第五十話 夏の終わり
遅くなり、本当に申し訳ありません。
アリエスさんと共に店に入る。外観と同じく店の中も質素というか何というかな造りをしている。どこか隠れ家的な印象を受ける喫茶店であった。クラシック音楽が店内に流れていて良い雰囲気だった。こういう雰囲気も悪くない。
「そうでしょう~。ここは私が知ってる中で一番のお店なんですから」
そんな僕の思いでも感じ取ったのかアリエスさんが僕を席に促しながら言う。その途中に見知った奴の声を聞いた気がする。だけど、こんなところで早々知り合いに会うわけもないので、無視しておく。もしかすると本当に知り合いの可能性もあるが、こんな状況を人に見られたら僕の平穏な学校生活が終わりかねん。
何? 既に終わっているって? いやいや、まだ終わってない。カオスな面子に囲まれてるからってまだ平穏な学校生活が終わっているわけではない、はず。……だと思いたい。
「それに、マスターはヨーロッパで料理修行した人ですから。味も保障付きです。ね、マスター」
「左様でございます」
座ったのはカウンター席なので、目の前にやって来たマスターらしいとてもつなくダンディーな親父さんが言う。今までにないタイプの人だ。珍しい。いや、何が珍しいとかないんだけどね。うちの近くの喫茶店の人はそこまでの人じゃなかったし。
でも、アリエスさんの言う通りの人には見えないが人は見かけによらないし。何よりもマスターっぽいので良しとしておく。何が良しかはわらないけど。
「さあ、好きなのを頼んでいいですよ~。私のおごりですからぁ。あ、お金についてはぁ、心配してないで、良いですよぉ~。ここの料理は、良心的な値段ですからねぇ~」
「そうですか? なら、お言葉に甘えて。そうですね……」
メニューを見ると中々おいしそうな名前の料理が並んでいる。無難なものから、一体どんな料理なのか不明なものまであるので、どれを食べようか結構迷う。おまかせなんて頼んでもいいのだが、どうしようかな。
「オススメとかありますか?」
アリエスさんに聞くと、指をその形のよい顎にあててう~んと考える。
この人がこういう仕草すると、本当に成人した女性なのかと疑いたくなるよ。わかりやすく三上風に言えばとてもつもなく可愛いとなる。別に僕が可愛いと思っているわけではない。断じてそうではない。……断じてそうではない。大事なことだから二回言った。
「そうですねぇ~。私的にはぁ~ナポリタンがオススメですよぉ~」
なるほど、ナポリタンか。うん、それにしようかな。他のは、どういったものかわからないし。ナポリタンなら失敗はないだろう。マスターの雰囲気からして、失敗することはないだろうと思えるだろうけど、とりあえずは堅実的に行きたいと思う。冒険するのはまた来た時にでもしよう。まあ、次にいつ来るのかわからないんだけどね。
「じゃあ、それにします」
「じゃあ、私もそれにしましょう。マスターよろしくお願いますぅ~」
「かしこまりました。少々お待ちください」
はい、というわけで、数分後。
僕とアリエスさんの前にはうまそうなナポリタンが並んでいた。うん、本当にうまそうだな。
「じゃあ、いただきましょうかぁ」
「そうですね」
「あら、狩野悠じゃありませんか」
いざ食べようとした時、見覚えのある、声が僕にかけられてた。…………いや、誤魔化すのやめよう。知り合いの声が僕にかけられた。それも一番この場で会いたくないのに。一番この状況を見られたくないのに声をかけられてしまいました。何でこんなところにいるんだよ。あのショッピングモール関係か。いやいやいや、それだけでここまでこんでしょ。僕とアリエスさんは除いて。ってことは、完全にプライベートか。
……混乱してるな。まあ、会うはずないと思っていた人物に会ったんだから当たり前か。想定外。そう、想定外。僕は今日1日絶対に、絶対に、絶対に絶対に知り合いには会うつもりなかったんだからこうなるのも仕方ない。携帯も切ってるし、誰にもばれないようにかなり注意してたんだ。特に莉子とか、木山とか、ばれたらどうなるかわらない奴らに。だからか、それ以外を想定してなかったからか。よし、今度こんなことになったらきちんと主要以外も注意しておくことにしよう。
「あなた、私を無視するなんて良い度胸ですわねぇ」
「い、いや、別に無視したわけじゃないぞ。九条」
そう、そこにいたのはあの九条であった。よりにのよってあの九条である。言いふらすとかはしなさそうだけど、追求はしてきそうなあの九条である。
「あら、そう。で、そちらの方は誰ですの? あなたの妹、何てわけありませんわよね」
はい、やっぱりきました追求。ですよねー。逃れられる方がおかしい。僕だって当事者じゃなければ追求する。し、しかし、今ここで正直に答えてしまうと色々と終わる。僕の評判や、アレとか。え、アレって何かって? アレはアレだ。言わせんな恥ずかしい!! って、こんなことを考えてる暇じゃなかった! どうにかして誤魔化さねば! アリエスさんが何か言う前に!!
「ええ、わたしは彼女ですよ」
はい、終わったー!! 早い、さすがアリエスさん早い! 対応が早すぎるよ! しかも、あからさまにニヤニヤしてるし。
「なっ! ああああ、あなたはこのような子供相手に何をやっていますの!?」
「違う!! アリエスさんも嘘つかないでください!!」
「あらぁ~? 嘘はついていませんよ。嘘は。ただ、言っていないことがあるだけですよぉ~」
この人は! って、そんな場合じゃない。まずはこの明らかに酷い方向に進んでしまっている誤解をなんとかとかなければ。
「そうですか」
うああああああ、何か異様に冷めた目をされたあああ。いや、落ち着けまず。落ち着くんだ僕!!。僕ならこの状況を何とかできるはずだ。まずは落ち着くんだ。素数を数えよう。えっと、…………素数ってナンだっけ? うわああ、まずい、まったく落ち着けない!
「ふふふ、慌てるだけ自分の首を絞めるだけですよぉ~☆」
「ぐっ」
確かにその通りだ。でも、黙ってるだけも九条に関してはなんだか駄目な気がする。というか、僕の周りにいる女子ってみんなそうじゃね?
「払ってきましたよ九条さん」
「あら、どうも」
なにやら好青年が九条の隣にやって来た。なにやら親しげだ。誰なんだ? ん、なんとも嫌な予感と言うか、この場合僕にとって非常にやばい事実を聞かされそうな予感がする。
「そちらは?」
「ああ、そういえば言っていませんでしたわね。許婚というやつですわ」
それを聞いた瞬間、僕の中の何かが割れた気がした。
はい、なんか、もうすみませんでした。
次回は五十話記念の話をしたいと思います。
これからも宜しくお願いします。




