25万人記念だ、お母様
【雑談】新月が明けた【キュラド/吸血鬼VTuber】
画面の中央には、新月の疲労から完全に立ち直り、いつもの威厳とどこか誇らしげな笑みを湛えたキュラドのLive2Dモデルが鎮座している。
配信が開始されるや否や、同時接続者数の数字は跳ね上がり、コメント欄は「新月おつ!」「体調大丈夫?」といった言葉で一瞬にして埋め尽くされた。
「集まったな貴様ら。いろいろ話はあるが、まずはチャンネル登録者数が25万人を突破した。感謝しよう」
重厚な声で感謝を述べると同時に、コメント欄には祝福のコメントが怒涛のように流れる。しかし、キュラドは満足そうに頷いた直後、すっと眉をひそめ、人差し指を画面に向かって突き出した。
「だが言いたいことがある。Xをフォローしていない者が多すぎる。Xをフォローしろ。何故チャンネル登録者数は25万人いるのに、Xのフォロワーは10万人以下なのだ。おかしいだろう」
・『「Xをフォローしろ」の圧がすごすぎるwwwwww』
・『フォローしたら「寂しいから一生尽くせ」って言われるから……』
・『すいません今すぐフォローしてきますwwwwww』
・『理不尽で草』
・『25万人突破はおめでたいのに、Xのフォロワー数に不満持ってて可愛い』
「フン、俺の日々の思索や成果報告、そして伴侶との日常をリアルタイムで鑑賞できるのだぞ? むしろフォローしない理由が分からん。25万人全員、今すぐその手元の端末でフォローボタンを押せ!」
説教しながらもスパチャと祝福の言葉を見つめるうち、キュラドはふっと表情を緩める。
「……まあ良い。貴様らがこの俺の配信を日々追い、こうして節目を祝う姿勢そのものは評価してやろう。そこでだ」
キュラドは机に肘をつき、画面に向かって朗々と問いかけた。
「25万人になった貴様らに何か日頃の感謝の気持ちを伝えたいと考えている。貴様らはなにで喜ぶんだ? 何でも検討しようではないか」
・『えっ、急に優しくなって困惑するんだがwwwwwwww』
・『何でも検討してくれるの!?!?!?』
・『【急募】25万人のオタクを喜ばせる方法』
・『「何でも検討しようではないか」←フラグにしか聞こえなくて最高ww』
キュラドは次々と提示されるリスナーからの具体的な提案を目で追いながら、ふむ、と顎に手を当てて思索のポーズをとった。
「……エスとのコラボは論外として。グッズ販売、ボイス販売、ASMR……。ASMRが聴きたければメンバーシップに入会しろ。歌ってみた……はひとまずアップロード済みの『魔王』『怪物』『ホール・ニュー・ワールド』を視聴しろ」
指を立て、至極当然といった口調で既存のコンテンツを宣伝しつつサクサクと要望を捌いていくキュラド。
しかしコメント欄を流れる、あるパワーワードに目を留めた瞬間、Live2Dのモデルがピタリと動きを止めた。
「他は……お母様とのコラボ……いやこれは……一応検討しよう……」
・『【朗報】お母様とのコラボ、まさかの「検討」』
・『SPちゃんとのコラボは即却下したのに義母コラボは検討するの面白すぎるだろwwww』
・『義理の実家との距離感が近すぎるV、キュラド』
・『「お母様コラボ(雑談&キュラド様の暴露大会)」待ってます!!』
SPとのコラボは「声すら聞かせん!」と頑なに拒絶する一方で、まさかの「義母とのコラボ」には妙に前向きな姿勢を見せるキュラドに、リスナーたちは期待に胸を膨らませていた。
*
配信終了後から、わずか数十分後。
キュラド@Curado_vampire
【朗報】お母様、ノリノリな模様
[添付画像:LINEのトーク画面スクショ]
キュラド:リスナーからお母様とのコラボ配信の要望があった。いかがだろうか。
お母様:やるやる
お母様:何でも言って
お母様:何をすればいいの??
