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「お父様!? どうしてこちらに?」
シャンレイたちはお互いにゆっくりと歩み寄った。私とシャンレイの侍女のリージェは彼女の後ろについていく。あちらも男性二人の後ろに執事らしき初老の男性がついてきている。反応を見るに、どうやら筋肉だるまの方がシャンレイの父親のようだ。
私たちが通った後は並んでいたメイドや侍従が馬車へ向かい荷物を下ろしていた。まあ、リージュはメイドとは言っても召使いではなく侍女だから、下働きがこんなにいるなら荷運びなんてしないのだろう。
「それで、シャンレイ。そちらの女性を紹介してもらえるかな?」
召使いなんて見る経験がなかったからついつい観察するばかりで、彼女たちの話を聞き流していたが、何やら私にお鉢が回ってきたらしい。
「ええ。こちらはサラ。賊に襲われているところを助けていただきましたの。こう見えて、凄腕の魔術師殿ですのよ。助けていただきましたし、是非にと同行いただいたのですわ」
私はそっと目を伏せ会釈した。こういう時は直接上位者に話しかけないのがマナーらしい。ここの領主なのだし、人間社会のマナーを守っておくことに越したことはない。
それにシャンレイが私をここに連れてきたのは訳ありだと伝わったようだった。
「ほう。では我が家としてお礼しなければね。サラ殿と言ったか。もしこちらに滞在される予定なら、好きなだけ館で過ごされると良い。シャンレイが賞賛するほどの魔術師殿ならこちらとしてもいつでも歓迎だからね」
「感謝いたします、領主殿」
シャンレイの父親が笑顔でこちらに言う。当分の間の仮宿を確保できたのはありがたい。
すると、領主の隣の、細マッチョの男性の方の手元で微かに魔力が揺らいだ。
これは、わざと私に魔術の兆候を漏らしているのかな? どうもそよ風が吹くだけの簡易の魔術だ。この程度の魔術に三秒以上も時間をかけてるとはいえ無詠唱だから、現代の感覚ではそれなりに腕のある魔術師なんだろう。今の時代、無詠唱が使える魔術師は少ないらしい。昔は基本だったのだが。
さて、腕試しだ。私はその魔術が効果を発する瞬間に全く逆方向の微風を吹かせる魔術を使うことで魔術の効果を打ち消した。
すると男はニヤリと笑って、次は少し光るだけの魔術を編む。これも同様にして打ち消す。
それで今度は私がそよ風の魔術を使った。もちろん相手に合わせてゆっくりと、魔力を揺らしながらだ。男は気づいて、私の魔術を打ち消した。
今度は男が先ほどよりも素早く魔術を使った。今回もそよ風だ。さっきと同じように打ち消す。
今度は私が先ほどと同様にそよ風を吹かせる。そしてこれも打ち消される。
このやりとりを何度か繰り返すと次第に男の顔に焦りが見え始めた。まだ一秒も時間をかけてゆっくりしているのに。
徐々に私から彼へ風が吹き始めた。男が私の魔術を打ち消せなくなってきたのである。それにいよいよ追い詰められてキツそうな顔をしている。
ここら辺が限界か。
私は男が最後に使おうとしていた魔術を、効果が発揮される前に妨害した。魔力を無理やりかき乱したのだ。男が使おうとしていた魔術はたやすく分解された。
そして最後にほんの一瞬のうちに魔力の揺らぎなく風を吹かせた。
男は汗びっしょりで膝をついた。周囲もこちらに注目している。
まあ、アピールは十分かな? ちょっとこちらの腕を見るつもりだったんだろうけれど、こちらも現代の辺境の魔術師の水準が見れたし、結構楽しかった。
「魔術を使うときは《強化》を併用したほうがいいんじゃないかな。でないと今みたいに簡単に吹き散らされる。あと、ゆらぎはもっと抑えたほうがいいよ。バレちゃうからね」
「り、りぃんふぉおす、ですか?」
「もしかして《強化》……強化術式も伝わってないのかい?」
単純に魔力で魔術を保護して、外部からの魔力干渉に強くするだけの拡張術式だ。英語風に言ったのは現代語ではなく魔術言語の発音に依っているからだが、現代語に直してもこの反応ではさては知らないな?
どうやら現代というのは随分魔術が未熟らしい。単純な速度や魔力量だけが追求されてきたんだろうか。
アドバイスのつもりだったのに、もっと初歩からやらないといけないみたいだ。
「兄上、どうやら彼女はとんでもなく凄腕の魔術師です。私が今すぐ師事したいくらいには」
「ううむ、辺境一の魔術師であるお前でも敵わんか。お手柄だな、シャンレイ。よく連れてきてくれた」
なるほどなるほど。これは魔術の講師でもすれば職に困らなさそうだね。
……やるかは別にして。




