プロローグ
俺、ことユーリ・オリョノフは従者である。
大陸の北方にある国、リューリク王国のイワン王子に仕えている。
・・・いや、仕えていた、と言うべきだろうか。
用事で外出していた俺の元に、【王子様が殺された、すぐ王宮に来るように。】との知らせが届いたからだ。
急いで王宮に行くと、そこには閣僚が勢ぞろいしていた。
「お、王子様が!・・・その、殺されたとお聞きしましたが!?」
「そのとおりだ、見るが良い。イワン王子は哀れにも殺されてしまったのだ!」
ひげ面のゴリツィン大臣が、なぜかニヤつきながら肯定した。
その足元に、王子様が亡骸となって転がっていた。
俺は王子様に駆け寄ったが、どう見ても手遅れだった。
「一体誰がこんなこと・・・を!?」
そう言いかけて、俺は気付く。
王子の周りを取り囲んでいる、閣僚。
よく見ると、皆なぜか武器を持っている。
しかも。
一部の閣僚は、あろう事か王子様の亡骸に武器を突き刺している。
「大臣・・・まさか!?」
ゴリツィン大臣は俺の問いに答えず、更に理不尽なことを言い出した。
「イワン王子の従者ユーリ・オリョノフよ、お前を王子殺害の容疑で死刑に処する!」
ひげ面のゴリツィン大臣が、大声で叫ぶ。
「はあ!?一体どういう事ですか!?」
間違いない。
王子様を殺したのは、他ならぬこいつらだ。
しかも、その罪を俺になすりつけて殺そうというのか。
ひどすぎる。あんまりだ。
「そうだぞ。王子様を殺すとは、なんて悪い奴だ。」
王子の亡骸から槍を引き抜きながら、若い軍司令官のタマンスキーが、高い声で罵る。
いや、よくもぬけぬけとそんなことが言えるな!
「お前が王子様を殺した。証人もここに沢山いる。これは変えられないことなのだ。呪うなら自分の無力さを呪うのだな。」
未だ煙が立ち込める拳銃を俺に向けつつ、秘密警察の長官モリノフが堂々と言い放った。
どう見ても、その銃を王子様に向かって撃ったのはお前じゃないか。
「一体なぜこんな事を!」
「ユーリ・オリョノフとやら。お前は無力なうえに物分りも悪いのか?ああ、だからいつになっても力が無いのか。」
そんなことを言うのは、嫌味な顔をした税務長官のプガチョフだ。
「ならば教えてやろう。この国の王は病で危篤。王子は今や死に、王族は絶えた。これでこの国は、・・・ワシの物だ!!」
ゴリツィン大臣が勝ち誇って言い放った。
―そういう事か。
ゴリツィンの奴め、高笑いしてやがる。
「何はともあれ、お前にも今ここで消えてもらう。」
「この外道共め。必ず報いを受けさせてやる!」
「ワハハハハ!報いだぁ?ただの従者に何ができる!王子にくっついて回ってただけの、ただの召使い風情が!民衆にでも広めてみるか?だが、ワシはこの国の王になる男。片やお前は、ただの召使いにすぎぬ!お前の言うことを信じ、お前に味方する者など、この世界にはだれもおらぬのだ!」
―大人しく聞いていれば言いたい放題言いやがって。
「そんな役立たずのお前に、ワシが役目を与えてやろうというのだ!全ての罪を背負って死ぬという役目をな!あの世でワシらに感謝するがいい!」
ここでおとなしく死ぬ気はない。
だが策も無い。どうする俺。
「では死ね!」
ゴリツィンが剣を振りおろす。
俺はとっさに、王子が腰に差していた杖で剣を防ぐ。
ドーンという音とともに煙が立ち込めた。
「何事だ!」
「目くらましとは卑怯だぞ!」
―ここで死ぬわけにはいかない!―
その隙に、杖を握りしめて無我夢中で王宮から逃げ出した。
途中何度も弓矢が飛んできたが、全く当たらない。俺は運だけは良いらしい。
ふと、力が抜ける。
気が付くと、王宮も追っ手も見えなかった。
なんとか助かった。
少し落ち着くと、手に持った王子様の形見の杖が気になる。
これ、どうしようか。
ひとまず、国内からは出なくてはならないだろう。
この国の東側は、魔物の領地と言われ、立ち入る者はいない。
北は寒すぎるし、南はよくわからない。
だったら、まともな国がある西側だろう。
俺は、西に向かって歩き始めた。
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