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第275話 祀られしもの

 ―――デラミス宮殿


 何はともあれ、早急に対策を練る必要がある。個人的には一足先に渦中に飛び込みたくてうずうずしているのだが、今回は孤児院のシスターや子供達という人質がいるんだ。こればっかりは仕方がない。


「いやぁ、参ったね~。まさか反対派がこんな強行手段を取るとは思っていなかったよ。どうしよっか?」

「フィリップ教皇。勇者様やケルヴィン様の前ですので、少しばかり自重するのがよろしいかと」


 悪戯がバレて一先ず笑顔を取り繕ってみた感じの教皇に対し、サイ枢機卿が静かに窘めている。


「もう! コレットといい、サイといい、皆他人行儀するー」

「今はそれどころではないのです! 子供達の命が掛かっているのですよ!」

「はいはい、コレットもメルフィーナ様の前だからって張り切り過ぎ」

「なあっ!? わ、私は別に―――」


 図星だったっぽい。いやいや、もちろん純粋に孤児院の人達を心配する気持ちも人一倍あるんだ。ただ、コレットはメルフィーナに対する感情の振り幅がぶっ壊れているだけなんだ。許してやってほしい。


「しかし教皇、そのような態度では勇者様方の士気にも関わります。どうか、今一度再考を―――」

「サイだってひと昔前までは勇者だったじゃーん。一緒にセルジュに恋した仲じゃーん。亡国の王子様も形無しだったね!」

「……そして共に失恋した仲でもありますよね?」

「あ、ごめ…… サイ、目が笑ってないよ?」


 サイ枢機卿の逆鱗に触れたのかね。俺も今一度確認するが、一応今は作戦会議中である。俺たちや刀哉らデラミスの勇者、コレットとクリフ、そしてフィリップ教皇が円卓を囲んで議論していた筈なんだが、どうも話の方向性が違う方を向いている。主に教皇が原因な訳だが。


「フィリップ、そろそろ真面目にお話しましょうか? あちらは日没に時間制限を置いていることですし」

「はーい。真面目にやりまーす」


 メルフィーナの言う事には従うのか。何と言うか、その―――


『……手のかかる子供の母親みたいだな』

『あなた様が父親であるなら、やぶさかでもないですよ。しかし彼の場合、そのように演じている節もありますけどね。彼はあのようにふざけ合う最中にこそ、最も頭を働かせていますから』

『問題解決に向けての案を考えるのに、か?』

『……2対1くらいの割合で』


 その割合どっちがどっちよ? まさか遊ぶ方に大部分の脳を使ってないよね? 彼、聖人だよね?


 などとメルフィーナとの念話をしていると、フィリップ教皇の表情が切り替わった。


「さて、まずは話を纏めようか。反対派の要求はコレットと勇者達を『英霊の地下墓地』に来させること。急がないと日没毎に人質を殺すぞー。ってこの紙には記されているけれど、正直これが本当の目的ではないと僕は思うな」

「教皇、なぜです?」

「だからお父様と呼びなさいって。なぜって、相手はメルフィーナ様に神の座が変わってから、ずっと息を潜めてきた奴らだよ? それが高々孤児院の住民を人質に取ったくらいで、急に強気になって大っぴらにこんな行動取ると思う? 僕なら最悪、人質を見殺しにして突入かけちゃうよ?」


 送られて来た紙をひらひらと宙に泳がせながら教皇が言う。幼い顔をして非情なことを言うじゃないか。しかし、これは現代においても同様だろう。如何に自国の国民がテロに指定された危険組織に囚われようが、国のトップである指導者や大統領がその場に出向くことはあり得ない。それどころか相手を見誤れば報復され、壊滅に至ってしまう可能性さえある。


「それにコレットだけなら兎も角、勇者を一緒にって点も気に入らないな。仮にも国有数の実力を備える勇者を招き入れてどうするのさ? 多勢に無勢とは言え、彼らが勝てるとでも? 何かあると言ってるようなものだよ。いや、裏に何かいる、かな?」