・『仕事が早すぎるwwwwwwwwww』
・『【速報】お母様、即答で快諾』
・『お母様フットワーク軽すぎて最高すぎるだろwwwwww』
・『SPちゃん今頃頭抱えてるよ……』
・『配信枠立ち上がるの正座待機しておきます!!!』
そこからわずか数時間後。キュラドからついに全リスナー待望の告知ポストが投下された。
キュラド@Curado_vampire
配信は三日後。震えて待て。
【25万人記念】伴侶の母君とお話をする【義母コラボ】
・『マジで仕事が爆速すぎて草』
・『【速報】(おそらく)VTuber界初「義母コラボ」の配信枠が爆誕』
・『三日後!?!?心の準備が追いつかないんだがww』
・『チャンネル登録者数25万人記念企画が「義母との雑談」なの世界探してもお前だけだよ』
SP@SP_support_es
お母さんが私の恥ずかしい話を暴露しないか、娘は心配です。
キュラド@Curado_vampire
配信は三日後。震えて待て。
【25万人記念】伴侶の母君とお話をする
【義母コラボ】
・『【悲報】娘、ガチのトーンで怯え始める』
・『「幼稚園の時に好きだった男の子の話」とか出た瞬間にキュラド様が嫉妬で狂う未来が見えるwwww』
・『SPちゃん!!当日は影から配信を見守って、ヤバそうになったら部屋に突撃して配信切るんだ!!ww』
・『オタクの一言のせいでSPちゃんとばっちり受けてて草』
そしていよいよ配信当日。配信開始の数分前から待機所には数万人のリスナーが殺到し、チャット欄は恐ろしい速度で流れていた。
画面中央にはいつもの装いのキュラド。その隣には、ピンクの枠で縁取られた立ち絵シルエット(お母様概念)が配置されている。
「集まったな貴様ら。改めてチャンネル登録者数25万人ありがとう。感謝している。さて、あまりお待たせするのも申し訳ないので早速登場していただこうか。お母様こと、我が伴侶の母君だ」
「皆さんどうも〜。エスの母です〜。いつもエスとキュラドくんがお世話になってます〜」
「お母様、本日は貴重なお時間をいただき誠に感謝する。今日は全世界に配信をしてはいるが、肩の力を抜いていつも通りお話ししようではないか。」
・『お母様きたああああああああああああああ!!!!』
・『「キュラドくん」呼びたすかるwwwwwwww』
・『お母様相手だとちょっと礼儀正しいけどそれでも基本偉そうなの草』
・『SPちゃんいま胃を痛めながら観てるでしょ!!ww』
・『お母様〜!!こちらこそいつもキュラド様にお世話になってます〜!!』
「キュラドくん、チャンネル登録者数25万人おめでとう。すごいことだねえ」
「感謝する。そうだな、俺もすごいことだと思っている」
「キュラドくんが突然配信者さんになるって言った時ね、すっごく驚いたんだけど、でも今時だね〜って思ってね。皆さんも知ってるでしょ? この子すっごく真面目だからきっとうまくいくって思ったのよ」
「ありがたい評価だな」
そこへ、チャット欄からひとつの気になる質問スパチャが飛び込んだ。
・『お母様が初めてキュラド様に会った時のお話聞きたいです』
「ほう、お母様との初対面か……懐かしい……」
「懐かしいわね〜。エスが高校1年生の時、その時からエスと私たちは離れて暮らしてたんだけどね、いつもみたいに『ちゃんとご飯食べてる?』とか連絡したら『最近は大事な人ができました』なんて言うもんだから、私もうビックリしちゃって!」
「エスが両親への定期報告をする際に友人の話ばかりして俺の話を一切言おうとしないものだから、しっかり報告しておけと進言したのだよ」
・『離れて暮らしてる高校1年生の娘が「大事な人ができました」はお母様心臓止まるだろwwwwwwww』
・『自分の存在を隠されそうになって「両親に言え」って迫るの可愛すぎる』
