9:コランダムクラブ
2018/01/17
地脈結界の説明の部分を少し修正しました。
予定通り、翌日の昼にコランダムクラブの生息ポイントにたどり着いた。
渓流だ。
コランダムクラブは水辺を好み、餌として岩石や鉱物を食べる習性があるので、こういった渓流に多く生息しているんだそう。
しかしまぁ、何とも澄んだ渓流だね。
豊かな森林の中に穏やかな流れ、木々の間から射す陽の光に照らされた苔むした岩石と、紅葉し、ヒラヒラと舞う落葉の情景は何とも趣がある。
ゆっくりと時間が流れるのを楽しみたくなる場所だ。
「どうしたの?」
「ん? 綺麗な場所だなぁ、と思ってさ。」
コランダムクラブを狩った後はゆっくり散策してみるのも悪くないかもね。
《ここは結界があるのと、この景観も手伝って、冒険者達が野営場所としてよく立ち寄るんですよ》
「結界があるの?」
《ええ。地脈結界があります。もう少し進んだ先ですよ》
「しかも地脈結界か」
街の外で結界と言えば普通は精霊樹と呼ばれる精霊の力を宿した自然木の事になるんだけど、それとは別に地脈に流れる精霊の力だけで発生している地脈結界と呼ばれる結界が存在する。
精霊樹との違いは圧倒的な自然治癒力と言われており、地脈結界内では回復薬入らずと言われるくらいだ。
まさかリコッタからそう遠くない場所にあるとはね。
進んだ先には淡い青色の膜で覆われた凡そ百m四方の開けた場所があった。
所々地面から青白い小さな光の玉が浮かんでは消えている。恐らくそれが結界を作っている精霊の力というヤツなんだろうな。
「馬車が停まってるね。冒険者かな?」
「多分。護衛の途中っぽいな」
結界の内側に入り、邪魔にならないよう先に停まっている馬車の反対側に移動する。
……。
……。
「凄い見られてるね」
「それはもうしょうがない」
目立つ事は十分理解してるし、誰だってこんな馬車居たら見るだろうよ。
そんな好奇な視線の中、馬車を停め、クロエから軛を外す。
外すって言ってもクロエと馬車は魔力で連結してるから実際にはただ魔力を止めただけなんだけど。
そうして連結解除されたクロエに今度は鞍を装着する。
アルマがクロエに乗りたがってたので創造しました。
「よし。装着完了っと」
《コランダムクラブは水際に居る事が多いのでこのまま川を上流に向かって進んでいきましょう》
「おー♪」
楽しそうねアルマ。
◆◆◆◆◆
「中々居ないもんだな」
コピーした固有スキル【聞き耳】と異世界憧憬を併用して警戒してるんだけど、聞き耳で拾う音は野鳥の囀りと川の潺だけ。
三十分はこの調子だ。随分とのどかだ事。
「先に来てた人達が狩っちゃったとか?」
《その可能性もありますが、ここまで戦闘の形跡はありませんでしたから、この近辺には居ないのでしょう》
「ふむ。もうちょっと聞き耳の方に魔力割いてみるか」
込める魔力を増やせば範囲が拡がるからな。
聞き耳に四割、異世界憧憬に一割でどうだ。大分索敵範囲が拡がったハズ。
……ッ…!…
お?早速何か引っかかった。
「魔物?」
「…いや、声が聞こえるから。人だな」
走ってるな。
走ってこっちに向かってきてる。
…ん、走って?
何で走ってるんだ??
……た…て……!
だ……たす…て…だ……!
誰か!助け…くだ…い!!
