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22話「屋上の生徒たち」

「おい! ふざけんなよマジで!」

 上田の叫び声で、昼休みの屋上は騒然とした。

「何がですか」

「お前だろオラァ!」

 上田が高岡(たかおか)の胸ぐらを掴んだ。

「や……やめて下さいよ、制服が伸びてしまうでしょ!」


「何だ、ありゃ」

 屋上の隅で仰向けの駿一が呟いた。うるさい叫び声が聞こえたおかげで、うとうととしていた駿一は、若干機嫌が悪くなっている。

「なんかね、ゲーム機の事をチクられたんだって」

 悠が横からすぅっと出てきて駿一の疑問に答えた。

 駿一は、珍しく何も言わずに黙って聞いている。さっきの言葉は、半ば呆れて出てきた言葉なのだが、駿一が何かを呟くと、かなりの確率でこうやって出てきて疑問に答えてくれる。 

 殆どの場合、俊一はそれがウザくてたまらないのだが、今回は、上田があそこまで熱くなることは珍しいので、それとなく気になっていた。

「ああ、そう」

 気になっていただけで、大して関心のある話でもなさそうなので、駿一は軽く受け流し、ごろりと横になって再び目を瞑った。


「うるせぇ! てめえだろチクったのはよぉ!」

 上田が更に叫ぶ。

「い……いけない事を先生に報告して何が悪いのです! 僕は風紀の乱れを自主的に正しただけです!」

「風紀委員だからか!? ふざけんなよ!」

「やめな!」


 一喝したのは冬城だ。

「止めんじゃねえよ!」

 腕っぷしの強い冬城には、いつもは決して逆らわず、むしろ近寄らずに過ごしてきた上田が、冬城に対しても激昂している。

「高岡を攻めたって、なんにもならないだろ!」

「お前……お前だって、いつも怒ってるくせに!」

「確かに、あたしだって人の事は言えない。でもな、こんなのを見ちまったら、止めないわけにもいかない」


 冬城は上田の方を向いたまま、後ろ手で高岡の胸を強く押して無理矢理二人の距離を遠ざけると、二人の間に位置取った。

「よしてくれ! こいつは、俺の……」

「黙れよ!」

 冬城が上田を殴った。周りの人間が見た感じ、手加減はしていなさそうだ。


「まだ言うのか! 男が、たかがゲーム機の一つくらいさぁ! そんなに欲しけりゃバイトでもなんでもして、また買えばいいだろうが!」

「冬城、お前ぇ!」

「やるってんなら付き合うぜ、とことんな。行こうぜ、好きな場所、選べよ」

「……」


 上田が無言で冬城を睨みつけながら、首を上下に振りガンをつけて威嚇している。

 そんな上田を冬城は睨みながら見据えていたが――やがて、上田が屋上の出口の方向にクイッと顎を振ると、二人は睨み合いながら、その出口へ入り屋上を去っていった。


「上田君、なんか揉めてるね」

「そうだね、ちょっと怖かったね」

「うん……」

 屋上の網の上に手を乗せて、寄り掛かりながら話しているのは空来と瑞輝だ。

 瑞輝と上田は席が隣同士なので偶に喋るが、人に無関心そうな上田があれほど激昂した姿を見たのは初めてだ。少し心臓がどきどきしている。


 そんな瑞輝の様子を、駿一は相変わらず寝転がりながら、ぼおっと眺めていた。

「あいつ、ティムと妙に仲良くなったと思ったら、次は空来か」

「うん?」

「いや、お前には話してねーから」

「じゃあ、あたしから話すね!」

「はいはい……」

「うん? 桃井君じゃない。ははぁ……さてはティムを取られて焼いてると見た」

「ちげーよ」

「えっ、じゃあなに、空来さん!? 駿一ったら、あたしという存在がありながら……」

「だから、そっちの方向じゃねーよ! ……ただ、ちょっと気になっただけだ。なんとなく、こう……俺を避けてんのかなって……」

「へっ!?」

「ティムといい感じになってから桃井の事を意識するようになったんだが……」

「えっ、えっ……!」

「どうも、俺だけに特別に冷たくなってる気がしてな……」

「それって……愛!」

「ちがぁーーーう!」


「ど……どうしたの駿一君……」

「おっ……な、なんでもないんだ。気にしないでくれ」


