19:ドッキリポーションの効果
ご都合主義回です。
片づけを終え、再度テーブルに集まる俺達。
勿論ドッキリポーションを試すためだ。
「どんな効果が出るか楽しみだね」
《お二人ならばきっと素晴らしい効果が表れるに違いありません》
「だといいけどな。勿体ぶっても仕方ないし、サッと飲みますか」
俺はおもむろに椅子から立ち上がると、足を肩幅程度に開き、そして腰に手を当て、首は斜め四十五度。そうして一気にドッキリポーションを飲み干した。勿論飲み干した後に「プハーッ」というのを忘れてはいけない。
これが地球より伝わる【風呂上りにミルクを飲む時の正しいポーズ】だ。今回はミルクじゃ無いけど。
意味?昔祖父ちゃんに聞いた時はただ一言「文化」と言われたな。時に意味は無いらしい。けど、その姿が何だか妙に様になっていて、それ以来俺も真似する様になったんだよ。
因みにこれアルマも同じ飲み方してますから。
「美味いなコレ」
てっきり飲んでみるまで味はわからないとか、そんなのを予想してたんだけど、そんな事は無かったわ。
……。
……。
……。
「特に、変化は無いね」
「うん。なぁクロエ、これどれくらいで効果が――」
表れるのか?そう尋ねようとしたまさにその時だった。
【カナメは 真実の眼 を覚えた】「えっ?」
【アルマは 宝物の園 を覚えた】「えっ?」
これは……。
もしやと思い、俺は自分のステータスプレートを確認してみる。勿論スキルの項目だ。
だがいくら探してもそこに真実の眼は記されていなかった。
違う?いやでもあの感覚は確かにスキルを覚えた時の……。
『噂では【固有】スキルが増えた人も居るとか』
……まさか。
俺はもう一度ステータスプレートを確認してみる。今度は固有スキルの項目だ。
【固有】
[真実の眼]
タイプ:パッシブ
[効果]
視界に映った万物の詳細を知ることが出来るスキル。
そこにはそんな風に記されていた。
……マジか。マジで覚えたのか。ハッタリだと思ってたのに……。
《その様子ですと新たなスキルを覚えられましたか?》
「……わかる?」
《グランドマスターが同じような反応をされてましたので》
「あの、私もなんだけど……」
アルマも?……あぁ、そういえばアルマもステータスプレートの確認して――
[宝物の園の発動を確認。固有・宝物の園をコピーしました]
「たうっ!?」
「どうしたの!?」
「……いや」
何か名前からして凄そうなスキルをコピーしちゃったんだけど……宝物の園って。
しかも何、これも固有?アルマも固有覚えちゃった?
「ちょっと、自分の整理が追い付かない内にアルマが覚えたであろう宝物の園ってスキルをコピーしちゃってね……しかも、これも固有なんだ」
「うん……説明みたけど凄かった」
ちょっと待ってくれ。色々と整理させてくれ。頭が追い付かない。
あ、そうか。こんな時こそハーブティーだ。ドッキリポーションが不味かった時の口直し用に淹れておいたんだけど、まさかの正しい用法で約に立つとは。
俺はカップに注がれたハーブティーに口を付けこれを飲み込んだ。
それを見たアルマも意図を理解したのか同じようにハーブティーを飲んでいる。
「「ふぅ」」
《落ち着かれましたか?》
「うん。かなり」
逆に不安になるくらい落ち着いた。
ヤバいなこれ。平常時に飲むならまだしも、その内感情を失ってしまいそう。
「まさか本当に固有スキルを覚えるなんて思って無かったよ」
「ほんとな。アレ、販促の為のハッタリだとばかり思ってた」
《先ほど『これも』と仰っておられましたが、マスターも固有スキルを覚えられたのですか?》
「ん? うん。真実の眼ってヤツ。視界に映った万物の詳細を知る事が出来るって効果。この感じだと鑑定に近いスキルだと思う。アルマは? 宝物の園ってヤツ。どんな効果だった?」
って、俺は自分で確認できるか。
「えっとね」
【固有】
[宝物の園]
タイプ:パッシブ
[効果]
異なる空間に生命以外の物を無制限に保管する事が出来る。空間内での時間は停止しており、経年による劣化は起きない。
「って効果だね」
「これ鑑定と収納のスキルが一気に手に入ったって事か?」
それってどんな確率よ。どっちのスキルも冒険者に限らず垂涎物だぞ。
《マスターはハインズ様のスキルをお持ちですし、ミコ様のスキルの恩恵を受けてらっしゃいます。アルマはミコ様とマスターのスキルの恩恵を受けていますので、この様な可能性の低い事象を引き当てる事も容易でしょう》
「だとしたら末恐ろしいな」
運が上昇するって効果いまいち実感し辛いなぁなんて思ってたのに。
でもそう考えるとあの花を見つけたのもそのスキルの効果だったって事――
「あ、そうか、今ならあの花が何なのか解るかもしれない。」
結局ニトさんに聞いても詳細はわからなかったけど、真実の眼の効果なら解るはず。
「持ってきたよ」
俺の次の行動が容易に想像出来たのだろう。アルマが馬車に戻り花を持ってきてくれた。
「ありがと」
「どういたしまして」
真実の眼がどれほどのものか、そしてこの花が何なのか、同時に確認といきますかね。
俺はアルマが持ってきてくれた花に眼を向ける。
ふむ、さっきまでは気づかなかったけど、どうやら映った物全ての情報が無制限に流れ込んでくるって事は無いみたいだな。
現に今、俺の眼が映しているのは花以外に、ハーブティー、カップ、ソーサー、テーブルがあるけど、花以外のそれらの詳細はわからない。
なら、意識を花以外にも向けてみたらどうなるか。
【テーブル】
最高級の強化プラスチックで作られた折り畳み式テーブル。
内部はハニカム構造となっており丈夫で軽く、お手入れも簡単。
耐荷重百三十kg。
持ち運びに便利な収納ケース付き。
【ソーサー】
陶器で作られたごく一般的なソーサー。
【カップ】
陶器で作られたごく一般的なカップ。
【ハーブティー】
最高級のナツメグによって作られたハーブティー。
そのリラックス効果はまさに天井知らず。どの様な状態からも貴方を無の境地へと誘います。
若干ハーブティーの説明が恐ろしくも感じるが……。
とにかく、複数の詳細を同時に知ることも出来るな。
うん。使い勝手が良さそう。
で、本命の花は。
【宝千花】
周囲の魔力を糧に成長する枯れる事の無い花。決まった生息地を持っていない。
開花までは凡そ百年掛かるが、その花弁は虹色を宿し、千の宝石を鏤めたかの如くとても美しく輝く。
現存する個体数は極めて少ない。
「だ、そうだ。」
俺は興味深くのぞき込んでいた二人に、宝仙花の詳細を伝える。
「宝仙花……宝仙花かぁ。」
《千の宝石を鏤めた花とは素敵な名ですね》
「名は体を表すって聞いたことがあるけど、この花の為にあるような言葉だな」
名前に偽り無しだよホント。
「大切に育てようね」
「だな」
魔力で育つとはいえ、いままで通りちゃんと水もあげよう。やっぱりそれが花本来のあるべき姿だと思うからね。