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亡き皇帝のためのパヴァーヌ  作者: 五十鈴 りく
第2部✤花嫁によるメヌエット✤

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29/49

6◇策略

「こ、皇帝陛下……っ」


 重たそうなマントを羽織った皇帝が、単身でブランシュの部屋を訪れたのだった。


 以前皇帝の絵姿を見て、絵師は絶対に忖度していると思ったものだが、こうして実物を知ると考えが一転した。絵師は楽しく仕事ができたに違いない。美化する必要などないのだ。絢爛な衣装がわけなく似合い、花を背負っても違和感がない。被写体としてこれ以上の人物はいないだろう。


 しかし、そんな麗しい皇帝に見惚れている場合ではなかった。

 皇帝もまた扉を閉めず、堂々と開け放ったままで入り口からブランシュに笑いかける。


「そう畏まるな。こうして話すのが初めてではないのだから」


 それはノアの中にいた時のことを言うのだ。

 ただし、あの時とは状況が違いすぎる。少なくともブランシュはノアと話していたつもりなのだから。


「……ノア様のことでお訪ねになったのですね?」

「他になんの用があってここに来るというのだ?」


 バッサリと切り返された。それもそうなのだが。

 ブランシュは項垂れるしかなかった。それでも皇帝は追及をやめてくれない。


「お前はノアのことをどう思っている? 結婚を渋るほど嫌いなら、何故死に向かうノアにあんなにも追い縋った?」

「嫌いなわけがありません。わたしはノア様に救われましたから、あんな方が死ななくてはならないなんて、そんなのは絶対におかしいって……」

「恩があるからか。しかし、何から救われたと?」


 嘆息した皇帝に、ブランシュは憤りを覚えた。

 ブランシュにとって皇帝はそんな感情を向けられる対象ではないはずなのだが、腹立たしさが込み上げてくる。ブランシュは小さな声でボソボソと言った。


「――じゃないですか」

「うん?」


 何か、いろんな感情が混ざり合ってブランシュの中で決壊した。ブワッと涙が溢れる。


「だって、皇帝陛下はわたしの味方じゃないじゃないですかっ!」

「何故そう決めつける? 私は民の味方だがな」


 泣かれたのが堪えたのか、皇帝が僅かに怯んだ気がした。ブランシュは止められなくなって皇帝を責めてしまった。


「わたしの味方なんてしてくれていません! してくれていたら、なんでノア様の婚約者を探すんですか! それもあんな綺麗な人を……っ」

「それはお前が煮えきらないからだ」


 ムッとして言い返された。その通りだが、腹も立つ。


「煮えきれない事情があるんです!」

「それなら、その事情とやらを教えろ」

「教えたらノア様に言うでしょうっ?」

「面倒なことを言うな。お前はどうしたいのだ?」

「どうって……わたしだって、できるならノア様と結婚したかったんです!」


 皇帝相手に真剣に喧嘩してしまった。

 皇帝は怒っているというよりも呆れているように見えたが、ブランシュではなく部屋の外に首を向けた。


「面倒すぎて手に追えんが、一応そういうことらしい。あとは自分で話を詰めろ」


 ギョッとすると、部屋の入り口に細長い影が落ち、ノアが顔を覗かせた。そして、もう一人。

 ミュリエルがいる。


 ブランシュが愕然としていると、皇帝はミュリエルの柳腰に手を回した。


「これは私の后のオリヴィアだ」

「はっ?」


 しかし、オリヴィアはホホホ、と笑っている。


「ミュリエル様ですよね?」

「なんのことかしら?」


 嘘つきが二人いる。いや、あれは皇帝の差し金だ。

 ブランシュが震えていると、皇帝はノアを前に押し出し、扉を完全に閉めてしまったのだった。


 ノアは照れたように一度ブランシュから目を背け、それから今度はまっすぐにブランシュを見つめた。


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