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第273話 お風呂交流

 ―――ケルヴィン邸・浴場


「タオルと着替えはこちらにご用意しております」

「エフィルさん、ありがとうございます」


 試練を無事に済ませ、実力をケルヴィンに認められた勇者達はこの日、ケルヴィン邸にて1泊することとなった。ちなみにコレットも一緒だ。国の重要人物が気軽にそのような行為をして良いのか疑問に思うところもあるが、デラミスにてトップに次ぐ権力を持つコレットが良いと頷けば、それは白なのである。ましてやコレットがメルフィーナの誘いを断る訳もなく、いとも容易く承認の決定が下されたのであった。


「広いお屋敷とは思っていたけど、外から見るよりも広く感じるわね。お風呂の更衣室もこんなに広々」

「ご主人様やリオン様は湯浴みがお好きですから。浴場は特に力を入れて増築しております」


 模擬試合を終えて汗だくになってしまった刹那達は、疲れと汚れを落とす為に屋敷の浴場を借りることにした。レディーファーストということで、刀哉は刹那達が上がるまで待機である。


「わぁ、浴衣だよ! 皆、浴衣があるよ!」

「「おお!」」


 準備された衣類に目を丸くする刹那達。直ぐ様に手に取りその懐かしい質感を確かめている。


「以前、座布団や和室に感動されていたようでしたので、勝手ながら用意させて頂きました。トラージより取り寄せた就寝用の着物です。コレット様もご一緒のものでよろしかったでしょうか?」

「ええ、構いません。ありがとうございます」

「安心致しました。それでは私はこれで失礼しますので、ごゆっくりどうぞ」


 エフィルが更衣室から出て行くのを見送り、デラミス組は脱ぐものを脱いでさっそく浴場へと足を踏み入れた。


「―――でっかい」

「デラミス宮殿のも規格外だったけど、これはまた……」

「しかもこれ、温泉?」


 眼前に広がるは木々香る大浴場。広々とした木造風呂や岩風呂が並び、その周囲には室内であると言うのに植物が植えられている。気分としては露天風呂さながらである。更に湯は乳白色のもので満たされており、ふわっとした良い香りが木々に混じって漂っている。


「……これ、どうみても日本の温泉よね」

「そりゃトラージ王協力の下、ケルヴィンが研鑽に研鑽を重ねてたからね! ダハクが仲間になってからは一段と景色も良くなったわ!」

「わっ!?」


 突然の声に驚いた奈々が背後を振り返ると、そこにはバスタオルを巻いたセラがいた。隠すところはしっかりと隠しているが、その抜群のプロポーションは隠せていない。


「……でっかい」

「そうでしょう、そうでしょう!」


 雅の言葉を受けて自分のことのように満足気にドヤ顔で頷くセラであるが、少しばかり勘違いが発生しているのは気のせいではない。


「セラねえ脱ぐの早いって~」

「急がなくても風呂は逃げないのにねー」


 そうこうしている間にも、浴場の入口から続いてリオンとアンジェが出て来た。格好としてはセラと同様の姿である為に、コレットに衝撃が走り口元を両手で隠す。以降なぜかコレットの発言が少なくなるのだが、一々指摘してはきりがないのでここでは捨て置こう。


「あ、せっちゃんになっちゃんにみっちゃん! さっきはお疲れ様~」

「リオンちゃんこそお疲れ様。完敗だったわ」

「見た目に惑わされてはならない。教訓を得た」

「ジェラじいや獣王様に鍛えられたからね。簡単には負けられないよー」

「獣王?」

「ねえねえ、こんな所で立ち話も何だし―――」


 一同、湯船に浸かる。


「ふわぁ……」

「温泉、温泉だぁ……!」


 感極まるとは正にこのこと。刹那と奈々はふにゃっとなり、表情に変化の少ない雅も目を細くして心地良さそうにしている。


「でも、何で屋敷の中に温泉が? パーズってトラージみたいな温泉場だったかしら?」


 刹那の疑問にアンジェが答える。


「このお湯はメルさんが青魔法で作ってるんだ。昔、ケルヴィンが地下で温泉を掘ろうとして上手くいかなかったみたいでさ、その代用品としてね。私も初めて見た時は驚いたなー」

「奈々、その青魔法を覚えるべき。そうすべき」

「ええっ!? わ、私でも習得できるかなぁ……」

「肉体への回復効果もあるから、あったら便利だよー」

「あ、本当。筋肉痛があまりしなくなってる」 

「あれば毎日この湯に浸かれるわよ。B級程度の魔法だし、簡単でしょ?」

「あの、一般的にはB級も上級の上位の魔導士が会得する難易度なんですけど……」


 一目見て覚えれば? と軽い口調で話すセラに、奈々は苦笑いを浮かべてしまう。その様子を見て思うところがあったのか、アンジェが口を開いた。


「まあ、それくらいできないとこの先辛いよって意味もあるかな? せめて4対1でリオンちゃんに勝てるくらいにはならないとね」

「リオンちゃんに、ですか……」

「とは言っても、僕も人のことは言えた立場じゃないんだけどね。セラねえやアンねえから早く勝ち星を取れるようにしないとっ!」


 改めて気合を入れるリオン。しかし、その横では温泉に浸かってるとは思えないほど固まっている勇者達の姿があった。


「え、えーと、つかぬ事を伺いますが、リオンちゃんでもセラさんやアンジェさんには勝てないの……?」

「あの漆黒の天使が……?」


 おそるおそる刹那達が聞く。


「絶賛連敗中だよー。アレックスとタッグを組んで良い勝負かなぁ?」

「それでも勝つけどね!」

「姉としてまだまだ負けられないしねぇ」

「「「………」」」


 世界は広い。今日ほどこの言葉が身に沁みた日はなかっただろう。そんな勇者らの気も知れず、鉄拳女帝と首切り暗殺者は今夜の夕食の話題で盛り上がっていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――ケルヴィン邸・客室


 一方その頃、刀哉はと言うと。


「刀哉の部屋はここなんだが、問題ないか?」

「ここって…… 和室じゃないですか! 布団もあるし!」


 こちらはこちらでテンションが上がっていた。


「トラージに伝手があってさ。畳やら何やらを融通して貰ったんだ。で、この部屋でいいか?」

「いいです! この部屋がいいです! 旅館みたいじゃないですか!」

「お、おう。そりゃ良かった……」


 どうやらデラミスの勇者は全員布団派のようだ。


「あいつらが風呂から上がるまでは休んでいてくれ。時間を見計らってうちの使用人を呼びに寄こすからさ」

「分かりました! あの、師匠。明日にはデラミスに戻るんですか?」

「ああ、朝一には転移門で戻る予定だ」

「そして敵に対抗する為の鍛錬が始める訳ですね! やりますよぉ、俺!」

「お、おう……」


 ケルヴィンは少々このノリが苦手であった。ちなみに現在の案では、手始めにデミラス領内の最難関ダンジョンに置き去り状態でスタートさせようかと考えていたりする。ケルヴィンはケルヴィンで調査したい事柄がまだまだあるのだ。そして、今も確認しておきたいことが1つある。


「……一応聞くが、刀哉。女風呂を覗いた経験はあるか?」

「ある訳ないじゃないですか! 不可抗力でなら両手じゃ数え切れませんが、俺の意思ではないです!」

「よーし、許可なく風呂場に近づいたら命はないと思え。そんな在り来たりなイベントは絶対起こさせないからな!」

「えっ? 何の話ですか?」


 能力云々の前に、刀哉は元からそのような体質であるので侮れない。

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