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どうやら、彼女は神様らしい

ちこっとだけシリアス?入ります。

あと、食事時にはご覧にならないようお願いします。

食べながら見るのには不適切な箇所があります。




 人通りの少ない場所まで来て、ようやく頭に上った血が下がってきた。


 ほら見ろ。見た目なんて、数分一緒にいれば慣れてくるんだ。だから、そんなドストライクの顔だからって、調子に乗るなよ!学校には来るなって、あんだけ言ったからな!


 説教してやる!と神様の方へ顔を向ければ、神様は俺のある一点に熱い視線を向けていた。それがどこを見ているのか正確に分かって、俺は憂欝になる。ホント、なんでこんなのあるんだろう?


 「何だよ」


 それでも惚けて聞けば、神様は「それ」と手を伸ばしてくる。


 何で皆触りたがるんだろう……一目で俺のコンプレックスだと分かってくれ!


 「笑っていいぞ」


 自棄っぱちに神様に言い放つ。だって考えてもみてくれ。ただでさえ今日はこいつのせいで、学校で女子から絶大な人気を誇る先輩から告白されてんだぞ。もう誰にも触れてほしくないのに、こっちのことなんかお構いなしの神様にまで弄られるなんて、どんな厄日だと嘆きたくもなるだろう?


 しかし、神様は笑うどころか心底不思議そうな顔をして、俺に聞いてきた。


 「何にです?」


 「これ」


 若干苛立ちつつ俺は首筋を指さす。そこには、俺のコンプレックスがある。


 そう――


 ハート型のアザ!!しかも可愛いピンク色!!


 「可笑しいだろ?男なのに、こんなハート型のアザ……今までどれだけこいつでからかわれたか……」


 言ってて哀しくなってきた……


 笑い声に備えていたが、彼女から出てきたのは笑い声ではなく、ゴゴゴゴゴ……という地響きのように重たい怒りのオーラ。

 思わず固まる俺に、彼女はクリクリと可愛らしい目を吊り上げて迫る。


 「少しも可笑しくありません!!どこのどいつです?そんな罰当たりなことを言ったのは!私が罰を与えてやります!!」


 あまりの迫力に、俺は腰が引ける。

 いや、冷静に考えれば罰なんて与えられるわけないんだけど、何か鬼気迫るものがあって……まさか、実力行使なんてしないよな……?


 「い、いや、お前、暴力はいけないぞ」


 思わずそう言えば、神様は器用に片眉を上げて胸を張る。


 「私は神様ですよ。そんな無作法なことしません。そうですね……明日あたり、君をからかった人たちに犬の糞でも踏ませましょうか」




 ……は?




 フン?……って、つまり糞だよな……




 ……糞……




 プ、と堪え切れず、口から洩れてしまう。出てしまえば堪えることはもうできなくて、俺は腹を抱えて笑った。もうね、自分じゃ止められない。無理。絶対無理。


 「……何笑ってるんですか?私は本気ですよ?」


 どうやら神様は俺の反応にご立腹のようだ。ふっくらした唇を尖らせてそんなことを言う。

 ただ、本気とかそういう問題じゃない。


 「いや、だって、おま、神様なのに、犬の糞?!権限小さっ!」


 いや、こいつが神様なんて信じていないけど、でも神様って言っておきながら与える罰が犬の糞ってどうなのよ?キャラ設定変えたほうがいいだろ。

 憮然とした神様は、ぼそっと恐ろしいことを呟く。


 「……じゃあ、交通事故にでも遭わせればいいんですか?」


 「いや、そこまでのことじゃないだろ!」


 アザをからかったくらいで事故に遭ってたらたまったもんじゃない。可哀想すぎる。


 「……別に、死んだりはしませんよ」


 「生死の問題じゃないだろ」


 「いえ、そうではなく」


 途端、憂えるような表情になった神様。でも何が言いたいのか分からず、俺は大人しく続きを待つしかない。


 「神様にも、できないことはあるんです」


 ぽつりと零れた言葉。短く小さいそれが何だか重くて、俺は「自分のこと神様って言うのおかしいだろ」とか「やっぱり権限小さいのな」とか、茶化すことができなかった。


 「……へぇ……例えば?」


 「その人の人生の主軸に関すること――例えば、私は人を殺めることはできませんし……生かすことも、できません」


 苦痛に歪んだ彼女の顔が、ひどく痛々しかった。


 でも最近同じ様な顔を見たことがあった気がする。

 いったいどこで、と記憶を探れば、割とすぐに思い出すことができた。あれは、確か医大に通う兄貴と飲んだ時だ(俺は酒は飲んでない)。


 研修が始まってすぐのことだったと思う。いつも飄々とした兄貴が、珍しく顔を曇らせていたからどうしたのか聞いたんだ。中々口を割らない兄貴に飲ませまくって――どうせ女に振られたとかそんな話だと思ってた――でも兄貴の口から出た言葉は、「自分の無力さに、絶望した」だった。


 その日、兄貴の担当していた患者さんが亡くなったそうだ。もうすぐ退院する予定だったのに、容体が急変して、そのまま帰らぬ人となった……兄貴は、その時側にいたのに何も出来なかったと、泣いた。頑張っても救えぬ命があると、そのことを身を持って理解したと、今の神様と同じ顔をして、俺に言ったのだ。



 何度も言うが、俺はこいつが神様だなんて、これっぽっちも思っていない。いないけど、この顔が演技だとは思えなかった。ひょっとしたら、こいつもそういう無力感を感じているのかもしれない。なら、少しでも慰めてやりたいと思うのが、普通だろ?


