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俺が彼女に告る理由  作者: 本間 甲介
理由その4~夏祭り(メインイベント)~
21/39

人生初の……

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとう!」


 女の子は母と再会できた嬉しさからか、満面の笑みで俺たちに手を振る。俺たちも同じように手を振った。


「もう、一人で歩いちゃダメよ」


「うん! バイバイ!」


 女の子は母親にしっかりと手を握られ、人混みの中に消えていった。


「良かったあ……」


 溜め込んでいたものを一気に吐ききったかのように、「幼なじみ」はふにゃふにゃと体から力を抜いた。


「おっと」


 とっさに俺は手を伸ばし、「幼なじみ」を支えた。


「ありがと。それにしても……あんたってたまーに突拍子もないことをするわよね」


 いたずらっ子のような顔で、「幼なじみ」は俺を見上げる。


「あれが一番手っ取り早いと思ったからだよ」


 あくまでも合理的に事を済ませただけ。クールに言うものの内心はかなり悶え苦しんでいた。


「そういうおまえだって、よく声出したな」


「べつに、あんたと同じよ」


「そうですか……あっ」


 いったん記憶の隅っこに置いてあったものが真ん中にやって来る。俺はスマホの電源ボタンを押し、時間を確認する。サーッと血の気が引いた。


「――やっべえ!」


 大慌てで、俺はスマホをしまい、「幼なじみ」に何も言わずに階段を駆け下りる。


「カズ! 本当、ありがとねー!」


 背後で「幼なじみ」の感謝の声。俺は背中を向けたまま、右手を上げることでそれに応じた。


「くそっ、やっぱりろくなことがねえ!」


 今回に至っては、俺が自ら首を突っ込んだことは間違いない。それでも俺は、そう言わなきゃ気がすまなかった。


 体感時間と現実時間はやはり違う。十分そこらの出来事だと思っていた「迷子探し」は、実際はその五倍だった。つまり、待ち合わせ時間はとうに過ぎており、最悪なケースとして、朝桐さんを二十分は待たせたかもしれない。


「走らないで下さい!」


 履きなれない下駄で、少しでも早く階段を降りようとした俺に、警備員らしき人が注意する。


「…………っ!」


 警備員の言うとおり、登ってくる人が多い中でスピードを出すのは、危険だった。


「すいません、急用です!」


 ……が、そういうわけにもいかない。俺は警備員に謝り、なるだけ人のいない端っこの方に移動し、再び速度を上げる。


「ごめん、ごめんなさい? 下見に時間がかかって、実家がこの上で……」


 あらゆる言葉(言い訳)を考え、俺は階段をただ下りる。その途中、思い切り足を踏まれたが、痛みは感じなかった。


「はあ……はあ……」


 そして、地蔵前に到着。俺はすぐにスマホを操作している、朝桐さんの姿を見つけることができた。


 淡いピンク色の、桜が描かれた浴衣。長い髪はくしでまとめ、薄化粧をしていた。可愛すぎる……! 


「あ、皆見くん」


 ポーッと見とれると、朝桐さんの方が俺に気づいた。俺は慌てて朝桐さんの元へ向かい、


「ごめんっ!」


 誠心誠意、謝った。


「…………許しません」


 ガツンと頭に衝撃が走る。心の底では、「謝れば許してもらえる」……そういう気持ちがあった。だからこそ、朝桐さんがそう言われるのが、精神的ダメージが大きかった。


「あ……ははは……ごめん、ごめんなさい」


 言い訳は一切しない。俺は失意のどん底に落ちた声を出し、ひたすら朝桐さんに謝り、朝桐さんの視界から消えようとした。


「ま、待って下さい!」


 ガシッと手を握られる。振り返ると、朝桐さんは焦った顔をしていた。


「わ、わたしが許さないって言ったのは、遅れてきたことじゃありません!」


 そう言って朝桐さんは、俺の目の前でしゃがむ。そして、俺の足に手をやった。


「ひゃっ!」


 普段自分でも触られない部分に触れられ、俺は変な声が出る。くすぐったいというより痛い……痛い?


 俺は目を凝らし、足元に目をやる。右足の親指と人差し指部分の間から、じわっと血がにじんでいるのが見えた。朝桐さんはそこに、ハンカチを優しく抑えていてくれた。きれいなハンカチが俺の血で使い物にならなくなっていく……。


「ごめん……」


 四度俺は謝る。朝桐さんはハンカチを指の間に詰め込み、立ち上がった。


「遅刻を怒っているわけじゃありません! 怪我したことに怒っているんです!」


「あ、そっち?」


「そっちです!」


 朝桐さんはむうっと頬をふくらませるようにして、俺をにらむ。初めて俺に見せられる怒りの表情。朝桐さんには悪いが、それすら可愛かった。


「いや、この傷はけっきょく遅刻した俺への罰! だから仕方ないことなんだよ」


「……皆見くんは、優しいんですね」


「え?」


 一転して、朝桐さんは優しい顔になる。朝桐さんはスマホを見せた。


「これ……」


 宛名は「幼なじみ」からだった。そこには【一緒に迷子探してたから怒んないでね】と書いてあった。


「皆見くんが、理由もなく遅れない人なのは知っています」


「あ、でも遅刻は遅刻――」


「怪我される方が、つらいです」


「……そうだよね。ごめ……ありがとう」


 ここまで言われて、謝るなんてそれこそ嫌がらせだ。俺は血を止めてくれたことに対し、礼を言った。

「じゃ、行こうか」


 俺は気持ちを切り替え、夏祭りを楽しむことにする。


「ゆっくり行きましょう。はい」


 先に階段の三段目くらいまで登った朝桐さんは、俺に手を差し出す。これはもしや……。


「どうかしましたか?」


「ううん。ありがとう」


 俺は彼女に右手を差し出す。朝桐さんはそれをガッチリと握りしめ、ぐいっと引っ張るようにして、階段を登り始めた。


 怪我した俺を心配してという、介護的な要素が大半を閉める。それでも俺は人生初、「女の子と手を繋いで歩く」が実現させ、天にも舞う嬉しさだった。


 これが、第三の理由…………なのだが、そこにさらに付加要素を付け加えると、祭りでの朝桐さんの色んな姿を見たからだ。

もう少しこの章は続きます

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