カラカラになるまで
「……舐めてたわ」
階段を登り、祭り会場の神社に到着した俺は、ただただ圧巻させられた。左右いっぱいに並べられた屋台の数々。そしてその屋台の数の何十倍もの人間がごちゃごちゃと歩いていた。
早い話、「すぐには見つからない」状態だった。
「迷子センターってあるのか?」
「あるとは思うけど……どこにあるかは……」
あたりを見回しても、それらしき場所は見当たらない。むしろそこに行くまでにまたはぐれる可能性もある。
下手に動くのは危険だ。このまま迷子コールが流れるのを待つのが懸命かもしれない。
「そうね。じゃあどこかで座って――」
「う、うううう……!」
そんな俺の考えが読み取られたかのように、女の子は目に涙を浮かべた。何人かは気づく者もいたが、決して話しかけようとしない。
「あっ、だ、大丈夫、大丈夫だよぉ!」
女の子を抱きしめ、「幼なじみ」は優しく頭を撫でる。膝をつき、浴衣が汚れることも気にせず、だ。
「……………………ああもう!」
これはあくまでも俺自身のためだ。俺はしつこいくらい、なんども自分にそう言い聞かせ、女の子の前にしゃがんだ。
「りなちゃん」
俺は女の子に、一つ「お願い」する。それを受け入れてくれる可能性は、かなり低い。だが、問題解決する可能性はかなり高かった。
「は? あんたなにを――」
「……うん」
女の子はぐずりながらも、俺のお願いを受け入れてくれた。俺は覚悟を決め、女の子に背を向ける格好で、しゃがんだ。
「いっせえ……のーで!」
掛け声とともに、俺は女の子を肩車して立ち上がる。その際、多少足がふらついてしまった。
「気をつけて」
それを「幼なじみ」が支えてくれる。俺は目配せで礼を言い、すーっと大きく息を吸いこみ、恥も外聞も関係なく、「朝桐さんとの約束を果たすため」という理由から、思い切り叫んだ。
「りなちゃんのお母さんはいらっしゃいますかああああ!」
「本当にありがとうございました……!」
ペコペコと女の子の母親は、俺と「幼なじみ」におじぎをした。
「そんな、当たり前のことをしただけですよ」
俺に代わり、「幼なじみ」が受け答えしていく。その間、俺は息を整えた。
俺の肩車大作戦は、予想通り大成功を収めた。そりゃあ、周りからはアホみたいに叫ぶ俺に対し、奇異の視線を向けられたりした。だが逆に言えばそれは「目立つ」ということでもある。俺はタガが外れたかのように、何度も何度も叫ぶ。
息が切れる、喉が渇き出す。それでも俺は声を出し続けた。
「いませんかああぁ!」
次いで、「幼なじみ」も声を張り上げた。顔は真っ赤で、俺より声は小さい。それでも一生懸命だった。
「りな!」
その恥ずかしさが報われたのは、数分後だった。女の子の母親らしき人物は俺たちの元へ駆け寄ってきた。女の子はするりと俺の肩から下りて、母親に向かっていく。
二人が感動の再会を果たしたところで、ぱちぱちと周りから拍手が起こった――。




