3
右の道を歩く。
息が上がっている状態で歩いているのからか少し足が重く感じる。
それでも、足を止めることなく歩く。
しばらく細い一本道だった。
細い道を抜けたところに頭上に岩が見えないほど高く広々とした場所にでた。
道は途切れていた。
驚くほど広くさっきまでの狭い岩の壁がある洞窟とは別物だった。
見渡しても端までがギリギリ見えるかどうかぐらいの広さだ。
メートルで言うとだいたい50〜70ぐらいの長さが横、縦に伸びているような感じだ。
魔物などがいたら困るので壁に手を当てながら一周をぐるりと歩く。
歩いていると壁の隅の方にピチョン、ピチョンと壁から水が流れて冷たい床の岩に成人男性がひとり分ぐらいの大きさの水たまりができていた。
ダンジョンとは不思議なものだ。
どうなっているのか想像もできない。
(この水はどこから流れてきているのだろうか。飲んでも体に害はないだろうか。)
この水が飲めるのなら水に困らなくてすむからありがたいが。
ここは、ダンジョンだ。
安易に飲まない方が得策だろう。
俺はそう考えて水たまりに背を向けてこの空間の探索をまた始めた。
水たまり以外はダンジョンによくある光る植物(通ってきた道でもあった)とよく分からない蔦があった。
だけど、魔物はいなかった。好都合だ。ここを一時的に仮の拠点としておこう。
一応飲めるか分からないけど水があるのだし。
俺はよく分からない光る植物と蔦をできるだけ根本から取った。
蔦は結構たくさんあったので不格好ながら編み込んで、でかい布みたいなのを二つ作った。
光る植物は7本あったので5本は水の近くに余った蔦で括りつけた。
残り2本はカバンの中だ。
蔦で作った布みたいなのは一つは身を隠すマントや布団にして、もう一つはここに入って来れる入り口に歪なからカモフラージュとして蔦を吊り下げる。
吊り下げた下に、少し余った蔦を縄みたいにしたものをピンと張って左右に置いた俺の足元から膝ぐらいの重そうな岩に括りつけた。
これで、魔物などがきた時はわかるだろう。こけた音で。
ついでに、よく尖った石を罠に嵌ってこけるであろうところに不自然にならないように2、3個置いた。
どうせ罠に引っ掛かるならついでに怪我もして欲しいと願って。
よし、一応仮拠点の完成だ。
ダンジョンに入ってからの極度の緊張で今すぐ休みたいが俺はこの空間に通った道に念の為罠を仕掛けないと行けない。
少し重い足を引きずり気味にして歩いていった。
まず、手始めに細い道にある光る植物を全部引き抜いた。
道が一気に暗くなる。
よほど目がいい魔物や人ではないと何も見えないくらい真っ暗だ。
一応、俺は目がいい方だし光る植物を持っているのでちゃんと見えるけど。
真っ暗な道は罠を仕掛け放題だ。
捨てられる前はほとんど放置されている状態だったためちゃんと寝たりするためには人が近くに来た時にわかるぐらいの罠と人が近づこうとは思わなくなる罠を作って置かないといけないから、罠作りはお手のものだ。
だといえ、ここは材料なんかが限られている。
その材料もさっき仮拠点で光る植物以外使い切った。
まずは材料調達をしないといけない。
細い道を進んで分かれ道があるところまで行く。
左の道には行かずに最初の場所に戻る道を進む。
その途中にある蔦を引き抜きカバンに入れていく。最初の場所に戻る前までにはカバンが蔦でいっぱいになった。
蔦でぱんぱんになったカバンを持って仮拠点に早足に進んでいく。
戻っている途中、ドスン、ドスンというスライムではない少し重めの足音が聞こえてきた。
さっと広い道の左側の物陰になっているところに身を隠す。短剣を握りしめる。
あの足音はたぶんゴブリンだ。何匹だ?