・『お母様視点のキュラド様との初対面、情報量が多すぎるwwww』
・『お母さん、その報告受けてから実際に会うまでの心境が気になりすぎるww』
お母様は懐かしそうに声を弾ませて話を続けた。
「もうビックリしたからすぐに電話したら、そしたらこのカッコいい声が電話から急に聞こえてきてね、本当にビックリしたわあ……」
「当時は驚かせて申し訳なかった。怪しい男ではないと説明させていただいたまでだ」
「まあ怪しかったけどね」
「そうなのか……」
・『キュラド様ショック受けてて草wwwwwwww』
・『そりゃ怪しいわww吸血鬼だものwwww』
・『「怪しい男ではないと説明(※重厚なイケボで丁寧なプレゼンを展開)」』
・『お母様のバッサリ斬るセンス最高すぎるwwww』
「それでエスに『きちんとお父さんとお母さんに紹介しなさい!』って怒ってね。あの子ずっと『あわわわ……』って慌ててたわね」
「ふ……当時のエスはずっと『どうしようキュラドが吸血鬼だなんて言えるわけがない』と狼狽えていたな」
「ふふふ、それでキュラドくんがあんな人間のふりして会うことになったのね」
・『「あんな」←まじで草』
・『SPちゃん「あわわわ……」ってテンパってたの可愛すぎるだろ』
・『「どうしようキュラドが吸血鬼だなんて言えるわけがない」←それはそう』
・『初対面で頑張って人間に擬態するキュラド様見たすぎるんだがww』
お母様は楽しそうに笑いながらかつての初対面のエピソードを語り始める。
「それで焼肉屋さんで会ってお話したのよね。ほらキュラドくん、ご飯食べないでしょ。だからご飯食べてなくても誤魔化せるようにってエスが必死に頭悩ませて……ふふふ……それでキュラドくん……ずっとお肉焼いてたわね……ふふふふ……」
「お母様よ、あまり笑わないでいただきたい。俺もエスも当時は一生懸命だったのだ」
キュラドは腕を組みながらため息をついていた。
「キュラドくん、スーツ着て緊張してるふりして。誤魔化すためになんかの魔術使ってたんだっけ? 一生懸命だったわねえ……」
「認識阻害魔術だ、お母様。ミスディレクションを強化する魔術で肉を口にしていなくても気にならないようにしていた」
・『【悲報】吸血鬼、初対面の義両親の前でトングを握りしめ続ける』
・『お母様ツボに入ってて最高wwww』
・『SPちゃんとキュラド様が裏で「焼肉ならいける!肉を焼き続ければ食べなくても怪しまれない!」って作戦会議してたと思うと愛おしすぎて死ぬ』
・『「緊張してるふり」って言われてるの全バレで草wwww』
お母様は当時の光景をありありと思い出したように、さらに暴露を続けていく。
「それでお話してたんだけどね、お父さんが将来どうする?娘を養っていく覚悟はある?って聞いた時に、急にキュラドくんがフッと目の光を消して『やめた』って一言言ったと思ったら、あったかいお茶を急に氷に変えて『俺はバケモノだ』って言い出しちゃって」
「目に見えて分かりやすい魔術をひとつ披露したまでだ」
・『「やめた」で目の光消してお茶凍らせるの怖すぎるだろwwwwwwww』
・『【速報】吸血鬼、焼肉屋で人間のフリをボイコット』
・『「目に見えて分かりやすい魔術」のチョイスがお茶凍らせるなのセンス良すぎるww』
「なんで人間のふり急にやめちゃったの?」
「誠実でないと判断した。人間のふりをして嘘偽りの将来設計を話すことは簡単だ。だがそれで何が変わる? 俺はエスの一生を独占するためにあの場に臨んだのだぞ」
「ふふふ、そうねえ……」
・『不意打ちの激重プロポーズたすかる』
・『お母様の全てを受け入れてる包容力よww』
・『最初は怪しい好青年だったのに最後はガチの愛と魔術で見せつける吸血鬼強い』
・『映画のワンシーンかよ!』
