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21話「ミズキの性別」

 ――ピピピピ……ピピピピ……。


「うーーーーん……あーーーー……」


 目覚まし時計の音がうるさい。外の鳥もチュンチュン鳴いていて、平和な朝の雰囲気なのだが、電子音の鳴る目覚ましのスヌーズと重なって、規則的に鳴いている気がして、今日はなんだかいつも以上に疎ましい。


 ――ピピピピ……ピピピピ……。


 昨晩見たテレビによると、電子音が一番寝覚めがいいらしいが、本当なのだろうか。本当だとしたら、僕の場合は何故、全然目が覚めないのだろうか。


「あーー……うるさいなぁ……」


 ――ピピピピ……ピピピピ……。


「昨日遅かったから、もうちょっとだけ……」


 昨日は色々あった。映画を見に行ってパンフレットを買ったりした。ちょっと楽しかったけど……その後が最悪だ。変な怪物には出くわすし、ティムが斬られて病院に運ばれるし。

 しかも、その時に魔力を使ったからか、体も凄くだるい。一晩寝れば治るかとも思ったが、今は輪をかけて、なんだか体が重いのだ。


 ――ピピピピ……ピピピピ……。


「うー……起きたくないよー……」


 その後に来た警察の人に事情を聴かれたけれど、なんだか目が怖くて緊張したし、根掘り葉掘り細かい事を聞かれて大変だった。その上「もしかすると、詳しい話を署で聞かせてもらうかもしれない」とか言いだして、連絡先を聞かれた。

 あの人の雰囲気だと、刑事ドラマみたいに取調室で威圧しながら話を聞かれるんじゃないかと、今もヒヤヒヤしている。

 もっとも、異世界で拷問めいたことをやられた時よりは、辛くはないのだろうけど……言葉攻めだけだって嫌なものは嫌なのだから、そんな機会は無い方がいい。

 色々な理由があって、今日は近年で一番起きたくない日だ。いっそ、このまま二度寝してしまおうか。


 ――ピピピピ……ピピピピ……。


「瑞輝君、早く起きないと遅刻しちゃう……!」

「ん……あと五分……って、誰!?」

 母さんの声ではないぞ……母さんが起こしにきたのではないぞ! 瑞輝は驚いて飛び起きた。


「あっ! お母さん起きましたー!」

 誰かが入り口の扉を開けて叫んだ。

「ありがとう、助かるわー」

 下から瑞輝の母の声が、瑞輝に聞こえてきた。


「なんだなんだ……って、空来さん!?」

 瑞輝の目の前には、何故か空来が居る。何故、空来がここに居るのか。瑞輝の頭は混乱するばかりだ。

「おはよう、瑞輝君」

「お……おはよう……」

 空来がナチュラルに挨拶するものだから、瑞輝もなんとなく、それに返した。


「瑞輝君……いや、瑞輝ちゃん? 昨日のアレなんだけど……何!?」

「昨日のアレ? アレって何よ?」

 瑞輝には心当たりが沢山あって、どれだか絞り切れない。空来も昨日の警察の人に何か聞かれたのかとも思ったが……。


「え……ちゃん?」

 その一言で、なんとなく、空来が何を気にしているのか、瑞輝には分かった。

「あの女の子って……瑞輝君でしょ?」

「ああ……うん……」

 今までここまで自分の正体がバレてしまったことはなかったし、想定もしていなかった。そう思って、瑞輝はで思わずコクリと頷いてしまったが……誤魔化すべきだったかもしれないと、すぐに後悔した。


「え……ええと……ええとね……」

 今からでも誤魔化そうと思ったが、いい言い訳が思いつかない。考えれば考えるほど焦るばかりだ。

「違うのかしら……、あのピンク髪のかわいい子、誰なの?」

「誰って……」


 瑞輝は、僕だと言いたい衝動にかられた。しかし、言ったとしてもどうなるのだろうかとも思った。言っていいのだろうか、そもそも、本当のことを言ったとして、信じてもらえるのだろうか……。


「瑞輝君なんでしょ? だって、性格がそうだったし」

「ええ? んー……ち……違うんじゃないかな……?」

 バレたら困る。しかし、根拠も言い訳も思いつかない。取り敢えず、単純に否定してみるしかない。

「え……違うの? じゃあ、誰?」

「わ……分からない……」

 分からないわけはない。自分自身なんだから。瑞輝は自分で自分に、心の中で突っ込んだ。


「分からない? ふぅん……」

 空来さんは、顔を近づけてジトリとした目でじっと僕の顔を見つめている。

「な……何?」

「瑞輝君って、嘘つくの下手だよね……」

「空来さん……」

 やはり見破られている。というか、あんなところまで目撃されて、しかも朝起きてすぐに奇襲みたいに聞かれたのだから誤魔化すのなんて無理に決まってる。瑞輝はそう思って、正直に話そうと腹をくくった。


