第28話 悠の決心#2
俺が悠の部屋に来て数時間がたった。あたりはすっかり暗くなり、その日の夜を迎えるかのように陽が沈んでいく。
電話でみんなを1時間後に俺の部屋に呼んだ。
あと一時間。たったそれだけの時間なのに俺と悠は1分がとても長く感じていた。俺にも、もちろん悠にもこんなに時間が長く感じる日は久しぶりだった。
あと一時間、か……
悠がそわそわするならまだしも、俺までもがそわそわするのは変な気がする。ミラやララ、それに千里らのことだから受け入れてくれるとは思う。万に一つもないと思うが、そうじゃなかった時のことを考えると悠が可哀想に思えてきてしまう。
悠には辛い過去がある。だからこそこうして今日の今日まで自分のことを秘密にしてきた。だが、それも今日で終わり。今日から我慢しなくていいのだから。
そういえば、海に来ているメンバーを言っていなかった気がするので、今言っとこうと思う。今さらかよって思われると思うが。
今回、海に来ているメンバーは、俺こと徹夜と、悠、ミラ、ララ、千里、そして妹の理沙と、由紀と、この中では一番年上、と言っても一つしか変わらないが、理紗が来ていた。
少し話がずれてしまうが、妹の理沙と名前が被っているので、呼ぶときに非常に困るのだ。読者のみんなも区別がつきにくくて困るよな。
そして、その時を迎えようとしていた。
みんなが俺にいきなり呼ばれて、?を浮べている。それもそうだろう。俺は話があるから一時間後に俺の部屋に来い、としか言っていないからな。
「みんな揃ったな。今日は悠のことで話があるんだ」
「話があるってそういうことだったの?」
ここに来て最初に口を開いたのは千里だった。それに続くかのようにララも口を開く。
「悠がどうかしたの、神門?」
「ん?まあな。俺から言えるのはここまで。あとは本人に任せる」
そう言って俺は悠にバトンタッチをした。本当に大丈夫か心配になってくる。だが、ここは悠を信じるしかない。何かあれば俺がフォローすればいいだけだし。
「あのね、今日はみんなに言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「なにかあったの?」
理紗が悠の言葉に優しく聞き返す。流石だな。大人って感じ。
「実はね、えっと…」
「大丈夫か?言いにくいなら俺から言ってやるぞ?」
「大丈夫だよ、自分で言うから。徹君に迷惑はかけたくないし」
別に迷惑じゃないんだけどな。
「あのね、実は、僕、女なんだ」
「「「「「「…えぇぇぇぇ!」」」」」」
流石にみんな驚いたらしい。そりゃそうだろうな。で、このあとはみんなが質問をたくさんしているせいで1時間ぐらいかかってようやく終わりの時になった。
「そういうわけで、私は女なんだ…」
「ね、なんでそれ隠してたの?」
「え?」
ミラが不思議そうに質問をする。まるで隠してることないじゃん、と言いたげのように。
「私らの絆はそんなことじゃ切れないでしょ?」
「うん、そうだね」
あれからしばらくの間はみんなが悠ととても楽しそうに話していた。どうやらすっかり打ち解けたみたいだった。
「俺がいなくてももう大丈夫そうだな…」
俺は静かに部屋を出てホテルからも出る。ホテルから出た俺は海岸に向かって歩き始める。なんとなくだが、砂浜で夜風に当たっていたかったからだ。
さて、これで俺の周りは本当に女しかいないハーレム状態になった。しかもみんながみんな、俺のことを好きらしい。
俺のことを好きなやつがこんなにいるのは確かに嬉しい。だからこそこのままの関係がいつまでも続いてほしい。だが、そんなわけもいかなく、早いやつは今のこの時期から就職活動が始まったり、大学や専門学校の見学やらが始まる。
そのなかでも俺は就職組。ミラとララは進学をしたいらしいのであと4年ぐらいは俺の家にいるらしい。悠と千里と理沙も進学。就職するのは俺だけかよ、クソ。
しばらくして、俺は海岸に着いた。砂浜に座り、潮風にあたりながら波の音を聴く。こんなに静かに一人でいられるのは久しぶりだった。いつもなら誰かしら俺の横にいるから余計にそう思えてしまう。
いつまでもこうしていたいと思わず考えてしまう。戻ればきっと、またあの賑やかで笑顔が絶えないあいつらとのいつものやり取りが始まると思ったから。
今日で俺らはみんなの隠し事はなくなったはずだ。もう俺らのなかで隠し事をする必要はない。俺らは、みんながどんなやつかってことを知っているからこそ受け入れてやるし、なにかがあればみんなでフォローしあう。周りからみれば、こんな関係は羨ましいかもしれない。こんなに信頼しあえる仲間はそうそういないだろうから。だからこそこのままでみんなと居たいって思う俺がいる。
だが、世界ってやつはそんなに甘くないらしい。それは、俺らが海から帰って来て1週間後に起こる。
さすがはこの世界。つらい現実をいきなり突きつけてくるのだった……。
第四章 夏休み編 終了