焼肉屋でのドラマチックで破天荒なキュラドの決断に、チャット欄からは感嘆と驚愕の声が次々と上がり、そしてひとつの素朴な疑問が投げかけられた。
・『よくそれでお許しになりましたねお母様……』
キュラドがそのコメントを読み上げると、お母様は「あら」と声を漏らし、優しい声で語り始めた。
「ふふふ、許したのはお父さんだからねえ。私は本当のことをしっかりお話してくれて誠実に向き合ってくれたキュラドくんを見て、いい子だなって思っただけよ」
「フン、この上なく誠実な男だぞ俺は」
お母様の温かな言葉に、誇らしげに顎を上げて鼻を鳴らすキュラド。
しかし、お母様はクスクスと楽しそうに微笑みながら、さらに追撃の一言を付け加えた。
「さっきまで真剣に一生懸命敬語使って喋ってた子が急にこんな感じになるもんだからビックリはしたけどね」
「改めようか?」
「ううんそのままでいいわ。吸血鬼様だもんね」
「流石はお母様。理解がよろしい」
・『義母の前で一瞬ヒヨる吸血鬼助かる』
・『「ううんそのままでいいわ。吸血鬼様だもんね」←包容力の塊すぎる』
・『「流石はお母様。理解がよろしい」←また調子に乗ったwwww』
・『お父さんがどうやって許したのかのストーリーもガチで気になるんだがww』
・『キュラド様、義理の実家に愛されすぎてて微笑ましすぎる』
リスナーたちが盛り上がる中、お母様は少しだけ声を柔らかくし、当時のもう一つの大切な真実を語り始めた。
「お父さんが許したのはね、エスが必死に自分の気持ちをしっかり言ってくれたからよ。中学生までのあの子はね……ちょっといろいろあったからね……。お父さんも、エスの成長ぶりを見てビックリしたんだと思う」
「そうだな。エスは……昔から立派だ」
お母様の言葉に、それまでどこか誇らしげに胸を張っていたキュラドが、ふっと表情を穏やかに和ませた。
「あら、キュラドくんのおかげよ」
「フン、俺は何もしていないさ」
・『急にエモーショナルな展開になって泣いた』
・『お母様の語りに色んな歴史が詰まってて胸がギュッとなる』
・『「キュラドくんのおかげよ」「俺は何もしていないさ」の関係性最高すぎるんだが??』
・『お父様も、娘がそこまで必死に「この人と一緒にいたい」って言ったから認めたんだなぁ……』
・『SPちゃん、素敵なご両親と最高の伴侶に恵まれて本当に良かったね……(号泣)』
「キュラドくん、吸血鬼だけどまだまだ若いし、そうやってお父さんが許してからはもうずっとうちの子よ」
「フン……この俺に家族というものを教えてくださったのは間違いなくエスの両親だ。感謝しているよ」
悠久の時を生きる吸血鬼とはいえ、当時はまだ19歳。焼肉屋で必死に肉を焼き、正体を明かしてまで誠実であろうとした彼を、ご両親は恐怖でも拒絶でもなく、温かい家族の一員として受け入れてくれたのだ。
照れ隠しのようにいつもの尊大な言葉遣いを混じえつつも、キュラドの声には、義理のご両親に対する偽りのない深い感謝と敬愛が込められていた。
・『吸血鬼を「うちの子」って包み込めるご両親、温かすぎるだろ……』
・『孤独だった吸血鬼が温かい家族を手に入れたストーリー、泣かないわけがない』
・『お父様もお母様も本当に素敵な人たちだなぁ』
・『スパチャ投げる手が止まらん!!お母様何か美味いもん食べてください!!』
・『25万人記念配信、ガチの神回どころか伝説の歴史的瞬間になった』
キュラドはしばらくコメント欄を眺め、それからふっと声のトーンを落として目を伏せた。
「しかしお母様よ、本当によろしいのか。エスがこの俺を選び続ける限り、孫に会うことはないぞ」
画面の向こうへ投げかけられた重く切実な問いかけ。だがお母様は少しも慌てることなく、どこまでも優しく、慈しむような声で静かに語り始めた。
