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わがまま王女の迷宮譚  作者: marvin
宮廷講義(4/6)
24/48

種族と多様性

「今日こそ魔竜戦争の話だぞ」

 クラン・クラインが教壇に立つなり、キャスロードは椅子を蹴って立ち上がった。

「さて、どうしたものかな」

 講義室の後ろ立ったパルディオが、嶮しい顔で睨んでいる。腰に手を当て、平らな胸を張るキャスロードは、挑戦的な目を向けた。断じて引かない構えだ。真偽はどうあれ、英雄譚が好みなのだ。

「仕方ない」

 史実を交えて茶を濁そうか。

「では、前段の話をしよう、魔竜戦争の関係者について」


 四〇〇年前の戦争は、三尾の古竜(ガロア)がリースタンを弾劾したことに始まる。因みに、竜種も巨人も位があって、言葉の通じる手合いはひっくるめ、古竜(ガロア)巨人(ギガス)と呼ばれている。

 古い順なら古種と幹種の類が先にあり、真竜(アドミネータ)古巨人(カルティベータ)は支配種だ。それらは魔術師と同様に真名があって、長々と生き死にもせず、決められた数だけが常に存在している。

 事の初めにワーデンに巨人を寄越して恫喝したのはアステリアの古竜だ。今はリースタンの南、大陸の中央にある封地の管理に就いている。当初は問答無用で消し飛ばすはずが、焼きが回って交渉と相成ったのは、調伏の姫(アフェリア)の決意に屈したせいだ。

「待てい」

 キャスロードが制止した。先から席を立ったままだ。

「竜と巨人を率いて攻め込んで来たのは、魔導士(イプシシマス)フースークだぞ」

 そんなことも知らないのか、とばかりに責める。英雄譚の類は得意分野だ。ラスワードは英雄に連なる血統なのだ。同様に英雄譚を嗜むマリエルも、今日ばかりは目が爛々と冴えている。


 思いの外の反発に、分が悪いと踏んだクランは、さっさと話題を変えてしまった。

 件の封地アステリアは、人の世の前からある古い場所だ。世界は古竜と巨人が治め、次いで夜族(ナイトレイス)猫族(ケット・シー)が入植した。アステリアはいまだそんな場所だ。

 夜族、猫族は古竜の従属者であり仲介者だ。二本足で歩く点では人にも近い。もっとも、猫は見た目にも猫でしかないが。彼らも数は大きく減ったが、シンやテランの一部にはまだ集落がある。

 二種族とも、基本的に人と住処を分けている。一部の猫族は竜から人に主を代えて、シンでは共に暮らしている。ただし、夜族は聖堂に迫害された歴史もあって、交流はほとんどない。


「立って喋るの猫なのだろう、リースタンにはいないのか?」

 抑えきれない好奇心に悶えてキャスロードが口を挿んだ。

「債権王の客人にシンの要人がいて、そのお供が猫族だったな」

 さも見て来たような調子で応えるクランに、キャスロードが声を上げる。

「大陸の反対側ではないか」

 債権王の治めるテランは遥か南方の連合国だ。独特の文化を持つシンは、さらに南西の島国だった。軽々しく行ける場所ではない。猫にときめいたキャスロードは不満に頬を膨らませた。

「王女殿下にあらせられましては、表敬訪問でもすればよろしい」

 クランが丁寧に馬鹿にする。

 おほん、と喋るような咳払いをして、パルディオがクランを睨んだ。気まぐれに外遊を唆すなど言語道断、とは建前で、本音は王女のわがままを諫める気苦労を惜しんだに違いない。

 クランは肩を竦めて見せた。

「巨人ならマグナフォルツにいますよ、殿下」

 マリエルが無邪気に言った。確かに、隣国には有名な巨人(ギガス)の生息域がある。しかも、今も戦乱の真っ只中だ。パルディオが呻き、コルベットが呆れたようにマリエルを突ついた。

「ぺしゃんこにされるのがオチだわよ」

「しかし、巨人を斬って修行したと師匠が言っていた」

「あんた、自分が戦いたいだけでしょうが」

 キャスロードがすっくと席を立った。ふんす、と荒い鼻息を吹く。

「いや、このさい巨人で手を打とう、巨人討伐だ」

「殿下」

 パルディオが思わず声を上げた。もちろん、その声はキャスロードの耳に届かない。

「武器が必要だな、鎧もだ」

「師匠は剣でしたが、殿下には槍を用意した方がよろいいでしょうか」

「炸裂槍はだめだよ、巨人の心臓は高く売れるんだから」

 キャスロードとマリエル、コルベットまで加わって、喧々囂々の遠征計画を立て始める。

 クランはぼんやり、そのさまを眺めていたが、気づけば、全ておまえのせいだ、と言わんばかりにパルディオがクランを睨み付けていた。さすがにそれは、とクランは慌てて首を振る。

 巨人討伐会議を挿んだ講義室の前と後ろで、クランとパルディオは、どちらがキャスロードを諫めるか、身振り手振りで言い争った。当然、誰もこの状況を止める者はなく、講義はそこで中断してしまった。

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