11◇罪滅ぼし
夜になり、宿の部屋で一人になった途端にブランシュはがっくりと落ち込んだ。
ノアは、結婚歴のあるまっさらではないブランシュでも受け入れてくれたのだと思っていた。
けれど、それはノアの優しさがそう見せるだけだったのだ。
悲惨な目に遭ったブランシュを思い遣り、なんとか力になろうとしてくれている。
ブランシュのために、セヴランとの離婚が成立するところまで手を貸すつもりでいてくれる。
その後のことは、ノアが言った言葉通りではなかったのかもしれない。
あの時、ノアは事実を告げながら泣いているブランシュに正直に言えなかっただけなのだ。
そんな君とでは結婚は難しい、と。
そのせめてもの罪滅ぼしに、今協力してくれている。
だから、セヴランとの離婚が成立したら、ノアは『これで安心だ』と言って離れていくのだろう。
結婚しているのだと、その話をした後からよそよそしくなった。ブランシュに触れられると、ノアはそっと避ける。
ノアから触れることはほとんどない。
今もなお、ノアがブランシュを好きでいてくれたとしたら、こんな対応はされないはずだ。
ブランシュには過ぎた人だとわかってはいたけれど、心を預けきってから別れを告げられるのは苦しすぎる。
「……立ち直れる気がしない」
神様の意地悪、と何度も何度もつぶやいて、それから疲れて眠った。
翌朝、心痛のせいか頭まで痛かった。きっとひどい顔をしている。
朝食の席でノアと顔を合わせたらびっくりされた。
「体調が悪いのか?」
「大したことありませんが、少し」
すると、ノアは大きな体を屈め、ブランシュの顔をじっと見つめた。ひどい顔をしているのでブランシュは目を背けたくなった。これ以上失望されたくない。
「今日中にはシャルデニー男爵の屋敷へ着く。やっぱり君はここで待っているといい」
「でも……」
「何も心配しなくていい。すべて上手くいくから」
ノアが言うように、セヴランを捕まえることなど彼には容易いのだろう。むしろブランシュがいると邪魔なのは知っている。
「ノア様はわたしに残ってほしいですか?」
「ああ。できれば連れていきたくない」
それなら、なんのためにここまで来たのかわからないけれど、残ろう。
「わかりました。ここで待ちます」
そう言うと、ノアはとても優しく微笑んだ。
「あまり思い詰めないようにな。昼寝でもしているといい」
「……はい」
不意に泣いてしまいそうになるのを堪え、ブランシュはノアを見送った。
もう会えないわけではないのに、今生の別れのようだと思えた。