「孫ねえ……。人間同士が夫婦になっても、いろんな事情で子どもができないなんてことはよくあることだからね。私とお父さんも、なかなか子どもができなかったから……」
・『ご両親への申し訳なさと愛しさが入り混じった質問なんだろうな……』
・『お母様の回答が温かすぎて言葉が出ない』
・『孫の顔を見せることだけが親孝行じゃないんだよなぁ……』
・『エスちゃんがキュラド様と一緒に幸せでいることが、ご両親にとって一番の喜びなんだろうね』
・『この家族、箱で推せる』
「……そうか。子を授かるのは、当たり前のことではないのだな。二人の元にエスが生まれてきてくれて、本当に良かった」
お母様の温かな言葉を受け止め、静かに、そして深く頷くキュラド。ずっと罪悪感を抱えていた吸血鬼の心を、お母様の優しさと理解がそっと解きほぐしていく。
キュラドの心情を察したのか、お母様は雰囲気を和らげるようにクスクスと可愛らしく笑い声を上げた。
「ふふふ、こうやってお話してても真面目なところがすぐ出ちゃうんだから……ほんといい子よねえ……」
「お母様、あまり俺の威厳を損なうような発言は控えていただきたい」
「あらいいじゃない」
・『必死に抗議する吸血鬼可愛すぎるww』
・『いくら圧倒的な力を持ってようが、お母様の前ではただの「真面目な良い子」なんよ』
・『SPちゃんのご両親にどれだけ愛されて可愛がられてるか伝わってきて胸が温かくなる……』
・『リスナーにはいつもイキってるのに義母には頭が上がらないのほんと好き』
お母様の包容力あふれる一言に一蹴され、ぐうの音も出なくなったキュラド。
配信が和やかな空気で満たされる中、あるリスナーから質問のスパチャが投げられた。
・『失礼ですが、お母様はおいくつですか?』
「女性に年齢を聞くとは、本当に失礼な奴だな。恥を知れ」
キュラドが呆れたようにため息をつき、質問から視線を逸らそうとする。しかし当のお母様はまったく気に留めた様子もなく、むしろ楽しそうにコロコロと笑い声を上げた。
「あらいいわよ減るもんじゃないし。57歳で〜す」
「よろしいのか……それで……」
・『57歳!?!?!?』
・『声が若々しすぎてアラフォーかと思ってたwwwwwwww』
・『「恥を知れ」って即座にお母様を庇うキュラド様ほんと騎士ww』
・『キュラド様が呆然としてて草wwww』
・『57歳でこのフットワークの軽さとノリの良さは最高のお義母さんすぎる』
配信は和やかに続いていたが、お母様がふとどこか遠くを見るような声で言葉を紡いだ。
「ちょっと変なこと言うんだけどね」
「何だろうか」
「25年前……32歳の時に私、男の子を流産しててね……。その時の子がキュラドくんなのかもって、時々思うのよ」
一瞬、配信画面の空気が静まり返る。
それは決して暗く重いものではなく、時を経て昇華された、温かな命の記憶としての言葉だった。
キーボードの上に置かれたキュラドの指が一瞬止まり、彼の赤い瞳が静かに揺れた。
「……ふむ、俺は始祖の心臓と死んだ人間の身体を素材に、魔術によって奇跡的に生み出された存在だ。己のルーツを調べても、この俺の魂がどこから来たか、という問いには未だに答えが出ていない。案外、本当にその通りかもしれないな」
重厚で穏やかなキュラドの声が、マイクを通じて世界中に響く。
彼の人格はルーツとなった存在のどれとも一致しない。そこに宿った魂がどこから来たのか。何故自分がこの世界に産み落とされ、エスという最愛の伴侶と巡り合い、こうしてご両親と家族になれたのか。
その未知の問いに対する一つのあたたかな答えのように、キュラドは優しく微笑んだ。
・『奇跡って本当にあるんだな……』
・『25年前、流産された子……そして25年前に目覚めたキュラド様……』
