19◆共に戦う
ノアが屋敷から去って、バルテスと二人になった。
バルテスはブランシュが泣くから泣けなかったのかもしれない。ポツリ、ポツリと語った。
「ノア様らしいと言うしかございませんな。カロン――ノア様の飼い犬ですが、カロンが他の人間に懐かないように、私もまた他の主を持つつもりはございません。我が主の最後の願いでございますから、あなたのことはこの老いぼれが責任を持って落ち着けるところをお探ししましょう」
ブランシュは、顔を覆っていた両手を放し、涙を拭いてバルテスを見据えた。
泣いている場合ではないのだ。ただ泣くだけならいつだってできる。それどころか、このままでは今後泣き暮らすことになる。
「らしいとか、らしくないとか、そんなのはいいです。バルテスさん、一緒に帝都へ行きましょう」
「な、なんと?」
「ですから、一緒に帝都へ行きましょう。まだ何か解決策があるかもしれないじゃないですか!」
バルテスは信じられないものを見るような目でブランシュを見返した。それでもブランシュは目を逸らさなかった。
「大事な人なら諦めてはいけませんよね? 諦めるって、もう二度と会えない、戻ってこないってことなんですから。皇帝陛下を亡くされてご自身は悲しんでいるのに、ノア様は自分がバルテスさんに同じことをしているって、ちっともわかっていないんです」
「し、しかしですな……」
「じゃあいいです。わたしだけ行きます。バルテスさんは残ってどうぞ思い出に浸っていてください」
失礼な態度を取る、分別のない小娘に疲れたのか、バルテスは深々とため息をついた。
けれど、目を伏せて覚悟を決めたらしい。
「あなただけで帝都まで辿り着ける気がしません。誰か、カロンと屋敷の留守を任せられる者を呼びますから、出かけるのはそれからです」
「ありがとうございます!」
ブランシュはバルテスの手を力いっぱい握った。多分、痛かったのだろう。顔をしかめられた。
バルテスが呼んできたのは、つい先日までこの屋敷の料理人だったという女性だ。恰幅がよく、背も高い。
「他の人にも声をかけてきましたよ。皆、ここの居心地がよかったんだから、戻ってきたいみたいでしたし」
「もちろん、ノア様がおられないことにはどうにもならない。一縷の望みに縋るしかないが、やれるだけのことはやろう」
「バルテスさんがそんなふうに仰るなんて」
そう言って女料理人は笑った。そして、ブランシュにも目を向ける。
「旦那様をよろしくお願いしますよ、可愛らしいお客様」
「は、はい!」
ここへは、セヴランから逃げ隠れするために赴いたのに。
気づけば自分でも驚くような状況の中にいる。
それでも、何故だか自分が生きていると強く感じた。
そして、生きていたいと確かに願える。
それらがすべてノアのおかげなのだということをわからせたい。