「あのね、空来さん、僕……」

「あ、いいよ、言わなくていい!」

「ええ?」


 空来が、瑞輝の顔の前に人差し指を立てた。瑞輝はリアクションでも言わなくていいという事を伝えたんだとは思ったが……。朝一番に人を起こしに来て、しかも僕が起きたらいきなり昨日の疑問をぶつけてきたのに「言わないで」とはどういうことだろうか。瑞輝の頭には疑問符がいっぱい浮かんでいる。


「人間、ちょっとミステリアスな方が面白いと思うから……」

「はぁ……」

 そう言われても、どう反応していいのか分からない。瑞輝の口から気の無い返事が出る。

 空来は、それとなく分かっているけど僕の口からは話さなくていいという事を言っているのだろうと瑞輝は踏んだ。しかし、……どこまで分かっているのかは分からない。

 瑞輝がいつの間にか女の子になっていた事は、空来にはバレているみたいだと瑞輝は思うが……魔法を使えたりとか、異世界へ行き来できたりとかする事は、さすがに知るまい。


「えと……まあ……そうだね」

 空来さんが、そう言っていることだし、ここは素直に肯定しておこう。そう思って瑞輝は返事をしたのだが……。


「……」

 突如、空間を沈黙が支配した。空来は、急に深刻そうな顔をしたかと思ったら、ゆっくりと下に目線を移し、うつむいた。そして……暫くの後、口を開いた。

「ね、瑞輝君……私、ちょっと、怖いかも……」

 空来がぼそりと言う。

「あの……空来さん……」

 何て声をかけていいのか分からない。瑞輝が戸惑う。僕もあの時は怖かったのだ。あの怪物と再び遭遇するかもしれないと思うと、今も怖いのだ。そんな僕がかけてあげられる言葉なんてあるのだろうか。


「ごめんね、瑞輝君だって怖いよね」

「空来さん……」

「瑞輝君……」

「確かに、僕も怖いよ。でもさ、嫌な事からはさ、逃げればいいんだよ。そうしてるうちに、いつの間にか平気になってくから。……そうだ、何か美味しい物でも食べようよ、パフェとかさ。楽しい事を考えれば、怖さも紛れるよ」

「え……」

「な、何?」

 目を見開いて意外そうな顔をしている空来の顔を見て、瑞輝は不可解に感じて動揺した。


「あの……瑞輝君って……」

「う……うん……」

「なんか、たくましくなったよね」

「ええ? ……あ」

 空来が瑞輝にそっと体を寄せ――両手を瑞輝の後ろに回すと、ゆっくりと瑞輝に体を預けた。


「あの……空来さ……」

「ごめんなさい。でも、ちょっと、このままでいさせて……」

「あ……う、うん……」


 あまりこういう事をやられたことがないので、どうしていいか分からないが……戸惑いながらも、瑞輝もゆっくりと空来の背に手をまわして――少し強めに、空来の体を抱いた。

 ――すると、空来の体が僅かに震え始めた。瑞輝ははもう少し力を強めてギュッと空来さんの体を抱きしめた。


「……」

 再び訪れた沈黙の時間の中で、空来の震えは徐々に収まっていった。

「ごめんね……朝から何やってるんだろう、私」

 空来が力を緩めたので、瑞輝も恐る恐る力を抜いて、空来と離れた。

「いや……いいよ。誰でも辛い時はあるし……あ……」

 空来の目が赤い。よく見ると涙の跡もある。

「あ……ごめん、これから学校なのに」

 空来が、ハンカチで顔を拭いた。

「別に謝らなくても……あ、てか、学校、遅れちゃう! 起きてからだいぶ時間が経ってるよ!」

「ん? まだ大丈夫じゃないかしら」

「ええ?」


 時計を見る。本当だ、全然ギリギリじゃない。

「あれ……でも目覚ましなってたけど……」

「あ、ごめんなさい、三十分早くセットし直してて……」

「ええっ!?」

「待ってるの暇だったし、ちょっと早めに起きてもらおうかって思って……」

「いや、だからって……まあ……いいか……」

 瑞輝は、なんだか、もうどうでもよくなった。朝から色々あったけど、結果的には目が覚めきっているので、それもいいだろう。


「じゃあ、僕、着替えるから」

「あ、そうだよね。じゃあ下で待ってるね」

 空来は、すっきりとした様子で部屋を出ていった。

「ふぅ……」

 瑞輝は若干放心状態だ。昨日から立て続けに色々な事が起こり過ぎだ。

「さて……」

 このまま放心していては、いくら早く起きても遅れてしまいかねない。瑞輝はさっさと準備を始めたのだった。


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