↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡き皇帝のためのパヴァーヌ  作者: 五十鈴 りく
第2部✤花嫁によるメヌエット✤

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/49

10◇距離

 ブランシュがフィンツィ領へ行くと言って聞かない。

 ノアは連れていきたくないが、アミルカーレから連れて行けと言われてしまった。今のところ、ブランシュの証言が頼りで、その悪事を働いたのがシャルデニー男爵当人だという証拠はないのだ。

 ブランシュがいれば、その場で確認できるからと。


 それはそうなのだが、彼女に無用な苦痛を与えることにならなければいい。そればかりを心配した。

 当の本人はいつも通り無邪気だけれど。


 馬車に乗ると、ブランシュは流れる風景を楽しみながらはしゃいでいた。

 これから会いに行く相手を思えば、どうしてそう楽しそうにしていられるのかとも思う。とはいえ、水を差して無駄に思い出させる必要はない。


 ただ、馬車が進むにつれ、自分の方が平静でいられなくなった。

 どんな男だか知らないが、その存在に嫌悪感が募る。アミルカーレに殺すなと言われた上、離婚の手続きをさせなくてはならないので生かすが、やりすぎない自信はなかった。


 自分を落ち着けるため、目を閉じて心を無にする。

 すると、馬車に同乗しているブランシュがそわそわしはじめた。もっと会話を楽しみたかったのかもしれないが、今はそれも難しい。


 そのまま置物のように動かないでいると、ブランシュが隣に座り直したのがわかった。

 距離がほぼなくなって、顔が近づきそうなくらい覗き込まれている。


 こちらとしては最低限度の距離を保とうとしているのに、ブランシュはあまり気にせず振る舞う。

 残念ながら、今の二人の関係は他人だ。夫婦どころか婚約者にすらなれない。


 一度線引きを見誤ると、なし崩しに抑えが利かなくなる気がしている。

 自分から誰かに触れたいと思ったのは初めてだから。

 今はまだ、あまり不用意に近づきすぎるのはよくない。


 それなのに、ブランシュは馬車が揺れた時、ノアの肩にぶつかった。小さな悲鳴を上げ、柔らかい体でしがみつく。

 上目遣いで見上げられた時、このまま彼女を抱きしめたくなった。


 ブランシュの気持ちがノアに向いているのなら、応えてもいいはずだ。

 ――そんなことを考えつつも、理性を最後に立て直す。


「……大丈夫か?」

「近頃、こんなやり取りばっかりですね」

「近頃というか、出会った時からだな」

「そうでした?」


 そんな他愛のない会話をし、笑い合った。

 けれど、ふとした拍子にブランシュの顔が曇ったように見えた。何を思ったのか、急に、


「……ごめんなさい」


 と謝った。

 ぶつかったことに対してだろうか。むしろ、ぶつかって痛かったのはブランシュの方だ。


「いや?」


 頭くらいは撫でてもいいだろうかと思いつつも、その少しを自分に許すのはやめようと考えた。

 あと少しだから。

 問題を解決したら、障害はなくなるから。


 ――ブランシュは、それからもしばらくしょんぼりとしていた。

 食事のために近くの町に馬車を停車し、食堂へ誘う。部下たちにも一刻の自由時間を与えた。

 ブランシュは、馬車の中ほど無邪気に喜ばなかった。


「ノア様の後ろをついていきますから」


 にこりと笑うけれど、何か違和感を覚える。


「俺の視界に入っていてくれ」


 後ろだと、何かあっても気づくのが遅れる。だから、死角にいると不安になる。

 けれど、ブランシュは困惑気味につぶやいた。


「でも、ご迷惑になります」

「なんの迷惑だ?」


 意味がわからずに問い返すと、ブランシュはどこか落ち着かない様子だった。


「いえ、それは……」


 ノアの顔が怖いのはいつものことで、今始まったわけではないのだが、ブランシュが怯えて見えた。

 もしかするとここへ来て、セヴランたちと再会するから落ち着かないのだろうか。


 口でいくら平気だと言ったところで、実際に来てみたらやっぱり怖かったとも考えられる。それを言い出せなくて困っているのかもしれない。


「フィンツィ領へ行くのが不安になったなら、君はこの辺りで待っていてもいいし、引き返してもいい。無理はするな」


 そう言ってみるが、ブランシュはかぶりを振った。


「わたしが自分で行くと言ったんですよ。そんな不安はありません」


 その言葉が強がりでないのなら、何故そんなにも悲しそうなのだろう。

 ブランシュの真意を量りかねていると、ブランシュは急に明るく言った。


「大丈夫です。食堂へ行くんですよね? 時間がなくなるから行きましょう。じゃあ、わたしが前を歩いた方がいいんですね?」


 そうして、さっさと行ってしまう。

 さっきの様子はなんだったのだろう。ノアが気を回しすぎただけなのだろうか。

 とことん女心に疎いノアには推し量れなかった。


 ブランシュには食欲もあり、普通に会話をし、笑顔も見せていた。

 やはり、ノアが過敏になりすぎていただけなのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。