついに、地の果てでもゴリツィンを捕捉することに成功した。

だから、退けばまた戦う機会はあるだろう。


だから、槍の穂先を向こう岸に向け。

必ず倒すと意思を込め、眼前の敵を睨み付けた。


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