揺れる心
夕暮れの校庭に、風がそっと吹き抜ける。教室の窓から差し込む橙色の光は、床に長い影を落とし、机や椅子を柔らかく照らしていた。放課後の時間、私の心もまた、静かに、しかし確実に揺れていた。
Sは隣の席に座るわけでも、特別に話しかけてくれるわけでもない。だけど、今日の放課後、廊下ですれ違った瞬間や、掃除の時間に交わしたささいな会話、そしてほんのわずかな触れ合い——それらすべてが胸に焼き付いて離れない。触れられない距離、でも確かに隣に存在するS。その存在感が、私の心を激しく揺さぶるのだ。
「……S、好き……なの、かも」
心の中で、何度もつぶやく言葉。誰でもいいわけじゃない。Sだから、私の胸はこんなにも高鳴るのだ。言葉にできず、ただ胸の奥で静かに燃える想い。それが切なく、甘く、そして少し痛い。
掃除の終わり、Sがふと私の方を向き、微笑んだ。
「ありがとう、A。今日も手伝ってくれて」
誰にでもかける言葉かもしれない。でも、私の胸には、まるで魔法のように深く刺さる。距離が近いだけで、言葉はこんなにも重くなるのだと、私は痛感した。
心の奥でざわめく感情を抑えようと、机に手を置く。けれど、Sの指先がほんの少し触れた瞬間の感触が、まだ手のひらに残っている。偶然か、必然か——それはどうでもよくなるほど、胸の奥が熱く、息が詰まるような気分になる。
廊下に出ると、Sは友人と話しながら歩いていた。視線が交わる。Sは軽く微笑み、私に軽く会釈をした。その一瞬のやり取りで、心が跳ね、胸の奥が締めつけられる。触れたい、声をかけたい。でも、Sにとって私はただ隣にいるだけの存在——その現実が、さらに胸を苦しくさせる。
帰り道、街灯の光に照らされながら歩く私の心は、まだ揺れ続けていた。触れられない距離、でも確かに近くにいる存在。その矛盾した状況が、私の胸に甘くて切ない痛みをもたらす。誰でもいいわけじゃない、Sだから——その思いは、揺れる心をさらに強く、鮮明にする。
夜、布団の中で天井を見つめる。今日のSの笑顔、仕草、声——すべてが胸に刻まれて離れない。触れられない距離のもどかしさ、伝えられない想い。それでも、Sの隣にいたいという気持ちは変わらない。揺れる心は、まだ止まらない——それが恋の切なさであり、甘さでもあるのだと、私は痛感する。
そして心の奥で、静かに誓う。
「誰でもいいわけじゃない……Sだから、私の心は揺れる」
明日も、Sの隣にいられますように。触れられない距離でも、そばにいるだけでいい——そんな気持ちで、私は目を閉じる。




