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29話「悪魔談義」

「未だに進展の無い呪いのルールより、クレハさんの映像や、ミズキさんの証言から推測できる怪物の方の正体を掴みたいですね」

「そうね。そっちの方からアプローチした方がいいでしょうね」

「ボロボロのマントと大鎌は特徴的ですけど、クレハさんの映像にちらりと見えた角も特徴的でした。瑞輝さんの証言から推測すると、あれは頭蓋骨から直に生えているみたいですね」

「何の骨格か判別できれば、元の呪いの正体にも近づくってことね」

「はい。ええと……」


 梓は後ろの戸棚からメモ帳とマジックペンを取り出すと、紙に絵を描き始めた。

「んー……こんな感じだったかと思いますけど……」

 完成したのは……。

「ええと、何? ああ……んー?」

 杏香は何か分かりかねているようだ。


「ああーんと……、ソフトクリームのコーン? ふやけてる感じかな……?」

「杏香さん……わざとやってるです?」

 梓がイラッとしながら答える。

「ええ?」

「角です、角」

「ああ、あの怪物の角なのね。こんな感じかぁ……」

「もー……」

 杏香の、この絵に対しての解釈がボケか天然かは、梓には分からないが、杏香が腕組みをして絵をじっくり見だしたので、梓も思考を巡らすことにした。

「んー……」


 梓は今までのことを、頭の中で整理する。

 ちらりと出た角。あれが精巧にできたコスチュームだという可能性も否定できない。とはいえ、その後で消えたのは、人間業ではない。

 これまでの被害者が、何故、毎回正確に首だけを斬り落とされていたのか。それは杉村と瑞輝の二件のレアケースを考えると納得がいく。

 この二件にしか見られない、特異なこと。それは、二人共、事前に怪物の事を察知していたからだ。

 杉村の場合、パトロール中に遭遇した可能性が高いので、常に周囲を警戒していたのだろう。だから、杉村の場合は多少の抵抗ができたのだ。瑞輝の方はというと、先にティムが斬られた。それに加えて、瑞輝本人も、怪物の魔力を感じ取ることができたらしい。二人共、そしてティムも、事前に警戒をしていたのだ。

 何故、抵抗しなかったか……それは、不意に遭遇したからだ。急に表れて急に消える。だから殆どの人は不意を突かれて、何も抵抗ができずに首だけを斬られた。

 そう考えると、怪物の目撃証言が少ないのも当然に思える。殺す対象に気付かれないように首を斬り、その後はすっと消える。そうすれば、当然、人に見られるリスクも少なくなる。


「……あ、怪物の事、皆に知らせたら、被害は少なくなるです!」

「みんな、連続殺人のことは知ってるでしょ」

「相手が怪物だってことも知らせるです。怪物だって分かれば、みんなそれなりに警戒するはずです」

「言いたい事は分かるけど……本当の怪物だと言って、みんなが信じると思う?」

「容姿だけでも知らせることができれば……」

「うーん……多分、警察としてアナウンスすることは無理かもね。ごめん」

「そうなんですか」

「今のところ、梓と瑞輝の証言しかないし……それが本当の怪物だってこともやりずらいわ。怪物は被り物だってことにすれば、いける可能性もあるけど……」

「嘘をついて無理矢理やっても、後が大変……」

「そういうこと。あたしとしては、堅実にいきたいわけよ」

「んー……確かに、そこまでやらないといけないのは……ちょっと背負うリスクが大き過ぎますね」

「ええ。犯人探しが遅れることになりかねない」

「そうですか……」


 やはり、この状況では、事件を解決するのが確実で被害も抑えられそうだ。警察との共同戦線は、それはそれでやりずらいが、警察の組織力も場合によっては頼りになる。それに、今は味方同士での争いは避けたい。梓は呪いの事に意識を戻す。

「うーん……」

 杏香が梓の絵を見ながら唸る。

「やっぱり下手ですか……書き直すです」

 梓は絵を描き直そうと、紙を自分の方へと引き寄せようとした。

「ああ、いや、そうじゃなくて……頭蓋骨まで見えたら、もっと真相に肉薄できたかなって」

「頭蓋骨……そうですね、顔の形って、呪いの元を調べるうえでも結構大事な要素なんですよね」

「そうよねぇ……まあ、無いものねだりをしてもしょうがないけどさ」

「無いものねだり……そうですね……」

 どうやら杏香の方も、精神的に参っている。杏香が珍しく暗い顔を見せたことで、梓はそう思った。

「今までに比べたら、手掛かりが出てきただけでもマシだけど、これだけで詰めろってのも、ちょっと無理よね」


 梓はふと思った。いつまでもこんな調子では、逆に杉村、瑞輝、ティムのような人をまた増やしてしまうと。

 その三人のおかげで、やっと事件を解決に導くための手掛かりが掴めた。だったら、こんな時こそ平常心で思考を巡らし、三人のような人を、もう出さないようにしないといけない。

「ふぅー……」

 息を吐き、呼吸と気持ちを整える。大事なのは、悔やむことじゃない。


「やっぱり、最大の手掛かりは、この角ですよね。頭蓋骨からにょきっと、歪曲しながら伸びた角……」

「ええ。小刻みに横筋が入ってて、僅かに捻じれてる。こうしてみると、この角の特徴って悪魔みたいね」

「悪魔ですか……可能性は一番高いですね。悪魔の力を借りる黒魔術は、今でも呪いの代名詞ですからね」

「こんな形の角といったら、すぐに思いつくのはバフォメットかしら。あとは、アモンとか」

「アスタロト……アスモダイ……」

「きりがないわね。恐らく悪魔としては一番有名なサタンにもついてるし、マイナーどころのグシオンやハーンティーだって角を持ってるわ」

「そうですね。悪魔だとしても、この角だけじゃ、ちょっと絞りきれないですベルフェゴール、ガープ……ほんと、きりがないですね……あ、でも、逆にサタンレベルの強力な悪魔だとは考えにくいですよね」

「と、いうと?」

「サタンほど強力な悪魔が起こすには、小規模な怪異だからです。代償も、人間の制御しきれるものではないでしょうし」

「なるほど、悪魔が持つ力で判別するわけね」

「はい。とはいえ、それでも絞るのは難しそうですけど。中堅クラスの悪魔だって、山ほど居ますから」

「こりゃ、骨が折れそうね。ソロモン七十二柱とか言うもんね」

「はい。しかも、グリモワールに記されていない悪魔だって、うじゃうじゃ居るです」

「七十二どころじゃないってことかぁ……悪魔だって絞りきれたわけじゃないし」

「エジプト神話のアメンも、羊の頭を持ってました。そう考えると、やっぱり、もう少し手掛かりが欲しいですけど……」

「そうもいってられない……か……」


 話が煮詰まったところで、梓は体勢を楽にしようと後ろに手をついた。ついた手に写真がコツリと当たった。

我はソロモン七十二柱の一……。

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