・『だからこんなにもキュラド様をご両親が「うちの子」って愛してくれたのかな』
・『キュラド様が肯定することでお母様も救われたでしょ……』
・『オタク全員泣いてるだろこれ』
「ふふ、ルーツね……。初めてうちに遊びに来てくれた時、家族がいないとか、他の吸血鬼はみんな滅んだって言うから、ずっと心配してたのよ?」
「あの頃は……自分自身と向き合うのが怖かった。自分が本当は何者であるか、どこから来たか、調べたい気持ちはずっとあったが、それを知って何になると思っていた」
胸の奥に秘めていた当時の苦悩を、静かに吐露するキュラド。
始祖の心臓を宿し、人間社会で独り目覚めた25年前。孤独と正体不明の己の存在に苛まれ、自身のルーツを探ることすら諦めかけていた若き吸血鬼の背中を押し、温かく迎え入れてくれたのが他ならぬSPであり、ご両親だった。
「いつだったか、キュラドくんが自分のルーツについて調べたからって話してくれたの。嬉しかったなあ、キュラドくんにも家族がいたんだって思えて」
「人間の家族とは違い、かなり歪な関係性だがな」
・『孤独だったキュラド様をずっと心配して見守ってくれてたんだなぁ』
・『自分が何者か分からないの、本当はすごく怖かったんだろうな……』
・『血と魔術で繋がった「歪な家族」と、愛と絆で繋がった「人間の家族」……最高やな……』
・『鼻かみすぎてティッシュないなった』
・『神回なんてレベルじゃない、VTuber史に残る涙の神配信』
「始祖様に出会えてよかったねえ。もっとキュリアさんの姿も配信に出してね」
「うむ……善処しよう……」
先ほどまでの威圧感はどこへやら、気圧されたように素直に頷くキュラド。変身魔術を駆使し、始祖へ変身した状態での配信もお母様にしっかり見られていたらしい。
さらに、お母様は追い打ちをかけるように笑顔で語りかけた。
「ASMRもいつも見てるからね〜」
「いつもご視聴ありがとうございます……」
・『「いつもご視聴ありがとうございます……」の縮こまり方で耐えられないwwwwwwww』
・『【朗報】お母様、メンバーシップ入会済み』
・『義母がメン限ASMR見てるの地獄すぎるだろwwwwww』
・『そもそもASMR機材送ってきたのってお母様だったっけww』
・『お母様のリクエストで始祖キュリア様のASMR再来あるか!?!?』
・『キュラド様、完全に頭上がらなくてかわいすぎる』
その後も和やかに進行していくコラボ配信。いよいよ終盤に差し掛かり、お母様は名残惜しそうに、けれど朗らかな声で次の約束を口にした。
「またお城にも遊びに行かせてね、エスの様子見るついでだけど」
「うむ。いつでも大歓迎だ」
お母様からの来訪の希望に、二つ返事で頷くキュラド。
しかし、続くお母様の天然な追撃により、現場の空気は一瞬で緊張感に包まれることになる。
「静岡からならそんなに遠くないし……」
「おっと、貴様ら今のは聞かなかったことにしろ。お母様、全世界配信で軽々しく居住地を口に出してはいけない」
「ふふふ、ごめんなさい。今度うなぎパイ持っていくからね」
「お母様よ……」
・『【速報】お母様、配信で実家をあっさりセルフ開示wwwwwwww』
・『キュラド様が焦って「聞かなかったことにしろ」って遮るの草wwwwwwww』
・『キュラド様「お母様よ……」の頭抱えてる感じわるwwww』
・『あかんうなぎパイのダメ押しで笑い止まらん』
・『神配信すぎて終わってほしくないwwww』
こうして、前代未聞の25万人記念義母コラボ配信は大盛況のうちに幕を閉じるのだった。
*
配信が無事に終了し、枠が閉じられた直後。熱気冷めやらぬXのタイムラインに、キュラドから素早くポストが投下された。
キュラド@Curado_vampire