 俺が兄貴のことを思い出している間に、神様は前に進んでいたようだ。少し離れたところにある小さな背に、俺はなるべく優しく聞こえるように声をかけた。


 「じゃあ、俺は死ぬ間際に、神様に救いを求めたりはしないことにする」


 神様の細い肩が小さく跳ね、勢いよく顔がこちらを向く。

 潤んだ目は大きく見開かれ、口はだらしなく開いていた。


 普段見せない間抜けな顔に思わず笑いそうになったが、ここは堪えた。どうにか〝微笑む″の範疇に留めておくことに成功する――が、それほど持ちそうにない。


 俺は早足で神様の前まで行くと、彼女の頭に手を乗せ下を向かせる。


 ……あぶなかったぁぁぁぁ!!


 口を引き結び声を押し殺すが、体の震えは止められない。

 やむを得ず、神様の頭を撫でることで振動をごまかした。


 と、その時神様の耳が赤くなっていることに気が付いた。


 ……よくよく考えると、俺のさっきの台詞、気障ったらしくないか?しかも微笑んじゃったし(誤魔化すために)、今頭撫でてるし(やむを得ず)



 …………



 …………やべー



 超恥ずかしい……



 冗談っぽく修正することに決めた。



 「ま、何十年も先の話だけどな」


 ひっかかったな~という顔をすれば、神様はあっけにとられたようだ。

 ほっと胸を撫で下ろし、俺は先に歩き出す。いい加減、家に帰って飯が食いたいのだ。

 しかし、今度は神様がフリーズしてしまったようだ。そのまま動く様子が見られないので、仕方なく「置いてくぞ」と声をかければ、「待って下さい!」と転がるように駆けてくる。その姿が犬のようで、またしても笑ってしまう俺だった。







 翌日、いつものように登校すれば、学校が異臭に包まれていた。


 どっかで嗅いだことがあるような、でも思わず鼻をつまんでしまうような、そんな臭い。


アンモニアとかそういう刺激臭ではないのだが、何だろう、この不快感。知りたいような、知りたくないような……そんな思いを抱えながら、靴を履き替え教室に向かう。


教室に入れば、クラスの奴らが皆興奮しながら何かを話していた。不思議に思って見ていると、クラスメイトが一人やってきた。


「おい北条、お前も呪い受けたか?!」


「……は?呪い?」


ゲームのし過ぎなんじゃないかと疑いの目を向ければ、逆に怪訝な顔をされる。


「……え、何、お前無事なの?」


「さっきから言葉が足りてないぞ。呪いって何のことだよ」


「やっぱり、お前無事なんだな!ちくしょー!!このラッキーマンめ!!おい!ここに無傷の男がいるぞ!!」


その言葉に、クラス中の視線が俺に向く。


おおう……見られるだけでも居心地悪いのに、なんか恨みがましい視線が混じってるぞ。


堪らず「だから何だよ、呪いって」と聞けば、そいつが真剣な表情で言う。


「『糞の呪い』だよ」




……ん?




「……フンって、クソのことか……?」


「そーだよ!皆、今朝登校途中で何かしらの糞踏んでんだ。しかも、ウチのクラスだけじゃない。上級生も下級生も、結構踏んでるみたいなんだ。……こんな偶然あり得るか?あり得ねぇだろ?だから、『呪い』なんだよ」


あぁ、あれは糞の臭いだったのか……言われてみれば、確かに……




ていうか、超真剣なとこ、ごめん。




それ、呪いじゃないかも……




「ウチのクラスだと誰が踏んだんだ?」


「ほとんど全員だな。男子はお前以外全滅。一番酷かったのが鈴木で、糞の上で尻もちついちまったんだと」


あぁ、鈴木ね……うん、あいつも付き合い長いからな。けっこうからかわれた。


「……なぁ、拓郎は?」


俺のアザを一番からかっているのはあいつだからな……奴が踏んでいるのなら、たぶん……


「あいつならまだだよ。いっつも遅刻ギリギリだからな」


その言葉の直後、急に廊下がざわつく。


つられてドアに視線を向けると、ドアがゆっくりとスライドしていく。途端に立ちこめる、強烈な臭い。皆一様に鼻を摘み、目は臭いを連れてきた人物にくぎ付けになる。


「……なぁ、どうしたらそんなことになるんだ?」


慄くクラスメイトに代わってそう聞けば、拓郎は涙を浮かべて俺に飛びつこうとするので思いっきり睨んでやった。


「酷い!こんなに悲惨なことになってる幼馴染に、お前はつめたすぎる!」


「自分の状況が分かってんなら間違っても抱きつこうとするな。てかそれ以上近づくな。殺すぞ」


「酷い!」と喚く拓郎だが、当然の拒絶だと俺は思う。

何せ拓郎は、体の大半が糞まみれだったのだ。糞に埋まらなければこうはならないだろうという有様で、登校してきたこいつの思考が俺には理解できない。


「……自転車乗ってたら、すごい勢いで車が来て……避けようとハンドルきったら犬の糞が落ちててさ……バランス失って、畑に撒く牛の糞の山に突っ込んだ……」


泣きながら拓郎が話した事の顛末は以上だった。




…………どうしよう




どうやら、彼女は神様らしい

 

 




読んでいただき、ありがとうございました!


元々一人称練習で書いた話なので、続きとか考えてません。

ただ神様視点の話はアップする予定です。いつかは分かりませんが。


黒薔薇を読んでくださってる方には、作品の雰囲気がだいぶ違うので戸惑われる方がいらしたかと思います。こっちも面白い、と思っていただけたのなら幸いです。


黒薔薇も頑張って更新していくので、これからもよろしくお願いします。



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