 駿一は気まずくなったので、屋上から離れることにした。


「ねえ駿一、さっきの……」

「だから違うぞ。さっきのはその……友達……というか、クラスメートとしてな、妙に避けられてるような気がしただけだ」

「へぇ……」

「……何だよ」

「いつも自分から人を払う駿一がそんな事言うなんて、珍しいなって」

「……悪かったな」

「桃井君はね、きっと駿一のことを気遣ってるんだよ」

「ええ? 俺を?」

「優しい桃井君は、駿一が人嫌いだっていうのを知ってて、気を遣って避けてるのかもしれないよ?」

「ほう……なるほどな……」

「桃井君、いい人で、プラス引っ込み思案だから、気を遣い過ぎちゃうんだよ。生き返り事件の前後なんて、それに輪をかけて、一人で縮こまっててさ、駿一みたいに人が居ると避けてたし」

「ああ……なんつーか、特に事件の前は、いかにも自殺しますって顔してて、本当に自殺しちまったからな。ま……あれは別人らしいから、自殺はしてないんだろうが」

「そうだね……嫌な……ほんと、嫌だったよね、あの時は」


 駿一が自殺したという情報は、全校集会の前にメールで回ってきていた。駿一が知ったのは、常日頃から積極的に情報収集しているロニクルからだった。あの時ばかりは、さすがの悠にも効いたようで、数週間、喋らなくなった。

 駿一も、悠が一向に喋らないことも含めて、なんだか落ち着かない日々を過ごしたものだ。もっとも、ウザい霊にはさっさと成仏してもらった方が良かったが。駿一は、そんな思いを「フッ」というかすかな笑い声に乗せた。


「でもさ、今はああやって、……何ていうんだろう。前向きになったっていうのかな。ちょっと元気が出てきたみたいで良かったよね」

「ああ、そうだ。そうだが……どうにも俺だけ引き続き避けられてる気がするんだよな。デパートの時も、それとなく俺を避けてたような気がして……」

「えー……それは駿一の自意識過剰じゃないのー? やっぱり、き……気があるんじゃあ!?」

 悠の声は上ずり、頬は紅潮している。

「だから、ちげーって!」

「そうかなぁー?」

「そういや、悠は桃井と幼馴染だろ? 何か真面目に心当たりとかねーのかよ」

「んー? そうだなー……」


 悠が頬に人差し指を当てて視線を斜め上に向けながら、勿体ぶった口調で言った。激しくウザい。駿一は少し真面目ぶって聞いたことを後悔した。

「優しい桃井君は、駿一が怖いんじゃないの? 駿一はツンツンだからなぁ」

 悠がにこやかに、愉快そうにいっている。

「あのなぁ……」

 ウザさ120%だ。駿一はゲンコツの一つでも食らわせてやろうかという気持ちになったが、それが霊体に出来たら苦労しないと諦めた。


「てかさ、そんなに気になるんだったら、本人が目の前に居るんだから、聞いてみればいいじゃん」

「うん? んー……なんだか照れくさいんだよなぁ。中学から今まで、殆ど他人だったわけだしな」

「お互いに恥ずかしがってちゃ、何も進展しないよ」

「いや、別に恥ずかしがってるわけじゃあなぁ……」

「じゃあ、聞いてみなよ。減るもんじゃなし」

「いや……そのな……」

「そのな……何?」

「……何でもねえ。俺は一人がいいんだよ!」

「もう……話しかけてあげれば、桃井君だって喜ぶのに。変な所で似た者同士なんだから」

 駿一の人嫌いも大概なものだと、悠は眉をひそめた。


「……でもさ、最近少し、以前の桃井君に戻ってる気がするんだよね」

「そうか? 空来とも話してて、順調そうじゃないか。ほら、俺が梓さんに呼ばれた時だって、あの後四人で映画見に行ったみたいだし」

「うーん……そうだけど……ああ、ひょっとして、ティムの事がショックだったのかも。うー……大丈夫かな、桃井君……あたしが話せたらいいのにな……」

「ま、大丈夫だろ。ティムも良くなってるっていうしな。さすがビッグフットの生命力だよ」

「そうかな……それならいいんだけど……」

 漠然とした不安を、悠はどうしても感じてしまうのだった。

視点が目まぐるしく変わっていく今回でした。


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