「……神の使徒、ですか?」


 頭に浮かんだ言葉を口にする。


「メルフィーナ様やケルヴィン君の話の件もあるし、タイミング的にもそれが正しいんじゃないかな。反対派が一気呵成に動き出す要因には十分だ。差し詰め、この記述は反対派の士気を高める為程度の餌、ブラフ。使徒様と一緒なら勇者相手だって勝機があるとでも思わせてるんじゃない? 前神であるエレアリス様の復活も暗示してるようだし、本当の目的は別だろうね。どうも使徒様は舞台裏で動くのが好きらしい」


 すらすらとまあ次々予測を立ててくれるな。やはり遊びは半分冗談で裏では真面目に考えてくれていたのか。教皇にその気はないだろうが、元使徒であるアンジェは居心地が悪そうに視線を逸らしている。


「となると、目的はアレでしょうか?」

「うん。アレだろうね」


 サイ枢機卿の言葉をフィリップ教皇が肯定する。


「あの、アレとは何のことです?」

「何って、ほら、『英霊の地下墓地』の最奥に封印してるものだよ」

「封印しているもの、ですか? しかし、墓地の最奥には過去の指導者達の墓しかない筈では……」


 コレットも知らないのか。いや、俺も知らんけど。


「コレットには教えてなかったけど、最奥にあるのは実は墓だけじゃないんだ。だよね、メルフィーナ様?」

「今の私は義体です。この口からは答えられません」

「あ、制限に引っ掛かっちゃうのか。えっと、この場では僕とサイしか知らないことなんだけど、教えちゃってもいいのかな?」

「ハァ、私に確認せずとも言うつもりでしょうに…… ええ、今後を考えれば伝えるべきことでしょうし、お話して構いませんよ」


 『神の束縛』に関わる事柄なのか。


「地下墓地の最奥には、エレアリス様の愛槍であった『聖槍イクリプス』が祀られている。神話に語り継がれる力は失われているけど、エレアリス様の使徒の手に渡ったら何をされるか分かったものじゃないね」

「い、一大事じゃないですかぁー!」


 コレット、猛る。


「まあまあ、そんな興奮しないでよ。一応、最下層に近付くにつれ局所に施される結界や罠も強化されているんだ。如何にその使徒が強くとも、そう簡単に突破できる場所じゃないよ。何せ、この地下墓地を設計した僕だって正しい道のりや解く手順を忘れた程だからね! 複雑化し過ぎて!」


 おい。


「教皇、そこは胸を張る場面ではないです」

「だって秘匿する為に設計図やら地図とか全部破棄したじゃーん。そんな何百年前のこと、覚えている訳ないじゃーん」

「私はまだ記憶していますが」

「なっ、サイ、天才か……?」


 驚愕する顔もわざとらしい事この上ない。


「補足しますと、聖槍自体にも当時の巫女様の結界が張られています。少なくとも十分な時間稼ぎにはなるかと」

「うんうん。で、ケルヴィン君は何か良い案が浮かんだかな? できればコレットに無理をさせる方向はなしでお願いしたいな。この子、メルフィーナ様にお願いされれば裸で街中も歩きそうだし」

「当然です!」


 そこは否定してくれ。


「案、ですか……」


 ここで無垢な少年の笑顔を携えて振ってくるか。手っ取り早く済ませるならダンジョンごと魔法で一網打尽にし、主犯格を誘き寄せる! なのだが、流石に聖地と呼称されるデラミス大聖堂を破壊するのは不味い。人質もいるし――― む? これってトラージでも同じような状況だったような……


「……まあ、あるにはあります。協力は必要ですが」

「いいよー。やっちゃってー」

「ケルヴィン様のお考えになった崇高な策、これは即座に了承すべき案件――― やっちゃいましょう!」

「お二人とも、まずはケルヴィン様の案を伺ってからです」


 この教皇と巫女、軽過ぎない?

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