薄暗い中、ゆっくりと魔物が現れる深い緑色をした5、6歳児ぐらいの大きさで手には鋭い石を握っている。
ギョロギョロと自分の拳一とつ分ぐらいの大きさをした目玉があたりを見回す。
どうやら、今日の俺は運を使い果たしたようでゴブリンは二匹いた。
二匹とも同じような見た目だった。
違うところと言えば、身に纏っている布の面積ぐらいだろう。
心臓が早鐘をうつ。
口から漏れた空気の音に気づかれないようにゆっくり息を吐く。
近くにあった手のひらサイズの石を広い道の右後ろに投げる。
辺りを見回していたゴブリンが地面に弾かれ音が鳴った石の方を一成に見た。
前にいたゴブリンが確認するようにゆっくり音が鳴った方に進む。
俺との距離わずか3、4歩ほど。
一匹のゴブリンが進む。俺はゆっくり短剣を利き手である右でしっかりと握り、左手に小さめの石を握る。
ゴブリンが目の前に来る。
俺は素早く飛び出しゴブリンの急所である顔と体を繋げている部分に短剣を深く突き刺した。
グサッ
野太い音が聞こえた。
俺が仲間を刺したことに気がついたもう一体のゴブリンが少し遅れてこちら目掛けて鋭い石を突き刺そうと猛ダッシュで走って来る。
俺は左手で持っていた石を首を刺しても未だ息絶えてない生命力が強いゴブリンの顔面に勢いよく叩きつけた。
叩きつけると同時にゴブリンに刺しっぱなしだった短剣を勢いよく引き抜いた。
ゴブリンの血である緑色の液体が体にかかる。
刺されたゴブリンの死因は首を刺されたことによるものなのか顔面を勢いよく殴られたものなのか分からないがゴブリンは動かなくなった。
ドスっ、ドス、ドス、ドス。
もう一匹が走ってくる。
死んだ方のゴブリンの顔面に叩きつけた石を走ってくるゴブリンの大きな右の目玉に目掛けて石を投げた。
ゴブリンは少しスピードを落として石を避けた。だが、距離約1メートルほどの至近距離から投げられたため完全には避けきれず顔面にうっすら血がでるぐらいの怪我をした。
ルイは石を避けた時にできた少しの隙を見逃さずにすかさず石で狙った目玉とは逆の方の左の目玉を短剣で刺した。
ギャァッ。
短いゴブリンの悲鳴が聞こえた。
ゴブリンの生存本能が働いたのかゴブリンは手に持っていた鋭い石を右目を刺したルイに向けて叩きつけた。
ルイは叩きつけられた右手を短剣から放し後ろに一歩、二歩下がった。
(武器を失った。これからどうする?)
焦る気持ちを呼吸で沈めてルイはゴブリンに向けて走り出す。
手を強く握って拳を作りゴブリンの右の目玉に刺さった短剣を殴る。
深く目玉に短剣が突き刺さった。
ギャッ。
ゴブリンが悲鳴をあげ少しよろめいた。
ルイはさっとカバンの中から蔦を取りだしゴブリンの首に巻いた。
蔦をおもいっきり引っ張った。
ゴブリンは手足をばたつかせた。
ルイはゴブリンの頭を足で精一杯冷たい岩の地面に押しつけた。
激しくゴブリンが抵抗する。
ゴブリンは人間でいう大人の強さぐらいはある魔物だ。
ルイがいくら死に物狂いでゴブリンの顔を踏みつけていても簡単にルイの足から脱出するだろう。
だけど何故かゴブリンは反撃なく動かなくなった。死んだのだ。
ルイが生き残った。
はぁ、はぁ
息があがっていた。
大人の力がほどあるゴブリンを二匹も相手したのだ疲れて当然だろう。
ゴブリンがなぜ反撃せずに死んだのかは正直ルイも分からなかった。
目玉が潰れていて力が出せなかったのもあるかもしれないし、運が良かっただけなのかもしれない。
だけど、正直ルイにとってそんなことはどうでもよかった。
ルイはゴブリンの死体を二体とも持ち上げてよろよろと仮拠点に向けて歩き出した。
ゴブリンは人間の心臓を食べると体の中で魔石ができる。
その魔石も求めてルイはゴブリンを持ち帰る決断をした。
また、魔石もダンジョン特有のものであった。
(これは食えるのかな?)
ルイはゴブリンを食うつもりのようだ。
人間を食っているルイからすれば食べれるかもしれないと思っている。
いずれ少し前に調達した人の腕はなくなる。
その時に備えてゴブリンの死体は持って帰る。
仮拠点に着いた。
水たまりの近くにいき蔦でいっぱいになったカバンと二体のゴブリンの死体を下ろした。
ふぅー。
ゆっくり息ついた。
まだこれからもやることがある。
まだ休めないなと思いながらゴブリン二匹相手に生き残った実感を噛み締めながらルイは息を吐いた。




