第37話 みんなの気持ち
あれから何時間剣を交えているのだろう。それぐらい長く感じるくらい俺らは戦っていた。といっても時間は多分30分ぐらいしか経っていないのだろうけど。
戦い方を工夫してはみたものの、相手には通じなかった。本当に互角に俺たちはやりあっている。もしかしたら俺の心の奥で、まだ非情になりきれていないのかもしれない。もしそうなのだとしたら腕が鈍ったとかそれ以前の問題だ。その甘い気持ちのせいで勝負がつかないのだから。
今の俺は自分だけを信じてここまで来た。他人のことは心に留めておく程度でしかないはずだ。それなのに、俺はセレナさんのお願いを聞いて、この世界を再び救うとか言ってしまった。やっぱり以前のようにはなりきれていない証だ。こうなってしまったのも、ミラがいて、由紀がいて、妹の理沙がいて、神藤がいて、理紗がいて、悠がいて、千里もいて、そして、ララがいた。みんながいたから今の俺がいる。それを忘れてしまって俺は何をしていたのだろう。守るものは、この世界だけじゃないじゃないか。この世界にいる人も、ミラたちも、みんなを救ってこそ本当の勇者であり、英雄だ。英雄は一人しかいない。まぎれもない、俺ただ一人。俺はミラの気持ちを、みんなの気持ちを知ってたはずなんだ。それを忘れてなんだ、このざまは。俺は魔王城に行って、ララを救って連れ戻すんだ。ここで負けてたまるかよ・・・・!
「・・・待たせたな、ようやくわかったよ。俺がこんなに弱くなったのか。いや、弱くなったんじゃない。俺が最初から本気になってなかっただけだった」
「ほう。で、ここからは本気でいけるんだな?」
「当たり前だ。俺は、この世界の人たちを、みんなを、そしてララを救うためにここまで来た。みんなの気持ちを背負ってきたんだ。負けるわけにはいかねえんだよ!」
俺は剣を握りなおし、地面を強く蹴る。
俺は相手の懐に一瞬で潜り込んで切りつける。相手は俺のことを既に捉え切れていなかった。
「ぐっ・・・。流石だな。以前よりもはるかに強いじゃないか。なーにが腕が鈍っただ、馬鹿」
「馬鹿はてめえだ。てめえが以前の俺と同じくらい強くなってるっての。だから勝負が動かなかったんだ。けどな、今の俺はさっきとは違う。どこぞのアニメだとか思うかもしれないけどな、みんなの気持ちが一つになりさえすれば人ってのはいくらでも強くなるんだよ」
「なるほど。それが今のお前の力の源か」
「ああ、そうだ。みんながララの無事を祈ってる。俺はその期待の答えなくちゃいけない。だからこそ、ここで負けるわけにはいかねえんだよ」
「なるほど・・・」
こいつは何か納得をしてから、一呼吸を入れて、口を開いた。
「完敗だ。まいったよ」
「は?おま、何を言って・・・」
「俺も、お前のその可能性に賭けてみたくなった。これで本当に魔界が、そして苦しんでいる魔王様が救われるというのなら、少しでも可能性があるのならば賭けてみようではないか。それに、今の俺では今のみんなの気持ちとやらを背負ったお前に勝てる気がしない。せいぜい以前のお前が限界だろう」
「おまえ・・・」
「さあ行け。魔王様は玉座におられる。この世界を今度こそ平和にしてくれるのだろう?」
「・・・当たり前だ!今度こそ終わりにしてやる。まあ、お前との戦い、楽しかったぜ」
「また機会があればいつかやろう。そのときこそお前に勝ってみせよう」
「やれるもんならやってみやがれ」
そうして俺たちは互いに握りこぶしをつくり、コツン、とぶつけ、お互いに歩き出した。
さあ、待ってろよララ。今お前の所に行って、お前を苦しみの中から救ってやるからな。
こうして俺は再び魔王城に向かって走り出す。この世界を、ララを救うために。最終決戦は、今始まろうとしていた。