配信の視聴ご苦労。一部うっかり発言があったのでアーカイブは一定期間非公開にさせていただく。適切な処理を施して後ほど公開する。大人しく待て。
・『マジで配信面白かった!!!wwww』
・『「一部うっかり発言」=お母様のセルフ開示wwww』
・『配信終わった瞬間に秒で非公開になって耐えられなかったww』
・『SPちゃんに怒られてるとこ想像してしまってもうだめ』
それからしばらくの時間が経ち、タイムラインのリスナーたちが「まだかな」「動画編集と音声処理頑張ってるのかな」とソワソワしながら待機していた頃、再びキュラドのアカウントが更新された。
キュラド@Curado_vampire
アーカイブは該当箇所を編集し、再公開した。なお、該当箇所は切り抜いてやったから騒ぐな。
【25万人記念】伴侶の母君とお話をする【義母コラボ】
[youtube.com/watch?v=xxxxxxxx]
【公式切り抜き】お母様のうっかり発言に焦りまくる吸血鬼VTuber
[youtube.com/watch?v=yyyyyyyy]
・『公式切り抜き投下たすかる』
・『公式自ら切り抜き動画作る仕事の早さよwwww』
・『切り抜き動画観てきたけど音素材の加工が完璧すぎて腹痛いwwwwww』
・『「○○(※極太のピー音)からならそんなに遠くないし……」になってて草』
・『「今度○○○○○(※ピー音)持っていくからね」って完全に伏字にされてて耐えられないwwww』
・『お母様の発言をピー音で消すなwwwwwwww』
・『音声処理の技術が無駄に高すぎて仕事を選ばない吸血鬼』
キュラドの機転によって無事に隠蔽工作は完了……したように思えた。
しかし、事態は思わぬ方向へ転がり始めたのだ。
SP@SP_support_es
そういえば高校の頃「鉛筆が○○○○○○だ」って言ったら友達に「なにそれ」って言われたなあ……
・『絶対ときんときんで草』
・『伏字意味を成してないよ!!』
・『【悲報】SPちゃん、キュラド様の必死の隠蔽工作を爆速でセルフ粉砕』
・『「ときんときん」は静岡県民(中西部)の誇りだもんな……』
・『SPちゃん「伏字にしたからバレないよね!」って思ってそうなの可愛すぎる』
・『親子そろってセルフ開示していくスタイル好きすぎるwwww』
自室で投稿を見つけたキュラドは、思わず頭を抱えて深々とため息をついた。
しかし、ここで動揺を見せれば吸血鬼としてのプライドが廃る。頭を切り替えたキュラドはキーボードを力強く叩き、引用リポストを投稿した。
キュラド@Curado_vampire
サイレントヒルにお住まいの貴様らにおかれましては絶対に特定などをなさらぬようお願い申し上げる。
SP@SP_support_es
そういえば高校の頃「鉛筆が○○○○○
○だ」って言ったら友達に「なにそれ」
って言われたなあ……
・『サイレントヒルにお住まいの貴様らwwwwwwww』
・『【確定】静岡県確定演出』
・『やっぱり静岡じゃねーか!!!!!』
・『もう隠す気ゼロで草wwwwwwww』
・『キュラド様が諦めて開き直るフェーズに入ったww』
・『サイレントヒル民ですが、温かく見守ります』
・『お母様「ふふふ、サイレントヒルのお菓子持って行くわね」』
こうして、キュラドとSPの賑やかで平和な日常は、サイレントヒルの穏やかな風とともに、今日もリスナーたちの腹筋を崩壊させていくのだった。
ちなみに作者の出身はサイレントヒルではありません。
土日21時は「VAMPIRE ON AIR !!」を更新していきます!
面白いと思ったら星やリアクションをよろしくお願いします!
シリーズ作品「エスパー少女と吸血鬼」はこちらから↓
https://ncode.syosetu.com/n3638mx/




