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ガラスの靴を姉に渡す  作者: 桜 舞華
王子様現る
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 家族全員が席に着き、さてご飯を食べようというこの時。ちなみに、アマンダも最早家族同然なので、彼女自身に用事がない時などは一緒に食べる。今も、席についていた。


「お母様、お父様。食べながらで構わないので聞いてくださいね」


 姉様が話を切り出した。

 食べながらで構わない、と言われた両親は、怪訝そうにしながらも料理をつつき始めていた。

 あたしも、お腹が空いて仕方ないので食べている。


「アレクシス・ミランダード様に婚約されましたわ」


 姉様はびっくりするほど端的に告げた。


 娘を溺愛するお父様は、姉様の突然の婚約発表にげふんっ!と噎せている。お母様が心配そうに水を差し出していた。

 あたしも、少なからず驚いている。まさかここまで直球で言うとは。


「そ、そうか」


 お父様が、絞り出す様な声で頷く。


「お母様はてっきり、リリィでな……」


 お母様、何を言おうとしたの?あと、なんで途中でやめたの⁉︎

 お母様は自分で自分の口を塞ぐと、首を振って俯き、それから顔を上げた。



「おめでとう、リリィ。良かったわね」

「はい。お母様。私はアレク様をお慕いしているので、とっても幸せですわ」

「……そうね」


 お母様?どうしてそんなに納得行っていなさそうなの!

 思っても口に出せない。何故か雰囲気が、お母様とお姉様が話す、という感じで、口だし無用と言われてる気がするのだ。


「後で、アレク様がおいでになるそうですわ、お母様」

「そう……」

「で、お母様。アレク様に、屋敷に来ないかと誘われているのです」

「はぁ……」


 お母様は、話が突飛すぎてぽかーんとしている。お父様に至っては、最早話を聞いていない様子でご飯を口に運んでいる。


「行ってもよろしいですか?」

「……正式に婚約を結び、結婚するとあなたが決めたのならお母様は口を挟まないわ。この家であなたが暮らすのは、大変だったでしょうし」

「ありがとう、お母様。で、問題はここからなのです」

「問題?」


 ……これは、もしかして。


「アレク様は、屋敷に連れて行くのは私だけでなくレティも、と言っているのです」


「は⁉︎」


 お父様が声を上げた。確かにそうだと思う。あたしもびっくりだもの。


「正直……私は、レティを連れて行きたくないわ」

「何故⁉︎姉様!」


 これには、あたしが声を上げた。

 まさか、姉様に嫌われることをしただろうか。あたしが。あたしが?


「勘違いしないで、レティ。あなたのことは嫌いじゃないわ。そういう意味ではないのよ。えっと……そう!私は、アレク様と2人きり甘々な生活をしたいのよ、えぇ。でも、ほら、家族がいたら恥ずかしくて出来ないでしょう?」

「でも姉様!兄様のお屋敷には、使用人が揃っていないのよ!姉様のお世話は誰がするの!」

「うぐっ。……すぐに、アレク様も使用人を揃えてくれるわ!」

「レティ、わがままを言ってはいけないわ。リリィが1人で行きたいというのだから、行ってはいけないわよ」


 お母様が話に参戦して来る。

 嫌でも譲れない!姉様のお世話はあたしのもの!

 綺麗な宝石は姉様のもの。美しい景色は姉様のもの。輝かしい栄光は(以下略)。見目麗しい男の人の寵愛も(略)。


 だけど!でも!


「姉様の世話はあたしがするの!」


 これは!譲れない!


 あたしが叫んだ一言に、アマンダ含め全員が絶句していた。





「……わかったわ、レティ。アレクシス様が使用人を揃えるまで、なら行っても構わないわ」

「本当にっ?」



 お母様が許可してくれた!お母様さえ許可してくれれば、後は安心だ。姉様の説得も全てお母様はしてくれる。




「お母様!」

「リリィ、この子は頑固なのよ。1度決めたことを、変えるはずが無いでしょう。それに多分、アレクシス様はすぐに使用人を揃えると思うわ」

「レティが帰ると知ったら多分揃えないわよ」

「それを悟らせない様にして、レティ1人に走り回らせるつもりなの?とさりげなく言ってあげなさい。アレクシス様も、レティがしんどい思いをするのは不本意だと思うから」

「わかったわ」



 お母様と姉様が話し込んでいた様だけど、有頂天なあたしはまったく聞いていなかった。


「レティ、じゃあもうしばらくお願いね……」


 すごく不本意そうに言われた。


 あたしは頷いて、姉様に不自由させないこと自分に誓った。




 夜ご飯を食べ終えてしばらくしてから、兄様が来た。兄様はお父様達の前で改めて姉様に婚約を申し出た。

 兄様は何故か不満そうだった。


 あ!そうか!姉様のドレス!


 家事に走り回っていて気付かなかったけれど、姉様のドレスが朝のままだ!


 あたしのいる国では、貴族は日に最低でも2度は着替える。朝用ドレス、夜用ドレス。ってな具合で。

 でも、忙しくてすっかり忘れていた。

 いや、忙しいなんて言い訳だ。


 ごめんなさい、姉様。大事なプロポーズの晴れ舞台を台無しにしてしまって……。


「シェスタ伯爵。娘さんは……必ず幸せにします!だから、娘さんを僕にください!」


 兄様、そこは姉様の名前を呼びましょうよ。と、はたから見てて思った。

 大事なシーンなので、口は挟まなかったけど……。


「……必ず、幸せにするんだぞ」


 お父様は渋い顔で了承する。やっぱり、最愛の娘を手放すのは悲しいらしく、雰囲気がズーンとしていた。


「話は少し変わるのですが、伯爵」

「何だ?」

「僕でよければ、この家の借金を僕が肩代わりさせてください。それから、援助も」


 んー。こういうのは、あたしは見ていてもよくわからない。と言うか、目の前でやらないで欲しい。

 お父様に至っては絶対にあり得ないけれど、政略結婚の裏側、みたいな……。

 兄様と姉様は恋愛結婚だけどね!


「……理由は?」

「レティにしんどい思いを……じゃなかった。リリィは家族想いの優しい人ですから、憂いを取り除いてあげたいのです」


 なんであたしの名前が、と思ったけど、きっとあれだ。レティにしんどい思いをさせて、それを見ている家族思いなリリィが心を痛めない様に、と続けようと思ったんだ。

 で、姉様にあらぬ誤解を生まない様、あたしの名前を出すのは躊躇ったのね!

 浮気の疑いの芽も摘んでしまう兄様なら、確実に浮気はしないわね!安心だ。


「そうか。ならば、お願いすることにしよう。恥ずかしい話だが、我が家はこの家を保つことさえぎりぎりの状況だからね」


 お父様が困った様に笑う。やっぱり、そうだったんだね。


 それから、姉様が屋敷に行く話、あたしもそれについて行く話をして、行く日取りも決めた。



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