っ!これは。
「クロエ。アルマを頼む」
「え? ちょっ、カナ!?」
言うが早いか俺は上流に向かって駆けていく。
足音は……三人分。
それと、それ以外の足音も三つ。
走る音に紛れて気づかなかったけど、この足音の正体から走って逃げてたのか。
……っ、足音が止んだ。
もうちょい……。
あとちょっと……。
……。
……捉えた。
視界に映ったのは、その巨大な鋏を振り上げているコランダムクラブと追い詰められた三人の冒険者の姿だった。
聞き耳に割いていた四割の魔力を異世界憧憬に回す。
とりあえず距離を取らせないとな。
全力で地を蹴り、勢いそのまま鋏を振り上げていたコランダムクラブに迫り両の手で押し出すように掌底を繰り出す。
掌底を喰らったコランダムクラブは、ドンッ!!という鈍い音と供にもう一匹を巻き込みながら吹き飛び、川向うに有った岩にその身体を打ち付ける。
三人の冒険者は何が起こったのか理解出来ていない様だ。
ついでに残るもう一匹もね。
残りの一匹の理解が追い付くより早く懐に潜り込み、左足を思い切り踏み込む。
そして魔核を狙い、えぐりこむ様に左手で掌底を突き上げる。
ゴッ!という音を上げその衝撃で全身の水晶にヒビが入る。
「手応え有りだ」
踏み込みからの掌底を喰らったコランダムクラブは鳴き声を上げる代わりにズンッと音を立て地に伏せる。
鳴き声があるかどうか知らんけどな。
さて。
「あ、あの……」
ようやく事態を飲み込めた一人の冒険者から声を掛けられるが、ゴメンそれはもうちょっと待ってほしい。
まだ二体残ってるからね。
不意を突いたとは言え、魔核を狙えば一撃で倒せるのか。
個体差があるだろうから楽観視は出来ないけど、思ったより苦戦せずにすみそうだ。
吹き飛ばされた内の一匹が両の鋏を振り上げ、口?らしき場所から泡を吹いてこちらを威嚇してくる。
が、残念ながら怖くない。
バンザイにしか見えないし、殺気がまるで籠っていない。
何なら泡を吹いて降参しているようにすら見える。
そんな考えが頭をよぎり思わずフッと鼻で笑ってしまった。
するとそれを煽りと捉えたのかコランダムクラブが猛スピードでこちらに突っ込んできた。
そんなつもりじゃなかったんだけど、期せずして相手を挑発することに成功してしまった。三人はまだ動けなさそうだし、丁度いい。
コランダムクラブの攻撃は単調だ。
その硬い身体に物を言わせた体当たりか、両の手の鋏で叩き潰すかだ。どちらも動きが直線的で避けやすい。
突っ込んできたコランダムクラブを回避し背中側に回り込む。
岩に突っ込み、動きが止まった所に背中から掌底をブチかましたけど、効果は薄そうだな。
やっぱり正面からじゃないとダメか。
砂埃の中コランダムクラブがゆっくりとこちらを向く。体当たりでは当たらないと思ったのだろう、今度はその鋏で俺を狙う事にしたようだ。
俺からしてみれば好都合だ。体当たりの態勢だと潜り込まなければならなかったけど、今の状態なら魔核部分が正面にきている。
実に狙いやすい。
隙あらば掌底が打ち込める様、左足を後ろに下げ半身の構えを取る。
その瞬間俺を叩き潰そうと左の鋏が振り上げられる。
だけどそうはいかんよ。
「隙ありだ」
鋏が振り上げられた瞬間左足で地面を蹴り、飛ぶ様に距離を詰める。
そして先ほどとは違い、真正面から貫くように掌底を叩き込む。
全力の掌底を喰らったコランダムクラブは吹き飛ばされながら、しかしそれでも倒れることなく何とか踏みとどまる。
っ、正面からだから衝撃が後ろに逃げたか?
バックステップで一旦距離を取り様子を伺うも相手は動く気配が無い。
「?」
あれ?もしかして、死んでる??
それともこちらの油断を誘って近づいた所を「かかったなアホが!」とかそんな感じか?
何が有っても対処できるよう異世界憧憬を解く事無く用心しつつ近づいてみる。
完全に懐まで入り込んだというのにそれでもまだ動かない。
試しに一発殴ってみたらその場に頽れてしまった。
どうやら最初の一撃で死んでたみたいだな。それなら分かりやすく倒れててほしいもんだよ。
「で、残ったお前はどうする?」
表現するならば、唖然と立ち尽くしている。そんな状態の最後の一匹に問いかける。
言外に「お前が逃げるなら俺は追わない」というニュアンスを出してみたんだけど、案外と魔物相手にも通じるもので、残る一匹に交戦する様子は無く、俺の言葉を聞いた後に背を見せて森の中に逃げ帰っていった。




